第九話 胸騒ぎ
その後俺は、案内に来た兵士に連れられて、俺が今日泊まる宿に辿り着いた。質素なものだな。まぁ、贅沢は言ってられねぇ。
「部屋もこんなもんか……」
入って左手の壁にベッドが置いてあって、反対側にちょっとした机か。こっちの世界では、これが普通なのか?
「あ~全く、今日も疲れた……」
そして俺は、ベッドサイドに腰掛けると、そのまま仰向けに寝転がる。ここに来るまでに、空賊と戦ったりしたからなぁ。
それにしても、俺がこんなに危険な存在だったとは、正直思わなかったわ。これからどうしたものか……更正するしか手はないのか?
『諦めなって……あんたの中のは、あんた自身の心次第で、打ち消せたり、増大したりするの。あんたが更正すれば、そいつはあんたの中では生きられなくなって、消滅するわ』
妖精が、俺の顔の上でフワフワと飛びやがって……。
「そりゃ分かったけどよ。だけどな……はい、分かりました。それなら今日から私は、女として生きていくわ……なんて出来るかよ」
『様になってるじゃない』
そっちか、こら! 俺が今再現した女っぽい仕草に、反応してんじゃねぇよ!
「うるせぇな。とにかく、俺はそう簡単には……」
『その前にさ……窓から覗かれてるわよ』
「あっ……?」
本当だ。妖精に言われて、仰向けのまま頭の方にある窓を見ると、1つ目に翼が生えたなにかが、空を飛んでいた。なんだあれは?
『ちょっと、早くなんとかした方が良いわよ』
「そう言われてもな……飛び道具はねぇし、蹴ろうとしても、この位置じゃあ避けられるぞ。それに、ただ観察するだけなら良いが、襲ってくる気なら、このまま泳がせても良いけどな」
『あのね、これは盗撮か……それかあんたを観察して、動きがあれば、対処しようとしてるんでしょうが』
すると俺の言葉に、妖精がそう言ってきた。
つまりなにか……これは、さっき言っていたソフィを狙っている奴等が、これを飛ばしているのか? 考えすぎじゃねぇか?
「う~ん、だけどそれは考えすぎじゃ……」
ちょっと待て……今上で、誰かが動いた音がしたぞ。この宿は2階建てで、俺の部屋はその2階だ。つまり、この上は屋根であってだな、誰かいるとしたら、そりゃ悪い事をしようとしている人間だろうな。
モンスターという可能性もあるが、聞いた話だと、街にモンスターは入れないらしい。結界が張ってあるとか、なんとか……。
まぁつまり……この窓の外で飛んでるやつは、俺の盗撮なんかじゃなさそうだ。監視してやがる。ジュストの部下の可能性もあるけれど……どうしたものか。
「夕食もまだだしなぁ……とりあえず飯食いがてら、相手の反応でも見るか」
もしもそのまま着いてくるようなら、かなり俺の行動を見ていやがるな。こっそり逃げられないように、俺の1つ1つの動作を、全てチェックしている事になる。
それはつまり、俺の姿を見失いたくないという事……ということは、増援扱いされている。囚人扱いじゃない。
ジュスト達による囚人扱いならば、この宿全体を見て、俺が宿から逃げないように、兵も付けるだろうな。ただ、兵は付けられていないから、客人に近い扱いだな。
そうなると、俺が監視される理由は、増援としてある場所に来て欲しくないから……だな。
「やれやれ、相手は今日動くつもりか……どうやって、予知を攻略するつもりかは分からないが、相手は攻略する術を持ってるんだな」
そうじゃないと、聖女を攫おうとはしてこないだろう。
それが、相手の特異力によるものか、単純に作戦なのか……まぁ、とりあえず飯を食ってからにするか……腹減ったわ。
そして、俺は晩飯を食うべく、その部屋を出て、食堂に向かおうとしたが……この宿、食堂がなかったぞ。外に食いに行くしかなかったな……。
すると案の定、その目玉のやつも着いて来たよ。やっぱり……これは確定だな。
―― ―― ――
『それで~? どうするの?』
「どうすると言われてもなぁ……」
急いだ方が良いのだろうが、監視されてんだよな……俺は。動いたら相手にバレる。
飯を食い終わった後、宿に戻った俺は、自室に戻るとベッドで頭を抱えた。
ジュストに連絡しようにも、それも見られてしまう。う~む……。
『あなた……自分の特異力の事、分かってないでしょう?』
すると、妖精の奴が突然、俺に向かってそう言ってきた。何が言いたいよ?
