第十話 聖女誘拐
それから、俺は教会まで猛ダッシュした。これだけ全力で走ったのは初めてだ。
だけど、既に遅かったよ……。
教会に着いた時には、既にそこには誰もいなかった。
ジルまでいなかったんだ。なんで分かるかって? あいつの杖が、教会の真ん中に落ちていた。そして、血の跡もあった。それだけでもう、十分だろう。
その後、俺はジルの杖を拾うと、教会から飛び出した。
くそ! くそ! もっと早くに向かっていれば、あいつらは……!
だから俺は、今ジュストの元に向かうため、全力で走ってるが……軍ってどこだよ!! 急がねぇと、あいつらが……!
「んっ? おっと……! お前、何を焦ってるんだ?」
すると、大きな通りを出てしばらく走ると、その脇道から、誰かが出て来た。危うくぶつかりそうになったわ。
「おっ? 白い軍服……ジュストの部下か?!」
「あぁ……いや、俺は違うが、同じ軍人ではあるな。どうした? あいつに用か?」
「はぁ、はぁ……あぁ……そうだ、急ぎなんだ!」
「ふ~むふむ……なるほど。そうか……う~ん」
だぁぁ!! なんだこいつは! とろとろしやがって! 早く教えろっての!
「急いでるって言ってんだろう!!」
「そうムキになるな。可愛い子ちゃん」
「………………はあっ?!?!」
飛んできた言葉の判断に、少し時間がかかってしまった。こいつ、今なんて言った!
「てめ……ふざけて……」
「いやいや、ふざけてなんかいないさ。俺は大真面目だよ」
「おぁ……はっ? ま、待て、こら!!」
近付いてくるな! 腕を掴むな、引っ張り寄せるな!!
「冗談は……止めろっての!!」
とにかく、怖気がした俺は、そいつの顔面に向かって、思い切り蹴りを入れてやった。もちろん、爆炎が上がるほどの爆発も付けてな!
「おぉ……なんと情熱的な……」
「なっ……嘘だろう!!」
顔面に当たるどころか、直前で素手で受け止められた?!
「俺は恋をした事がないが……そうか、これが恋の炎……うっ!」
「なにやってるんですか? エリク。調査を頼んだはずですが……」
すると、訳の分からない事を言ってる奴の後ろから、ジュストがそいつの頭に、手刀をお見舞いしていた。結構力入ってそうだったぞ。
「つぅ……何するんだジュスト! 私は調査中に、この美しい女性から愛の告白を……」
「ちげぇからな!!」
なんか、ジュストの奴がすっげぇ目で見やがったぞ! だから否定だ否定! そうじゃないと、勘違いされていそうだ。
「まぁ、どうせまた、エリクの暴走でしょう」
「なっ……! 違うぞ! 今度は本当だぞ!」
すると、そう言いながらエリクと言う奴が立ち上がり、ジュストに詰め寄っている。
良く見たら、目鼻立ちはハッキリしてるし、キリッとした目は好感度高そうだな。それと、セミロングの赤髪を後ろに流して、なにかで固めているみたいだ。
身だしなみもきっちりしていて、好青年って印象だな。ただ、腰に刀を携えていて、ちょっと違和感あるが……。
「ほぉ……今度は何をされたんですか? おかしでも貰ったんですか? ハンカチでも拾ってくれたのですか? すれ違いざまに、笑顔でも貰いましたか?」
ちょっと待て、こいつ今までそれだけで人を好きに……。
「違う、違うぞ。そのどれとも違う。熱い想いを感じたのだ! 爆発するほどの想いを!!」
そんな目で見るな、ジュスト。蔑んだ目で見るな。あ~そうだよ、蹴ったよ! だけどな、こいつの事を知ってるなら察しろよ!!
