計画を立てましょう
「話を戻しましょう。とにかく探し始めなければ、見つかる物も見つからないわ」
「ヒントとかないの? その探しモノがだいたいどの場所にあるとか……」
「何もないわ。逆にあったら罰にならないもの」
罰。
彼女が探しモノを探す理由、それは自分の罪を償うためだという。
詳しくなぜ罪を犯したのかは教えてくれなかったけど、彼女の世界で罪人となっているらしい。
その罪が重すぎるため、知らない異世界にて罰を受けているのだという。
それが、この探しモノだ。
探しモノを彼女の世界に持ち帰り、捧げることで彼女の罪は償われるらしい。
この話をしてくれた時、彼女はこうも語ってくれた。
『もし、あかりと鈴木先生が私を追い駆けてこの世界に来てくれなかったら、食べる物も居場所もなく私は死んでいたわ。
食べる物はあかりが。学生や学校という居場所は鈴木先生が、私にくれたものなの。
私は一人じゃ何もできないのよ』
これだけ聞くと、優しい二人だというのに、彼女は彼らを信用していないと言う。
それは何故なんだろう?
「それにしても色も形も分からないなんて、ほぼ探すの無理なんじゃ?
でも、見つかるまであっちに戻れないんだよね?」
「ええ」
それって異世界に永久追放じゃ?
もう戻って来るなって言われているような物だ。
彼女は本気で探しモノを探すつもりなんだろうか?
そもそも、探し出すことに成功しても、それが探しているモノなのか分かるのかな?
「余計なことは考えなくていいわ。とりあえず、今日はこの近辺を探してみましょう」
彼女はカバンからこの街の地図を取り出した。
そして、指を指し示している場所は、この喫茶店のすぐ近くのショッピングモールだ。
その後、今後の予定も決めた。
平日は学校周辺を探し、休日は今日のように少し遠くで探す。
協力を受けてしまった身としては、なるべく協力してあげたい。
「分かった」
「じゃあ、早く行きましょう」
そう言って彼女は席を立つ。
いつの間にかココアは飲み干されていて、僕のココアは冷めてしまっていた。
あったかいうちにココア飲みたかったなー。
僕は少ししょんぼりしていたが、彼女は店の出入口の所まで行こうとしていた為、急いで後をついて行く。
ささっとお会計を済ませ、喫茶店を後にする。
因みに、彼女は喫茶店どころか、この世界のお店は初めて入ったのだという。
だからなんだろう。
喫茶店の中に僕を最初に入らせようとしたり、メニューを最初に決めさせたりしたのは。
お会計もどうするのか分かっていなかったし、お金の数え方とかも分かっていなかった。
彼女の出したお札が一万円札でビックリした。
彼女はただ知らなかっただけなのだ。
この喫茶店に、もしかしたら何かあるのかも知れないと、疑ってしまって少し申し訳ない気持ちになった。
「探しモノを見つけたら、それが探しモノだって、和田さんには分かるの?」
「きっと分かるわ。今、私は魔法が使えないけれど、それさえ見つかれば魔法が使えるようになるはずだから……」
そういうものなのかな?
これ以上彼女を疑うのはダメだろうけど、とても信じられる話じゃないんだよね。
「ねえ、具体的に魔法ってどんな事ができるの?」
「魔法? それを知って魔法が使えないあなたはどうするの? 無意味だと思うのだけれど」
「う、うん。それもそうだね」
どうしよう。話が続かない。
来るときと同じように無言で歩くことになるのは避けたい。
空気が重くなってしまうんだよね。
「あっ、信号! 赤だよ」
「あっちは青……」
目の前の信号は赤だと言うのに、渡ろうとしていた彼女に慌てて声を掛ける。
彼女が指を指したのは、車用の信号機だった。
さっき通った道は歩行者用の信号機がなかったため、車用の信号機を見て渡っていた。
けど、ここは歩行者用の信号機がある。
「あっちは車用で、本来はこっちの歩行者用の信号機を見るんだ。さっきのは、例外だよ」
「そう、一つに統一すればいいのに」
それっきり、彼女は何も言わなくなった。
僕も斜め後ろからついているだけで、何も言わないでいる。
彼女とコミュニケーションを取るのは難しい。
もしかすれば、友達作りよりも骨が折れるかもしれない。
「ついたね。どうする? 手分けして……も、僕が見つけたとしても分からないんだよね」
「あなたは案内してくれればいいわ。
よく分からない所もあるだろうし、入ってはいけない禁忌の場所もあるかも知れない」
「禁忌って」
彼女の世界にはあったのかな、禁忌の場所と呼ばれるところが。
魔女がいるくらいだからあるのかも。
しばらく、歩き続ける。
けどこのショッピングモールは結構広い。
その上人も多く、端から端まで歩くのも大変だった。
結局その日、探しモノは見つからず解散となった。