『その特異力、私がここで暴れていた時に、使っていたものよ。プレゼントしたのよ』
「お前の特異力か……それで?」
『あ~もう……あんたの特異力は、何も爆炎を上げるだけじゃないのよ!』
「なんだと?」
『属性爆破と属性反射。それがあんたの……私が使っていた特異力なのよ!』
それはつまりどういう事だっての。ファンタジーの事が分からない俺にも、分かるように言えよ。
『なんで首捻るのよ、もう!! あんた、ゲームとかやった事ないの?!』
「無いね」
そこは素直に答えておこう。こんなので見栄張るもんじゃねぇしな。
『うぅ~! 爆発させて炎を上げるだけじゃないの! 炎じゃなくて、風だったり、氷だっり、土だったりね! それと同じように、その属性のものを反射させられるのよ!』
おぉ……息を切らしてご苦労さん。
つまり、爆発させて炎を上げるだけじゃないと……蹴って爆発しても、炎が上がるわけじゃなく、暴風が発生したり……とかか? 試してみるか。
「ん~それってつまりよぉ……」
『あっ、待って! イメージを変える必要があるから、そう簡単に……きゃわっ?!』
「うぉっ?!」
おいおい、爆発させる時の要領で、風が吹き荒れるイメージを頭に浮かべ、床を思い切り踏みつぶすようにしてみたら、爆発する音が響き渡り、同時にもの凄い暴風が吹き荒れたぞ!
『嘘でしょう! 風の爆発を、そんな簡単にイメージ出来るなんて!』
でもな……部屋でやるべきじゃなかったよ。思い切り天井にまで吹き飛ばされて、背中を打ち付けてしまったよ。
「いててて……もうちょい考えるべきだった」
だけど、窓の外にいた変な目玉がいないぞ!
あぁ、窓が割れてるし、さっきの暴風で遠くに吹き飛んだか。ということは……屋根の上の奴は、今ので慌ててるんじゃねぇか? それなら今の内だ!
そして俺は、急いで割れた窓に向かい、そこから飛び出ると、窓枠を掴み、思い切り脚を外に振り上げ、遠心力を使って、一気に屋上に跳び上がった。
「なっ……!!」
「よ~し、お前!! ジュストの部下じゃねぇよな?!」
だけど、脚を上に上げた状態で、下から飛び出て来た俺に向かって、そいつは小さな刃物みたいな物を、懐から取り出し、それを投げつけようとしてきた。
おっと、そうはいかねぇよ。さっきの風の爆発で、吹き飛ばせば良いからな。それと、殺しにかかるという事は、こいつはジュストの部下じゃねぇだろうな。それなら容赦はしない。
「おらぁぁあ!!」
「ぐっ!! うわぁぁぁぁぁあ!!!!」
やべぇ、ちょっと力が入りすぎていたか。
飛んできたナイフに向かって蹴りつけ、さっきみたいに風の爆発を発生させたが、さっきよりも威力が強かった。ナイフが相手に向かって飛んで返ると同時に、相手も吹き飛んでしまい、向かいの家に突っ込んでしまった。
あ~こりゃ騒ぎになるなぁ……だけど、それよりも何よりも、ジルとソフィの方が気になるわ。急がねぇと!
そして俺は、急いで屋根から飛び降りると、その場から走り出し、教会へと向かう。
せめてこれが、杞憂に終わってくれれば良いんだが……嫌な事に、相手の服装が黒で統一されていたのと、その目が、ジュストと同じ様な殺気に満ちた目だった。
こんな気色悪い奴等の思い通りになったら、この国はどうなっちまうんだよ。そうなったら、俺はどうなってしまう? そんなの簡単だろうな、俺は魔王以上の存在にされてしまう。
恐らくこいつらが、ジルやジュストの言っていた、黒い街の人間だろう……。
ふざけるなよ、俺の事は俺が決める! お前等がコソコソと裏で動いて、操ろうとしてくんじゃねぇよ! そんな汚い奴等の計画は、俺が全部叩き潰してやる!




