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TSエルフの異世界奮闘記  作者: yukke
第二章 グランクロス国 ~王都に渦巻く陰謀~
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第十九話 圧倒的な力への恐怖

 ――うるさい。誰かがギャアギャア騒いでいる。


 俺は、さっきまであり得ない映像を見ていて、頭が混乱しているんだ。もう少し寝かせろ。


 本当になんなんだアレは……あんなのが俺の中にいるのか? もしかしたら、今まさに暴れているんじゃ……そうだとしたら起きた方が良いんだろうが、体が重い。


『…………さい』


 うるせぇ……ちょっと寝かせろ。頭も重いんだ。


『……きなさい』


 だから、うるせぇんだよ……この声は妖精か?


『いい加減、起きなさい!!』


「ん~あと5分……」


『寝ぼけるなぁ!!』


「あ~うるせぇ!!」


 耳元でキャンキャンと叫びやがって! お前は夏の夜に、耳元で飛び回る蚊か何かか?!


「ちょっと寝かせろ! 体も重いし、あり得ないものを見て、頭と痛いし重いんだよ!」


『へぇ……アレとリンク出来たんだ。それなら、少しは進展したかな~それにしても3日も寝てるなんて、お寝坊さんね~』


「あっ……俺は……あぁ、3日も寝てたのか。マジか……」


 とりあえず目を開けて、その目の前で浮いている妖精に文句を言ったが、自分がそんなに寝ていた事に、ショックを受けてしまったよ。お陰で目が覚めたわ。それと、またわけの分からない事を言われたな。

 リンク? アレ? それは、平行世界を含めた、全ての銀河全体を漂っている意思みたいなやつか?


『それで、見たの?』


「……お前の言う見たってのは、俺の中の奴の事か? それとも……」


『両方見たのね……よしよし』


 すると、妖精の奴はなにか満足したような顔をしながら、腕を組みながら頷いていた。


 それなら、そろそろ説明して貰いたいね。更正プログラムのおかしな所をな……。


「おい、お前の言っていた更正プログラム、あれは本当に更正させる為のものなのか? そもそも、どっちにしても地獄に落とすのなら、更正させる必要ないだろう」


『ふふふ……そこも薄々気付いているでしょう? アレを見たならね』


「……ちっ」


『とにかく今は、皆に無事な姿を見せたらどう?』


 それなら問題ないだろう。既にジルが、俺の顔を覗き込んで来たからな。ずっと俺の横で寝てやがって。看病でもしてたのか? とにかく、無事で良かった。ということは、皆も無事なのか?


「マリナさん、気が付きましたか? 皆さん、マリナさんが目を覚ました!」


 そして目を覚ましたジルは、そう叫びながら部屋の外に飛び出して行き、皆を呼びに行った。


 因みに、ここはあの黒い街の建物じゃない。白い病室みたいな清潔な部屋だ。俺はそこのベッドに寝かされていた。多分ここは、白い街だな。

 あの後どうなったかは分からないが……全員黒い街から脱出出来たのか?


『だいたい分かるでしょう?』


「……あ~俺の中の奴が暴走したのか」


『そうよ。私が特異力を弱めて、それで押さえ込んでいた奴を起こしたのよ。まぁ、ついでにアレとリンク出来れば万々歳かな~とは思ったけれど、結果は上々だったわね~』


「てめぇ……なんでそんな危ない事を……」


『なによ? あの状態から皆助かって、全員黒い街からも逃げられたのよ。それに、あなたも知りたい事を知れた、結果オーライじゃない~』


「ふざけんな……」


 だけど、そこに他の皆が部屋に入って来た。もちろん、ソフィは無事だった。そしてエリクもな。

 ジュストとセレストは…………怒りのオーラが背中から発せられていた。


 やべぇ、また言いつけ破ってたんだ。


「さて、マリナさん。無事で何よりと言いたいですが……何故あそこにいたのでしょうか? 戦闘中だったので、あの時は事態解決を優先しましたが……本当は、あの場で叱責したかったくらいですよ」


「…………わりぃ」


 なんでかを言ったらブチ切れられそうだったから、俺はただ一言そう言った。


「それで全部済ませられると思ってるんですか?」


「いや……思ってねぇけど……でも、今はこれしか言えない。ごめん」


「…………」


 流石に、俺の雰囲気がおかしいのに気付いたのか、ジュストはそれ以上は怒らって来なかった。もちろんその後ろにいるセレストも、何も言ってこない。


「あなたのあの状態、私達には見えないですが、魔王とやらが何かしたんですか?」


「…………」


「言えないんですか? そうなると我々としても、それなりの対応をしなければなりません」


 それなりの対応か……恐らく、牢に放り込まれたりするんだろうな。だが、それはそれで良いかも知れないな。

 俺の中にいる奴は、完全に目覚めている。魔王の特異力で押さえているだけで、いつ暴れ出すかも分からねぇ。それなら、魔法か何かで封印されるようにして、その牢の中にいた方が、この世界の為にもなるだろうよ。


