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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第八章
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寝ている間の譫言を聞かれ、出雲潜入の策が繋がった

 留守中の仕切りを任命されていた桑名のソルマが、迎えの挨拶のためにコウスの前で座った。


「お帰りなさい、コウス皇子。長きにわたって船に揺られたうえ、倭台市の帝に会われ、さぞお疲れになられた事と存じます。何より皆様お揃いでお帰りになられ、誠に嬉しい限りで御座います。」


 さらに留守中に下命されていた、倭南州改革の報告も加える。


「コウス皇子の御訪問中は、倭南州の政務舎建造や、坊主ぼうず山の麓に神社を建立しておりました。まだ完成しておりませんが、一度ご検分なされますよう、お願い致します。」


 訪問隊の身体が温まった頃合いを見て、集会場の火鉢が片付けられ、遅い夕餉の料理が運び込まれる。


「さあさあ、お食事です。恵枇の国主討伐の祝宴は、己実で盛大に催される手筈ですので、今宵は軽く致しました。存分に御訪問旅の疲れを癒されて下され。」


 シウリ当代の音頭で酒を交わし、心づくしの食事を楽しんでいると、倭南州の役人三十人が駈け付けた。

 集会場の入口に正座して帰還の祝いを述べるので、ソルマが慌てて会場内へ導いた。


「わざわざお運び下さったとは、有難う御座います。火鉢のある所で温まってくだされ。」


「当代のコルノを倭台市へお連れ頂いたうえ、倭南州が安定するまで、ご指導の御役人を付けてくださると聞き及び、何と御礼申し上げて良いか。御帰還に当たって何方どこより先立って御迎えせねばならないところ、遅れまして恥ずかしい限りで御座います。」


 奥に座っているコウスに平伏し、無事帰還の祝いと、迎えが遅れた恥ずかしい行為を詫びる。


 駈け付けた十三人にも料理が配膳された。するとラモナ政務官とリ・シアム軍隊長が酒壷を抱えて奥の座に走り寄り、まずコウスに酌をし、次にマイヤ、シモンにも酌をする。

 

 まだ倭南州を制定して十五日だが、忠義心は変わりないとコウスは安堵した。


「出迎えご苦労である。この地へ残留した者に不満や騒動はなかったと、ソルマが申しておったので安心したが、元気で州造りをしておるか。明日の朝、建造途中と聞いた政務舎と神社を見ることとする。」


 コルノ当代も奥の座に来て、ラモナとリ・シアムの手を握って再会を喜んだ。


「コウス皇子の御配慮によって倭台市を見聞でき、サイマ帝にもエル帥にも会えた。拙者はこの十日余りで一年、いや三年以上の成長を遂げたぞ。生涯かかっても、コウス皇子の大恩に報いることはできないが、倭南州を立派にしてお応えする決意だ。」


 夕食は半時少々で終え、駈け付けた三十人とコルノ当代は明日の検分を願い、倭南州へ帰った。


十八

 火良村の当代や征西者に再会した。駈け付けた倭南の役人にも会えたコウスは、何かしら気持ちまで温かくなって、討伐前の六人部屋に戻った。


「明日は倭南の改革状況を見て、己実へ発つ。滞在中、世話になったシウリは同道するが、もう火良村は見納めだな。」


 討伐後、凱旋ばかり考えていたが、この地を発つ瞬間を想像すると、後ろ髪を引かれる思いで寂しい。マイヤも寂しそうだ。


「お早うございます、コウス皇子。昨夜は眠れなかったようですね、苦しそうに譫言うわごとを言っておられました。出立は夕刻にしますか。」


 不眠状態での出立は辛いと、マイヤが心配そうに尋ねてきたのでコウスは、あらぬ不安が込み上げる。


---譫言うわごとをマイヤに聞かれた。もしかして出雲王を討伐する言葉を喋ったのだろうか。


「覚えていない。苦しそうな声でうめいておったのか。」


「いえ、言葉を発せられておりました。はっきり聞こえなかったのですが、遣いが死んだとか、何かを届けたいとか、何処かで意識が失せたとか……。恐ろしい夢を見られておられたようです。」


 出雲討伐の夢を見て、熱に浮かされたのだとコウスは思ったが、周囲の誰も勘付かなかったのは幸いだった。

 そこで譫言の断片を聞いて、馬韓と羽経の結びつきが閃いた。


「そうか、周りの眠りの邪魔をしたのだな、済まなかった。吾はよく眠れたと思う、出立は早くても大丈夫だ。」


---マイヤに聞かされた譫言の、遣いの死と貢物を届ける……で、馬韓と羽経が結び付くではないか。出雲潜入の策が繋がって来たぞ、もう少しだ。ケイシ、マナキ、マヤムも何らかの策を講じているだろうか。


十九

 朝餉が集会場に配膳されて、征西隊四十六人が腹を満たす。すでに旅の身支度は済ませているので、いつでも出立できる。


「倭南の政務舎と神社検分は、吾とマイヤ、シモン、シウリ当代、アムアの五人が騎馬で行く。火良村に戻るとすぐ出立するので、半時ほど待機して待つように。」


 昨日の冷たい風は弱くなり、山から顔を出した日が暖かい。まず五人は、十基の篝火が燃え盛る政務舎へ駈ける。

 篝火の前では、コルノ当代とリ・シアム隊長を中心に役人、側近五十人が左右に並び、冷たい地面に座って待っていた。


「お早う御座います。御検分にお越し頂き、有難うございます。早速ですがご案内申し上げます。」


 コルノとリ・シアムがコウスの騎馬に駈け寄って、馬の手綱を取る。マイヤが役人や側近に立つよう指示し、解散するよう促した。

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