人間のような何か
突然鳴り響いたけたたましい騒音に、リクとマユミは耳を押さえようとしたが、ヘルメットをしているので塞ぐことができず、そのまましゃがみ込んでしまった。
『うわっ!なんだこの音!おい!大丈夫か!?応答せよ!応答せよ!』
「うるせぇー!なんだよこれ!?」
「し、知らないわよ!あぁ、耳がおかしくなりそう……!」
リクが音を凌げるような場所がないか周りを見渡すと、さっきまで真っ黒だったはずのビルにカラフルな光の筋が何本も走り、そのビルの中には独特な形に変形したものもあった。
空中には虫ともドローンとも言えないものが飛び交っている。
リクはあまりの様変わりに一瞬、周りがうるさいことを忘れていた。
さっきまでのモノクロの世界とは相反して、まるで別世界のようだった。
ふと、肩を叩かれ我に返ると、マユミがドームの方を指さしている。
二人が今見ていたドームも周りと同様、さっきまでは真っ平らでどこにもなかった入り口がぽっかり空いていた。
リクは頷き、二人はそのドームの中に入った。
***
中に入ると、まだ奇妙な機械音はするものの、さっきまでの騒音は嘘のように静かになった。
「あ、あ〜あ〜……まだおかしいような気もするが、ちゃんと聞こえるな……そっちは大丈夫か?」
「え、えぇ……なんとか……」
『……やっとあの変な音止んだか……大丈夫か二人とも?』
「大丈夫だが、止んだわけじゃなくて、建物の中に避難しただけだ。」
『そうゆうことか……生物がいないと思ったら、いきなり変な音がしたり、どうなってんだそこは?』
「何度も言うが、全然わからない。さっきから急なことが多すぎてこっちも混乱してるんだよ……わかってくれ……」
『それはすまない……でも、そちらの状況がわからないとこちらも何も言えないから、せめて状況だけでも教えてくれ。』
「……外に出てもうるさいだけだから、今は建物内部の探索をしている。」
「でも、思ったよりも複雑な構造はしてないわ。まさにドームみたいな感じで。」
「そうだな……にしても暗いな、何か電気みたいなのないのか?」
『ん?ライトなら、君たちの持ち物にの中にあるだろ?』
「あ、そういやそうか。え〜っと?……あぁ、これだこれだ。」
リクがライトのスイッチを押すと、突然、建物の明かりが点いた。
二人は本日一番大きな驚きの声をあげた。
『ど、どうした!?二人とも!?』
「こ、ここまで明るくなるとは思わな……」
「私たち、いったい何回驚けば……」
そこで二人は言葉が止まってしまった。
電灯が点いたというより、天井、壁一面全体が光っているという感じだ。
本当は床も光っているのだろうが、床はまるで見えなかった。
なぜなら、
「……これ、全部、人か……?」
「ひ、人……なの……?」
『ん?人?人がいるのか?おい!』
片膝をついてしゃがんでいる、『人らしき何か』がいた。
長い黒髪、黒い服、黒いマント、黒い靴。
肌は相反的に白い。
……それが、『床一面に』いたのだ。
なぜか全員共通して、女性の見た目をしており、背中にはL字型の独特な剣と、ライフルのような銃を背負っていた。
そして何よりも、全員全く同じ顔をしており、しゃがんだ姿勢のまま、凍ったようにみじろきひとつしなかった。
「……ここ、出よう。」
「えぇ……」
動いていないとはいえ、武器を持っていたのもあり、命の危険を感じて、ドームから出ようと急いで出口へ向かった。
まだうるさい騒音が続いていて、耳がおかしくなったとしても、死ぬよりはましだ。
カタッ、コロコロ……
「ヤベッ!」
が、リクが焦ってライトを落としてしまった。
リクが拾おうと近くへ行くと、誰かが手を伸ばして拾ってくれた。
「あぁ、ありが……」
リクはライトを受け取ろうとして、また固まってしまった。
マユミは今、俺の後ろにいるはず……
目の前にいるのは、誰だ……?
拾ってくれたのはもちろんマユミではなく、
……先ほどの『人らしき何か』だった。
いつの間に立ち上がったのか、その『何か』はライトを真っ黒な瞳で不思議そうに見つめ、二人に視線を向けた。
それに続くように、周りの『何か』たちも立ち上がり、こちらにその真っ黒な瞳を向けた。
その瞳は本当に真っ黒で、光もなく、まるで生気が感じられない。
『二人ともどうした!?おい!!応答せよ!応答せよ!』
二人は恐怖のあまり、通信機の声も聞こえず、固まったまま言葉すら出なかった。
あの剣で切り刻まれるのだろうか……
あの銃で撃ち抜かれるのだろうか……
はたまた殴り殺されるのだろうか……
二人はそんなことを考えながら、目の前の『死』に直面していた。
『おい!いったい何があったんだ!?答えてくれ!応答せよ!』
ライトを拾った『何か』がこちらに向かって歩いてくる。
もう、ダメだ……
二人が死を覚悟し、目を瞑った時、
「言語解析完了。言葉が通じていれば答えてほしい。」
ふと、声がかかった。
マユミとは違う、若い女性の声。
抑揚も微妙におかしい。
恐る恐る目を開けると、先ほどの『何か』が、こちらを見て話しかけていた。
「言葉が通じるだろうか?答えてほしい。」
二人は鳩が豆鉄砲を食ったような表情でまた固まっていた。
「……?通じていないのだろうか?」
『ん?え?誰の声?あれ?お〜い……』
リクははっと我に返り、とっさに答えた。
「あ、あぁはい、OK、通じます。」
そこで、少しの沈黙が流れた。
あれ?答えちゃダメだったかな?
突然、『何か』たちはひざまずき、
「「「「「ようこそ、我らの惑星へ。」」」」」
「「…………。」」
『あれ?なんか二人とも歓迎されてる?まぁ、よかったな!二人とも!……あれ?いるんだろ?聞いてる?お〜い、リクー?マユミさーん?』
しばらくの間、通信機の向こうの調査団の声だけが響き渡っていた……
おい誰だ!!!
この作品がシリアスな作品だと思ったヤツ!!!
出てこい!!!
(この時作者は、のちにこの作品がシリアスな展開を辿るとは思いもよらないであろう……)