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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
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コウスが倭台の津へ入ると聞き、帝は迎える準備を

「マキム天皇の第二皇子が恵枇えびの国主を討伐し、己実みみの船で当方に向かっており、明後日には津に到着すると、伝助の報がありました。人数は十一名と聞きました、どう致しましょうか。」


 まだ討伐応援部隊の半数が、陸路を戻る途中だ。それなのに纏向の皇子が、先に到着すると聞いた帝は驚いた。


「明後日に到着か、早いな。皇子は応援の返礼と討伐の報告に来られるのだろう。船を使って見えられるとは、考えたものだ。トウ・リンからは皇子ひとりで派手に戦い、見事討ち取ったと聞いたが、どんな勇ましい男か、会うのが楽しみだ。」


 帝は倭台津の桟橋一本を確保して、役人二十人、兵百人で迎える準備をするよう側近に下命し、随臣二人にマキム天皇と同等の歓迎準備を下命した。


「二日間の盛大な宴を、接見の室で行う。纏向大王の皇子が恵枇の国主を討伐し、来訪するのだ。手落ちがないよう心して準備せよ。」


十三

 倭台市行きのコウス一行は瑪島めしまを過ぎて、正面の狭い海峡に向かって進んでいる。いよいよ暗くなり、船を打つ波の音が絶え間なく聞こえ、空には満天の星だけが瞬いている。今夜は船で泊まる。


 二日目の夜が明け、青黒い空に白い雲がやけに輝いている。船は羽経はねけの津を通り過ぎるところだ。

 船長と調理人五人が、朝餉を抱えて屋形を訪れ、入口に四人分の膳を置き、調理人は別部屋へ配膳に向かった。


「お早うございます。船は揺れましたが、眠れましたでしょうか。朝のお食事をお持ちしました。ここからは向かい潮になりますので、日没前に乞志こむね津で、漕手を休ませるため船を停泊致します。それまでごゆっくり、海や景色、空を行き交う鳥などを楽しんでくだされ。」


「朝早くからご苦労でござる。さっそく食事を、有難く戴こう。」


 シモンが膳を受け取り、コウス、マイヤの前へ並べる。伝助のツキノは茶を淹れる。幅の広い船なので、船長が心配した揺れは感じなかった。


 コウスは船底から聞こえる漕手掛け声を聞きながら、長い距離を漕ぐ苦労や体調が心配になり、それとなく船長に問うてみた。


「ここから向かい潮ときいたが、一睡もせず二日の間、休まず櫓を漕ぐ者たちには酷ではないか。」


「この船は漕手が七十人乗っておりまして、二時毎に三十人が交代しております。十人は主に舵取りと船の点検役ですが、誰かが不調になれば漕手にもなります。」


 右側は果てしない海で、はるか遠くの水平線まで何もない。左側は高い山々が朝日を浴びて連なり、山麓に集落が点在し、海には漁に励む大小の船が十隻ほど浮かんでいる。


 日が天頂に昇った時分、調理人だけで昼餉が配られた。船長は忙しいのかと尋ねると、もうすぐ乞志津に入るので準備をしていると、調理人のひとりが答えた。


 日が沈む一時ほど前に、停泊する乞志津に着いた。桟橋が二本しかない小さな津で、小さな漁船が数隻停泊し、獲った魚を下ろしている。

 早く戻った船から順に、奥にある作業場で獲った魚を仕分けし、直ぐその船で各地へ出て米や野菜、薬草などに換えて戻るそうだ。


 船が係留されると船長が来た。この津で一泊すれば、明日夕刻には倭台津に到着するので、二騎の早馬で倭台津到着を、知らせに走ったと説明した。


「お疲れ様でした。乞志には宿舎がございませんので、今夜も船中で一泊お願い致します。まだ一時ほど明るいので夕餉の御支度が整うまで、海岸を散策などなされますか。よろしければご案内致します。」


 昼餉を食しながらコウスが、この地の暮らしを見たいと言ったので、マイヤが全員で散策をしようと、決めた。


「船も心地良いが、大地に足を下ろすと気持ちが落ち着く。ぜひ案内を願いたい。」


 乞志の海岸辺りを歩いていると、農耕の取り仕切りをしている男の話を聞く機会を得た。


「ここは山が海岸に迫り出して平らな場所が少ないため、米が作れず、穀物は粟、稗、蕎麦などの栽培に頼っております。しかし魚に比べて価値が低いので引手が少なく、仕方なくこの地で炊いたり蒸したりして、主食にしています。」


「それは辛いな。米や野菜は魚と交換して凌いでいるのか。」


 コウスは気の毒に思ったが、男は話を続ける。

 近年は山芋が収穫できるようになり、またいのししや狸、野兎のうさぎの肉が評判になって、暮らしが少し潤い始めたと胸を張った。


「漁業だけに頼らず、きびしい土地をり繰りして新たな産業を生み出す、その姿勢と努力は立派だ。この地はきっと豊かになる。」


 民が厳しい土地環境に負けず、新しい交易物を作り出すとは……。於訳と同じように、生きる糧を追い求めている。行く先々で勉強になると、コウスは思う。


十四

 一夜明けると、冷たい雨が降っていた。空はどんよりした雲に覆われて暗い。

漕手は十分に休息を取ったのだろう。威勢の良い掛け声とともに、ゆっくり船が津を離れ、雨で見通しが利かない青黒い海を進む。


 ここから倭台市まで、あと十四里。向かい潮と船長は言ったが、船は速度を増している。この調子なら夕刻の明るいうちに到着するだろう。


 一行の十人は、コウスも含め初めて降り立つ市で、辰韓人が開き繁栄した市なので、全く見当がつかない。

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