第二十話 特異力の加護
その後、俺が落ち着くのを待ってから、ジルはジュストの所に行こうと言い出した。そりゃあ街を出るにしても、一言言ってからじゃないと駄目だろうな。俺はこの世界の奴等にとって、危険因子扱いだしな。
だけどその前に、ジュストが俺達の所に戻ってきて、王が読んでいる事を告げた。あぁ、黒い街で暴れていたし、あいつからも何か言われるんだろうな……。
そして今俺は、王の面前に居るのだが……当の王様はどこかご機嫌である。
「いやはや、リアンから聞いたよ。一歩前進だってね」
「前進……? どこが? あれのどこがだ……!」
挨拶する前にそんな事を言ってきたから、思わず言い返してしまった。だけど、こいつが悪ぃんだからな。いきなりそんな事言いやがって。
「いいや、前進だよ。純粋な心を持っていないと見られないものを見た。私もそれが何かは分からないし、知らされてはいない。ただ、リアンからそう言われたからね」
そして王であるマクシミリアンは、そう言いながら俺に向かって笑顔を向けてきた。どいつもこいつも、俺に笑顔しか向けられないのか? 心がブレるから止めてくれ。
それよりも……リアンの奴、なんて事を言ってるんだ。
「おい、リア――」
『本当の事よ。アレは、純粋な心の持ち主じゃないとリンク出来ないからね』
俺が聞く前に答えられてしまったよ。
「あのな……俺のどこが……!」
『自分の感情に純粋じゃない。気に入らなかったら怒って、戦いたい時に戦って、我慢出来なくなったら泣く。わぁ~自分に純粋~』
「てめぇ、ぶっ飛ばされてぇか……!!」
『顔を真っ赤にして言われてもねぇ~』
くそ……相変わらずだよこの妖精。だけどちょっと待て、マクシミリアンも妖精を見ているような……今更だけど、あいつもこいつの姿が見えてるのか?
「ふ~ん、泣いたりもしていたのか~」
しかも声まで聞こえていた!
とにかく、俺は慌てて奴の下に飛んでいき、肘掛けに飛び乗ると、そのまま背もたれに向かって蹴り入れた。もちろん奴の顔すれすれに、俺の蹴りが掠めたんだがな。こいつが悪い。
「とりあえずさっきの会話は忘れろ」
俺にとってこいつは、あのムカつく上から目線の野村のままなんだよな。例え多少老けていても、ずっと付きまとっていた記憶が、俺にはあるからな。
「……ふむ、ビキニラインもしっかりと剃ってるのか」
お前どこ見てんだ。そりゃ確かに、奴の目の前で足を突き出しているから、股の部分が見えてるが、ガン見してんじゃねぇよ! それとな……剃ってねぇんだよ、そんな暇なかったからな。
「剃ってねぇよ」
「なに? つまり、ツルツルか?」
「……ツルツルだ」
敢えてどこかは言わねぇよ。体洗った時に、ついでにこの体も隅々まで見たからな。
「素晴らしい……げふっ!」
「鼻血出してんじゃねぇよ、バカ」
その後の定番の展開に、マクシミリアンの頭に思い切りかかと落としをかましてしまったよ。
「まぁ、良い。そっちから呼んだって事は、黒い街で暴れていた件だろ。安心しろ、そっちの許可が出れば、俺は街を出るつもりだからな」
これ以上人の多い所には居られない。だけど、ジルも連れて行く事になるだろうから、俺の監視は出来るだろ?