「あぁ……良いぜ。出来るなら、俺が暴れ出しても絶対に壊れないように、完璧な封印でも施して貰って欲しいな」


「……ふぅ、分かりました。一旦王に報告に行きます。エリクも来なさい」


「んぁ? なんだよ~愛しの女性が元気ね……いででで! 分かった分かった、耳引っ張るな!」


「あぁ、そうそう……勝負は私の勝ちですから」


「あぁ?! なんでそうなるんだ! 誰がどう見ても、俺だろうがよ!」


 仲良いなあいつら。ただ、耳を摘ままれて引きずられるのは痛そうだな。そのまま城までは勘弁してやれよ。


 そしてジュスト達に続き、セレストも出て行った後、ソフイもその部屋を後にしようとする。


「さ~て、私は教会に戻って、街の人達に元気な姿を見せとかないとね~なんだかんだで帰れてないからね」


「あっ……それなら送……げふっ」


「にっぶいわねぇ……傍に居て上げなさいよ」


「えっ……でも……」


「良いから居てやんなさい」


 あのな……ヒソヒソ声で話していても、ここは部屋の中なんだわ。聞こえてんだよ。本当に情けねぇなぁ、ガキに心配されるなんて。


 そして、ジルに肘打ちを食らわし、そのまま背中を押したソフィは、とっととどこかに行ってしまった。護衛は要らないのか? 予知して大丈夫だって分かってるんだろうけどな。


「マリナさん……」


「あ~悪ぃな……俺は大丈夫だから、ソフィの護衛に行って良いぜ」


「いえ……良く考えたら、ソフィは危険を予知できましたね。それなら、マリナさんの方が心配です」


 そして、ジルはそう言いながら俺の近くに来ると、ベッドの横にあった椅子に腰掛けた。あのな……お前は他人への感情が無いんだろう。その言葉も、無難な事を言っただけに過ぎないんだろう?


「お前な……他人への感情ないんだろ? 心配なんて本当は……」


「いえ、マリナさんに対してだけは……昔感じた、色々な思いが湧いてくるんです。本当に、お姉ちゃんを相手にしているみたいです。あっ、もちろん言葉使いは違いますけどね」


「そうかい……」


 姉ね……やっぱりジルはガキだな。まだ俺と姉の面影を、重ねているのか。それなのに、なんでか面白くない気分になるのはなんでだ?


 それと、俺はこいつから離れた方が良いとさえ思っている。このまま俺と一緒にいたら危険だからな。


「ジル……悪ぃ。俺、この街から出るわ」


「……そうですか。それじゃあ、どこに行きます?」


「いや、悪いけれど俺1人で……」


「そうですねぇ。ここからだと、港に行けば船がありますし、色々な国に行けますね」


「いや、おい、聞けや」


 無視して話を進めるな馬鹿野郎。


 すると、ジルは真剣な顔をして、俺の方を見てくる。その顔は、まるで10歳のガキとは思えない程で、逞しい男性の顔付きに思えた。


「僕は、何があってもマリナさんの傍にいますよ。これは、お姉ちゃんを守れなかった僕の、罪の償いかも知れないんです。今度こそ守れという、誰かの意思なのかも……」


「はぁ……本当にガキだな、お前は。誰かの意思? 姉の代わりを、俺でやってるだけだろうが! 俺はそんな存在なんかじゃねぇよ! 世界を……いや、もっと沢山の世界をも巻き込んで、全て滅ぼしてしまうかも知れないんだぞ!」


 ジルの相変わらずの良い子ちゃんに、俺は思わずそう叫んでしまったよ。ここが病院ならすまねぇな。


「俺は危ない奴なんだ! 危険人物なんだよ! だから、とっとと俺なんか捨てて、自分の国を守れよ!」


 そうだ……ここで突き放さないと、こいつはいつまでも俺の下に居ようとする。それじゃあ駄目だ、駄目なんだよ。そんなの、いつ俺がお前の命を奪い去るか分からねぇ。

 そしてそれをしてしまったら、俺はきっと心が壊れてしまう。女の体になって不安だったのに、ジル……お前が傍にいたから、俺は自分を保てていた。気付いたら、俺もお前が心配になっていたよ。お前の過去に何があったのか、気になってしょうがねぇからな。


 だけど、もう終わりだよ。これ以上は危険だ。


 俺は、これから1人で……。


「それじゃあ、なんで泣いているんですか?」


「はっ……? なっ?!」


 すると、ジルが俺に向かってそう言ってきた。

 泣いてる? そんなわけないと思ったが、自分の目の下を触ってみて分かったよ。涙で濡れていたのが……。


 いつの間にか俺は泣いて……駄目だ駄目だ。折角荒々しい事が続いて、なんとか男らしさを保てていたけれど、またこれだ……あの時の薬膳料理の効果で、俺の心が……精神が体に引っ張られてしまう。


「不器用な人ですね……」


「うる、さい……うぐっ」


 だけど、必死に涙を堪えようとする俺に向かって、ジルはトドメを刺して来やがった。


「素直になっても良いんじゃないですか? マリナさん」


「うっぐ……くっ……」


 素直に……? 良いのかよ……言っても良いのかよ、あの言葉を……でもそれは、こいつに最大の迷惑をかける事になるんだぞ。だけど、もう駄目だ。心が限界だ……。


「うぅっ……助けて……ジル」


「もろちんですよ」


 そして、ジルは満面の笑みでそれに応えた。卑怯だぞ、それは……。

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