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「高森君?」
「堀内君の代わり。僕、補欠の一人だったから」
そう言いながら、真崎君の肩をぽんと弾く。
「試合なんてめんどくさいなーと思ってたけど、勝ったら早川さんのデート権一回分。悪くない条件だね。よろしく! 真崎君?」
鼻歌交じりでコートに入っていく後姿を、無言で見送る私たち。
「いい度胸だ、あいつ」
にいっと、真崎君が笑った。
「おもしろい、受けて立とうじゃないか。よーし、俺も本気出すかな」
そう言って私に軽く手を振ると、赤いはちまきを締めなおして、なんでか真崎君も楽しそうにコートに戻っていった。
「なんだって、真崎君?」
美樹が、真崎君が離れたのを見て戻ってきた。
「ええと……」
どう話していいか考えあぐねていると、試合再開のホイッスルが鳴った。
中断していたのは後半3分過ぎ。再開は一組側からのボールで、早速、ボールは真崎君に渡る。
へー。
真崎君は、ドリブルしながらどんどんうちのクラスの人を抜いていった。バスケ部だったということは知っていても、実際に彼がバスケをしているところを見るのは初めて。ドリブルしてても、まるでボールが手に吸い付いていくように戻っていく。
すごい。自由自在って、あんな感じのことを言うんだ。
「上手だねえ、真崎君」
感心したように言う私に、美樹があきれたように言う。
「そりゃあんた、バスケ部のエースだよ? 体育大に推薦で行かないのが不思議なくらい」
「そうなの?」
「なに、知らないの?」
その時、わっと体育館がわいた。
視線をコートに戻すと、いつの間にかボールを手にした高森君がすごい勢いでゴールを目指していた。
「なになにっ。高森って、あんなにバスケうまかったっけ?!」
美樹が興奮して叫ぶ。
小柄な高森君は、姿勢を低くしたまま次々にブロックをドリブルで抜けていく。あっという間に一組の壁を走り抜けると、そのまま軽々とジャンプして見事な3点ゴールを決めてしまった。
体育館中に歓声があがる。
クラスのみんなとハイタッチをしながら笑っている高森君に、観客席も大騒ぎだ。
「すごい、高森君! どうしてあんなにうまいの?!」
「もとバスケ部とかじゃないよね!? すっごーい!」
裕子ちゃんと原ちゃんが手に手をとって飛び跳ねている。
そうして見ている間にも、高森君はどんどん点をいれていく。そうなってくると、メンバーもだんだん高森君にボールを集めるようになってきた。
一組も優勝候補だけあって負けていない。真崎君を中心に、バランスのとれた配置で点を入れていく。体育館内は予想もしない試合展開にすごい騒ぎとなっていた。
「ねえ、あれ誰?」
「かっこいー! 何部の人?」
「バスケ部じゃないよね……あの人、なんて名前?」
あちこちであがる声が耳に入ってくる。体育館中の人々が、急に現れたアイドルに釘づけだ。
見ているうちに、高森君のボールをカットして真崎君がゴールに向かう。背の高い彼は、文句なしのダンクを決めた。
ゴール下から動いた真崎君は、そこにいた高森君と何か言葉を交わした。高森君が笑いながらぺろりを舌を出して、それを見た真崎君が笑う。
あ、高森君、いい顔している。
「すごいね……あの二人……」
唖然として見ていると、美樹がぶんぶんと私の手を握って振り回す。
「すごいどころじゃないよ! マジかっけー!」
どきん。
試合を見ながら、心臓がどきどきしていた。なんで、こんな気持ちになるんだろう。息が苦しくなって、胸の前に組んだ指をきつく握り締める。
真剣な表情も笑った顔も、吸いつけられたように目が離せない。
と、その時だった。
真崎君のドリブルを止めようと隣を走っていたうちのクラスの宮林君の姿が、一瞬ぶれた。何が起こったのかと思う間もなく、二人がもつれてものすごい勢いでゴール下を転がっていく。
「あぶない!」