「はぁ……だいたい分かりました。それよりも、マリナさん。あなたは何をしているんですか?」
「あっ……そうだった! ジルとソフィの奴が、攫われたんだ!」
「あぁ、それですか」
それですかってお前……なんでそんなに平然としていられるんだよ。
「お前、なんでそんなに平気で……」
するとジュストは、呆れた顔を俺に向けてくる。なんだその顔。イラつくから止めろ。
「知ってますよ。ソフィが予知してますからね。自分が攫われる事を」
「あっ……?」
「私達も、彼女の能力を腐らせるような事はしません。毎日毎日、その日この国で、この街で起きることを、予知させてますから。それで、今日この日、彼女が自分の能力を破られて、何者かに攫われると、そう予知したのです」
「……んなっ!」
それなら、なんで教会に軍を配置してなかったんだ。
「てめぇら、それなら軍を……」
「配置してましたよ。あなたが気付かなかっただけでね」
「…………」
隠れてやがったのか……。
それで、教会にやって来た不審な奴を捕まえる……ってわけか。だけど、それでも攫われた……それはつまり。
「姿を消し……」
「その可能性も考えて、教会の中に罠を設置していました。因みに、あなたが来る頃には、既に攫われた事に気付き、罠も全て確認、作動をしていない事を確かめ、安全の為撤去。その後捜索に全力を当てています。他になにか?」
やべぇ……なにも言えねぇ。
「ふぅ……良いですか? あなた如きが考えつく事など、わたし達が全てやっています。それでも、攫われたんですよ。良いですか? これは、あなたが手を出すべきものではない……分かったなら、宿に戻りなさい」
「ぐっ……くっ」
くそ、くそ! 確かに良く見たら、街中を軍の奴等がうろついていやがる。とっくに捜索を始めていたのかよ。
「おいジュスト、あんまり俺の女に……」
「いつてめぇの女になった!!!!」
「ぐはっ?!」
気付いたら、エリクって奴が俺の後ろにいて、肩に手を回してやがった。思い切り顎を蹴り上げてしまったよ。
「マリナさん、それ以上は控えて下さい。一応エリクは、中佐ですからね」
「お前と一緒?!」
あっ、やべ……言っちゃいけねぇこと言っちまったか? ジュストの奴の顔が引きつって、凄い恐い笑顔を向けてるんだが……。
「こいつと一緒? 冗談は止めて下さいよ。階級はそうでも、実力は全く違います。私は既に、大佐レベルですからね」
「うはぁ……言ってくれるなジュスト。女の事なら負けても、力なら負けねぇぞ」
「ほぉ……」
ちょっと待て、お前俺の蹴りをモロに受けといて、なんでそんなに平気な顔をしてんだ! 爆発はさせていなかったが、それでも俺の蹴りを顎に受けて、気を失わなかった奴はいねぇぞ!
「そうだ、それならジュスト。1つ勝負をしよう」
「ほぉ……なんですか?」
「どちらが先に、聖女を助けられるかだ」
「良いでしょう」
なんだその勝負……真面目にやれっての。
「そんで、その勝負に勝ったら……君、俺とデートしてくれないか?」
「はっ?」
壮大に巻き込まれた!! 俺、めちゃくちゃ関係ねぇじゃねぇか!!
「くっ……あっはっはっは!! 何を言い出すかと思えば。良いでしょう。それならば、私がもしあなたに負けたら、全裸になって逆立ちしながら、この街を歩き回りましょう。その代わり、私が勝てば、アレを寄越すんですよ」
「ちっ……まだ狙ってやがったか。良いだろう。男と男の約束だ!! 絶対に勝って、お前の逆立ち全裸姿を見ながら、彼女とデートしてやるぜ!」
そんなデートプランは嫌だわ、アホ!! つ~か、そのまま全力疾走して駆けて行きやがった!!
「あの野郎……なんなんだ、あれは」
「ただの珍獣です。それにしても、相手の名前も聞いてないのに、恋だなんだと……相変わらず、馬鹿な人ですね」
「いや、あれは何とかしてくれ……」
「無理です。それよりもマリナさん。早く宿に戻って下さい」
「…………」
「そんな反抗的な目を向けても駄目ですよ。私達に任せておいて、あなたは大人しくしているんです。直ぐに兵を送りますからね。良いですか、国王の命で、私達はあなたを客人扱いしていますが、表向きは囚人ですからね。それを、お忘れなく」
ちっ……駄目だな。こいつと言い合っても、結局俺が負けちまう。それなら、大人しく従っとくしかねぇな。
それに、これだけの人数で捜索をしているなら、簡単に見つかりそうだよな。だけどな……やっぱりお前達に任せていても、ダメな気がするんだよ。
ジュスト、お前は形式的にやってるだけだ。もっと、相手がどう動くか……って、それも考えて軍を動かしてるんだっけ?
「ふぅ……分かったよ」
そして、俺はジュストにそう言うと、そのまま背を向けて宿へと向かって行く。
厄介な奴がいたもんだな。あのエリクとかいう奴じゃない、あの一目惚れ魔人はどうでも良い。
ソフィの予知を、突破する奴がいるなんてな……どういう特異力かは分からねぇが、予知を突破するなんて、それこそ偽の……。
「……ん?」
ちょっと待てよ……嫌な事を考えてしまった。もしそういう特異力があれば、あいつの予知を突破出来るぞ。
「くそ……!」
とにかく、ジュストからある程度離れた俺は、ジュストからは見えない位置までゆっくりと移動して、そのまま宿とは違う方向へと走り出す。
待ってろよ……2人とも。
やっぱり軍には任せてられねぇ。俺が助けてやる。2人には借りがあるからな。俺は借りを貸しっぱなのは、嫌なんでね。




