異世界の常識LV:1
「・・・申し訳ありません」
あれだけ小言を言っていても相手は上司。ふてくされた顔をしながらも頭を下げていた。
「ロイ、ケンタ殿を応接間に案内して。儂は部屋で着替えてから行きますから。ケンタ殿、ちょいと失礼しますよ」
「おう」
俺が軽く返事をしたのにやけに笑みを深くしてラルズは教会の奥に入っていった。
「・・・ご案内いたします。こちらへどうぞ」
不機嫌を隠そうともしない少年のド低音で『歓迎されてねぇなぁ』とこめかみを掻きながら俺は苦笑いを浮かべた。
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どうもここは教会と修道院と孤児院が一緒くたにされた施設のようだ。町の広場に面した教会がこの施設の正面玄関口のようで教会の正門近くと奥の祭壇横にある懺悔室の隣に奥の修道院兼孤児院へ続く扉があった。
教会自体が町の端にあるため修道院の裏手は町の外のため窮屈さは感じないが、なんとなく町との距離感を感じる造りだなと感じた。
教会の裏は三角屋根をした3つの建物が並び、回廊でそれぞれ繋がっていた。一番大きい建物は中央にある緑の屋根をした建物で4階建て。見たところ横幅もあるのでここが生活棟なのだろう。なら両隣にあるそれぞれ紅、蒼の屋根の一回り小さいのは男子、女子寮だろうか。
「・・・ですか?」
「ん?」
建物に夢中で全然前を歩いている少年((こいつの耳絶対黒柴犬だ))が喋っているのに気が付かなかった。
「だから!私達獣人がそんなに珍しいですかと聞いたんです!あたりをジロジロと眺めて、私達は見世物じゃありません!!」
あまりの大声だったので俺はもちろん敷地で遊んでいた子供たちや重そうな本を抱えた神官たち、洗濯かごを3つ頭に載せていたシスターも何事かと動きを止めていた。
「不快な思いをさせちまったな。申し訳ない」
この世界の常識を俺はまだよく知らない。だからこの少年を怒らせる何かをしてしまったのだろうと俺は頭を下げた。
「何分修道院つうものがどんなものか、初めて目にするもんだから建物をジロジロ見ちまったんだ。俺はこの国に来てまだ日が浅いからそこんところの常識がまだ分からなくてな・・・」
「え・・・」
何やら困惑した声が聞こえてきたので頭を上げて見ると奇妙なものを見る目をした少年・・・ロイがいた。
「いやおかしいでしょ、僕や周りの皆見ないの!?獣人だよ?」
まぁ、子供たちはもれなく犬や猫の耳尻尾付いているしあそこの神官の肌はトカゲの鱗。シスターは・・・羊か?ベールから白いもこもこが見え隠れしているが。
「これがこの国の普通じゃねぇの?」
「そんな訳ないでしょ町にはいなかったでしょ」
「いや、広場には結構いたぞ」
「それはこの町限定!外に出れば獣人に出くわすなんて珍しいんだよ!それに獣人相手に頭下げるとかあんた頭おかしいんじゃないの」
「どうしてだ。俺に非があるなら誰であろうと謝罪は必要だろう。それに獣人といっても人間とさほど変わらないだろう。ジロジロ見るとかマナー違反だ」
俺としては真っ当なことを言ったはずなのにロイ含め周囲は皆『え、なにこのひと』な顔になっていた。