「それは困りますねぇ~」
「あっ?」
だけどその時、マクシミリアンの横に居たジュストがそう言いながら、俺達の所に近付いてきた。と言うか、俺の行動止めろよ。
「まぁ、この方のいつものお遊びはそこまでにして……」
お遊びかよこれは……。
「彼女に言う事があるのではないですか?」
「あぁ、そうだったな。マリナ、君が今まで行ってきた数々の勝手な行動により、この国の国民達の不安を煽った。よって処罰を与える」
「ちっ……まぁ、予想通りだわな。それなら俺が暴走しないように、強力な魔法で牢に封じといてくれよ」
ジルには助けてと泣きついてしまったが、こうなってしまった以上、大人しく従っといた方が……。
「いや、ただ牢に入れていては、その性根がひん曲がるとの事で、軍に入れる事になった! まぁ、あっちの世界では、軍に服役するという言い方をする国もあったからな。それに近いな」
「……へぇ、お前大胆な事するな」
「あら……もうちょっと驚くと思ったのだが?」
「まぁ、それ以上の事があったからな」
今更軍に入れられようが、驚かねぇよ。そんなので、あの映像を超える驚きは――
「そうですか……良い度胸ですね。マリナさんは私の部隊に配属となるので、その態度がどこまで保てるか、見物ですねぇ~」
「おい、野む……じゃねぇや、マクシミリアン王。さっきの態度は改める。ちゃんと驚くから、別の部隊に……」
ジュストの部隊は冗談じゃねぇぞ! 弄り倒されるし、いびり倒されるわ!
「お~それなら俺の部隊に来いよ、愛しの人。丁度1人……」
「ジュスト、宜しく頼むわ」
「決断早くないかい?!」
いや、エリクの部隊とか別の意味で危険だわ。それに良く考えたら、ジルもジュストの部隊だったよな。だったら、ジュストの部隊の方が居やすいか……。
「まぁ、一緒にジュスト中佐に扱き使われましょう」
「あ~でも、別にお前と一緒なら……っ!!」
「僕と一緒なら?」
「……何でもねぇ」
危ねぇ……俺は今何を言おうとしたよ?! あり得ねぇあり得ねぇ……10歳のガキだ、10歳のガキ……ましてや男だぞ! 俺も男だっつ~の!
「面白くなりそうですねぇ……そうだ、その前に。神官さん、マリナさんの特異力が、なんの加護なのか調べてくれませんか?」
すると、ジュストの言葉に反応して、横に並んでいた兵士の中から、1人の神官が出て来て、俺の前に手をかざして来た。なんだこれは?
「おい、なんだこれ?」
「動かないで下さい。あなたの特異力から出る力の欠片を、少し貰います」
「おっ?」
すると、俺の額から何かのエネルギー体みたいな、小さな塊が出ると、手をかざしていた神官の手のひらに引っ付いた。
そして、今度は懐から水晶玉を取り出すと、そこにさっきの小さな塊を放り込んだ。
「さて……これで真っ白に光り輝けば、あなたの特異力は女神の加護になり、真っ黒になれば、邪神の加護になります」
あぁ……そう言えば何か言ってたな。女神の加護なら英雄になれる素質があって、邪神の加護なら迫害される……だっけ? なんなんだその差は。
そして恐らく、この世界で暴れていた魔王の特異力とやらが、邪神の加護だったんだろうな。
ちょっと待てよ、俺はその魔王だったリアンから、その力を貰ったんだ。つまり、どう考えても邪神の加護じゃねぇか。まぁ良いか、そっちの方が格好いいし、女神の加護なんて、俺には似合わねぇよ。
だけど、水晶玉は俺の想像とは違う反応を示した。
「おぉ……真っ白に光り輝いていますね。女神の加護です」
なんだと……??
「……おい、測定ミスじゃねぇか?」
「そんな事はあり得ませんよ。その水晶玉は、100%外すことはないです」
「いやぁ、ほら……俺って特殊だし」
「あり得ません」
一刀両断かよ。慈悲すらなかったわ。
「なぜそんなに女神の加護が嫌なんですか? 英雄になれるかも知れないんですよ? 褒められるべき力です。さぁ、行きましょうか、英雄さん」
「お前最後のは絶対皮肉だろ!!」
だけど、ジュストは俺の言葉を無視して、襟首を掴むと、そのまま俺をマクシミリアンの前から引きずっていった。とっくに椅子からは降りていたけれど、やっぱり近すぎたか。
どっちにしても、任務で色々出掛けられるなら、願ったり叶ったりかも知れないな。あまり1つの所にジッとしていたら危なそうだ。
それと……あの映像。俺が暴走していたであろう時に見た映像……あの事態にだけは、させるものかよ。
全ての世界が、このアマルガに集まり……そして全ての世界が集まった事で発生する、人類では考えられない程の莫大なエネルギーによって生み出される、あのとんでもない化け物……。
全てを食べる、あの貪欲な化け物の誕生だけは……なんとしても阻止しねぇと!!




