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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
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信頼する兵三人を選び部屋へ来いと、王がコウスに

「失礼致します。」


 急須と四人分の茶椀を持って、ニコルが入室した。マイヤの横で茶を淹れながら、小さな声でコウスの状態を聞く。

 マイヤが元気になったと答えると、心配顔が笑顔になって、淹れた茶を看護の三人に配り、布団のコウスには茶碗を手渡す。コウスの指を、ニコルの指先がそっと包んだ。


「良かった。では、ご伝言があります。日が天頂に昇る前に、昨夜の大広間にお越しくださいとのことです。昼餉を召し上がりながら、そこで明日の出立編成や、マイヤ様が宴でおおせになられた指令系統などを話し合います。コウス様もご参加いただけるかを、伝えねばなりません。」


 ニコルの笑顔と、触れた指先の感触が快く残り、いっそう体調が良くなったコウス。茶を啜ると両手を上に広げ、大袈裟に元気になった姿を示して見せた。


「コウス様は船に揺られるのが、苦手でしょうか。針間津から未羽みわ津までの陸路七十里は余りにも長く、悪天候や不意の災難、病いや怪我でも負えば、討伐の機会を逃すかもしれないので、尾道おどうまで船で行けと、ハリマ王の御進言がございました。漕手四十人の船なので、向かい風でも速いそうです。」


「船に乗るのは好きだ。感動さえ覚える。王のご厚意を受けたいと伝えよ。」


 茶具を片付けたニコルが部屋を出ようとすると、マイヤも付いて出た。明かり取りの窓がないので、この部屋では日の昇り具合が分からない。

 コウスは世話役の女人に案内を頼んで、中庭を臨める長い廊に出た。廊では役人や荷役人が固まって、何やら作業している。


 昨日と同じで空に雲は多く、そよ風が通り抜けて清々しい。中庭を囲んだ塀の内側に兵舎や職工場が数十舎並び、大きな倉庫が宮廷の左右に鎮座している。高い物見櫓は二基ある。

 正門を出入りする兵、馬を洗う兵、中庭を手入れする人々、荷ぞりで運び込んだ荷物を倉庫に担ぎ入れる人々が、忙しなく働いていた。


 空を仰ぐと日は天頂近くまで昇り、昼が近いことを知らせている。コウスは船中の早い夕餉以来、何も食べていないこと思い出し、空腹を感じた。

 廊の右手方向から王が、側近五人を引き連れて近付いてきた。コウスは片膝を突き、頭を下げて待つ。世話役の女人二人は、十歩ほど下がって正座した。


「じい様、お早うございます。昨夜は大変なご無礼を致し、申し訳ありませんでした。」


「よいよい。儂も若い頃はよくやったものだ、気にする事はない。もう身体の方は大丈夫と聞いたが、無理をするでないぞ。さあ昼餉の時分だ、一緒に行こう。昼餉を終えたら、信頼できる纏向の兵三人を選んで、儂の部屋へ来るように。それを先に言っておきたかったのだ。」


 針間兵と征西隊の話し合いは昼餉で済ませ、その後でコウスに話があると王は言った。昨夜、祖母とは一度も話せずに吐いて倒れたので、会わせてくれるのか。


 それなら纏向兵は必要ないはず。一体どんな話があるのか。確実に恵枇の国主を討つ術でも、伝授してくれるのだろうか。


 大広間で昼餉の前に王によって、翌朝の出立編成が決められた。征西大将は纏向の皇子コウス、後方警護隊の隊長は伊勢のマイヤ、副隊長は針間のシモンで、指令系統は恵枇の陣を見ないと決められないので、当地に着いてから配備と伝達役を作ることになった。


 コウス大将、マイヤ隊長、シモン副隊長が前に出て挨拶した後、マイヤ隊長の発声で、一致団結して見事目的を果たし、凱旋するぞと総兵三十二人が気勢を挙げた。


 気が引き締まったところで王と役人が同席し、静かな昼餉が始まった。針間は魚も主要な産物で、ニコルの好きな魚が多数調理され、盛られている。

 食事の席が和み、酒も回った頃合いを見て、王が話を始めた。


「針間からの船は準備してあり、尾道までだと五日で着く。拾島としまから先は小島が点在して、潮の流れも速い危険な海峡だ。拾島の手前で針間の昇り旗を立てると、回鬼かいき水軍が手引きしてくれるので、座礁や転覆はなく安心だ。船は今夕に出発するので早めの夕餉を済ませ、船でゆっくり休んでくれ。」


 マイヤは喜んだ。当初は恵枇の嗅助に感付かれないよう、隊を組まずに分散して進む陸路だった。だがハリマ王の機転で航路に変わった。


 航路は日程が短縮できるだけでなく、商船や漁船に紛れると、西国の嗅助とすれ違っても気が付かない利点もある。


「尾道まで騎馬なら順調に進んで十二日前後。そこから未羽までの陸路が四日と見ておりましたので、十六日が九日で着くとは。何とお礼を申して良いやら、言葉もございませぬ。ところで回鬼水軍とは、針間軍の海兵でしょうか。」


「いや違う、元々は海峡を行き交う商船や漁船を襲い、食糧や水、工職品を奪っていた海賊だった。それを我が軍が一喝して食糧や生活品を与えると、従順になって水先案内をするようになった。今では商船や軍船の水先案内と警護を引き受ける、友好的な水軍だ。」


 昼餉が済み、兵はそれぞれの部屋に戻った。コウスは纏向兵の部屋へ入り、王に指示された三人の兵選びにかかるが弓隊の十人は、早朝鍛錬で申し合いがないため面識がない。

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