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君と出会う、もう一度  作者: 梅干し


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1/8

もう一度、君と出会う

放課後の校舎には、昼間とは違う静けさがあった。部活動へ向かう生徒たちの声が、廊下の向こうから聞こえてくる。明日からは夏休みが明け、二学期が始まろうとしていた。

晴は、体育館へ向かう途中でふと足を止めた。

「……あれ?」

校舎裏の方に、人影が見えた。見慣れない女子生徒だった。長い黒髪が夕方の風に揺れている。手には、一眼レフのカメラ。彼女は校舎ではなく、その向こうに広がる空へレンズを向けていた。晴は少しだけ気になった。この時間に、あんなところで何をしているんだろう。そう思った次の瞬間には、もう歩き出していた。

「何撮ってるんですか?」

声をかけると、少女の肩が小さく跳ねた。

「……え?」

ゆっくり振り返る。初めて見る顔だった。それなのに、なぜか、晴にはその表情がどこか懐かしく見えた。

「空……ですか?」

少女がカメラを胸元に下ろす。

「うん。夕焼け」

「夕焼け?」

「今しか見られないから」

そう言って、少女は空を見上げた。雲の隙間から差し込む光が、街を柔らかく照らしている。

「なるほど」

晴も隣に並んで空を見る。

「確かに、きれいですね」

「……うん」

少女は小さく笑った。その笑顔を見た瞬間、晴は一瞬だけ言葉を失った。

きれいだ。

それが、最初に思ったことだった。けれど、それを口にするほど晴は器用じゃない。

「写真、好きなんですか?」

「好き。特に、こういう普通の景色を撮るのが好きなんだ」

「普通の景色?」

「うん」

少女はカメラを見つめた。

「何年か経ったあとに見返したら、きっと大切な思い出になるから」

「へえ……」

晴は少し考える。

「じゃあ、今日の夕焼けも?」

「うん。今日の夕焼けも」

少女はもう一度カメラを構えた。シャッター音が静かな校舎裏に響く。

カシャ。

「……撮れた」

少女が嬉しそうに画面を確認する。

「いい写真?」

「たぶん」

「たぶんなんだ」

「写真って、撮った瞬間には分からないから」

「どういうこと?」

少女は少しだけ考えてから答えた。

「その写真が、本当に大切な一枚になるかどうかは……時間が経ってから分かるんだと思う」

「……そっか」

不思議なことを言う人だ。晴はそう思った。けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。

「俺、桐谷晴です」

少女が目を丸くする。

「……どうして急に?」

「いや、名前知らないまま話してるのも変かなって」

「あ……」

少女は少し戸惑ったように笑った。

「私は、白石遥」

「白石さん」

「うん。桐谷くん」

そこで二人は、同時に少し笑った。まだ名前を知っただけ。それだけの関係だった。

けれど、この日が、二人にとって特別な一日の始まりになることを、晴はまだ知らなかった。彼女はそれ以上なにも語らなかった。ただ、彼女はカメラの液晶に映る夕焼けを、しばらくじっと見つめていた。


翌朝。

「転校生を紹介するぞー」

担任の声に、教室がざわついた。

「転校生?」

「この時期に?」

晴は何気なく前を向く。そして晴は目を見開いた。

「……え?」

教室の前に立っていたのは、昨日の少女だった。長い黒髪。静かな雰囲気。そして、昨日と同じ柔らかな笑顔。

「白石遥です。今日からこのクラスでお世話になります。よろしくお願いします。」

教室から、小さなどよめきが起こる。

「めっちゃ美人じゃね?」

「モデルみたい……」

「どこから来たんだろ」

そんな声が飛び交う中、遥の視線が教室をゆっくりと巡る。そして晴と目が合った。一瞬だけ、遥の表情が変わった。驚いたような。嬉しいような。それでいて、少し寂しそうな。そんな顔。けれど、それはほんの一瞬だった。

「白石は……桐谷の隣が空いてるな。そこに座ってくれ」

「はい」

遥がこちらへ歩いてくる。晴は少しだけ姿勢を正した。

「昨日ぶりですね」

小声で言うと、遥は微笑んだ。

「……うん。昨日ぶり」

「まさか転校生だったとは思わなかった」

「私も」

「……私も?」

「ううん。なんでもない」

遥はそう言って席についた。晴は少し首を傾げた。

そのとき、後ろから声が飛んできた。

「おい晴」

「ん?」

「昨日会ったって、どういうことだ?」

神崎蓮だ。

蓮とは中学からの親友だ。

その隣…ではなく、遥の後ろの席から七瀬美咲も顔を出す。

美咲とは、家も近所で、幼なじみだ。

「私も気になる」

「いや、昨日夕方たまたま学校で会っただけだよ」

「へえー?」

蓮がニヤニヤする。

「転校初日に隣の席。しかも昨日から知り合い。晴、お前……」

「何もねえよ」

「まだ何も言ってねえだろ!」

「顔に書いてあった」

「ひでえ!」

美咲がくすっと笑う。

「もう、蓮は朝からうるさいなぁ」

「美咲まで俺を悪者にするのかよ!」

「だってうるさいもん」

「晴ー! お前からも何か言ってくれ!」

「蓮が悪い」

「即答!?」

教室に笑い声が広がった。遥はそんな三人を見て、少しだけ目を細めた。

「……ふふ」

その笑顔を見て、晴も自然に笑った。

「白石さん」

「ん?」

「これからよろしく」

「……うん」

遥は少しだけ間を置いてから答えた。

「こちらこそ、よろしくね。桐谷くん」

その呼び方は、まだ少し遠い。けれど…二人の距離が変わっていくまで、そう長くはかからなかった。

これは、そんな二人の最初の一歩の物語だった。

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