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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
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申し付けは済んだが、倭台軍が応援に来ていたと聞き

「当代として今後の事は、何も分かりませんが皆の意見を聞き判断して、倭南州の統制が乱れないよう、そして周隣の民との共存共栄に勤めたいと存じます。」


 言い終わったコルノは、深々と頭を下げる。コウスは恵枇で優秀な連隊長だったと思い、何より広く目配せができる考えに感心した。


「当代を助ける政務官の希望者が三人、自ら進んで名乗りを挙げたのか。其方の人望は厚いようで、これは重要な特長だ。当代はコルノに任命する。さて次は、軍隊長だ。」


 軍隊長候補は肩幅が広く、立てば六尺を越える身の丈があろう男だ。コウスに深く一礼して、大きく息を吸い込んだ。


「拙者が軍隊長に推挙されました、リ・シアムと申します。先の恵枇タケル国主の側近として、剣、槍、弓、さらに格闘術も指導を受けたひとりとして、推挙を賜りました。」


 この男は人で、生粋の武術士だ。荒くれ者の一員だったら曲者だが、武具や戦略術を学んで倭南州のために働くなら、逆に適しているだろうとコウスは思った。


「倭都タケルのみこと様の足元にも及びませんが、修練して強い兵を育て、倭南州の平穏に役立てれば喜びです。」


 武力を試していないので知らないが、武術一徹の男を恵枇の当代が必要としなかったのか、マイヤは不思議に思い問うてみる。


「先の恵枇タケル国主の側近なら、なぜ恵枇州に帰らなかったのだ。」


「拙者は独り身で、恵枇に家族がいないことと、この地に住み続けて好きになったこと、そして倭都タケルのみこと様に憧れているためです。」


 難しいことは考えない性格だろうが、単純で一途な特徴を生かせば役に立つ。


「其方の真っ直ぐな性格は、吾も好きだ。軍隊長はリ・シアムに任命する。決して自身のためではなく、倭南州を狙い脅かす賊から兵や周隣の民を護る、立派な武術指導者になるように。」


 残留者の対面と所信の弁、政務者の面接、倭台軍の応援情報とその対応で、慌ただしかった一日が終わった。

 真っ暗になった道を、任命された五人が提灯を掲げて騎馬で帰った。


 まつりごとの沙汰をすべて終え、茶を啜って一息入れていると、マイヤが傍に来て、コウスの耳元で囁く。


「実はトウ・リン将軍が率いた倭台軍が、応援に来ておったそうです。兵は五百人で、我々が火良村に着いた八日後に、隈伊くまい集落に入って滞在し、決戦の日を窺っていたと聞きました。コウス皇子が女人間者に扮して、恵枇の国主を討つ作戦も知っていたようです。」


「倭台軍が兵五百人もの大軍で応援に……か。それは誰から聞いた。我々の動きと作戦を、どうして知ったのだろう。天皇か針間が、ハル・サイマ帝に伝助を走らせたのか。」


「隈伊で縄を撚っている者が、シウリ首長へ知らせに来たそうです。しかし征西隊もシウリ首長も砦へ出発した後で、代理で聞いたモミシと申す村人が戻ってきたシウリに報告し、先ほど拙者の耳に入りました。帝が我々の情報を受け取った経緯は、聞いておりません。」


 マイヤの推測は、何か理由があって密かに出動したのではと言う。


 倭台市の帝が、コウスが斬られたり討伐を失敗したり、最悪になった場合を考えて、五百人もの大隊で応援に向かわせた。

 帝は恵枇の焼き討ちで、犠牲になったカマチ政務官の仇討ちもあり、恵枇軍を殲滅する腹だった。


 倭台軍は隈伊集落で状況を見ていたが、征西隊が一方的に勝利したため、隈伊の者に言付けをして、黙って引き返した。

 何故トウ・リン将軍は、征西隊に一言の挨拶も祝辞もなく、村人への言付けだけで引き返したのか。コウスは、これが解せないとマイヤに言った。


「拙者が思うに、当方が緻密な作戦と徹底した手配を凝らし、順当に火良村まで来て、潜入も果たしたので、途中で新たな応援部隊が加われば、作戦と実行を乱すとの気遣いかと。決戦の様子を見て、情勢が危うくなれば駈け付ける手筈だったのでは。」


 だが村人に言付けをしたのは、倭台軍が応援に来ていたぞと、知らせるためだ。このまま立ち去る訳にはいかない。

 コウスはハル・サイマ帝の手配と気遣いに、感謝の意を示さなければと考えた。


「申し付けは済んだ。明日、吾は倭台市へ出向いてハル・サイマ帝に会う。応援に出て戴いた感謝を述べて、今後の倭南州の安定も託す。しばらくは兎農と倭台市から政務者の目付人を、ひとりずつ置く必要があるためだ。」


 マイヤは納得し、倭台行きの準備をすると言った。


「直接お会いするのは賛成ですが、コウス皇子はお疲れです。今夜は十分にお休みになられて、明日の昼にでも出発されてはいかがでしょう。従臣、警護兵を誰にするかお決め頂ければ、倭台市へ伝助を走らせ、出発の手配をいたします。」


 温かくした集会場に、遅い夕餉が配膳された。その膳に尾頭付きの焼いた鯛が添えられていた。総勢四十六人が座ると集会場は少し窮屈だが、珍しい鯛に誰の目も釘付けだ。


「華やかな膳ですね。シウリ首長、なぜ鯛が乗っておるのですか。」

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