白い少女
くっそ……
なんでこの俺がガキの世話なんかしなきゃなんねーんだよ。
冗談じゃねえ。
冗談じゃねえよ。
なんでこんな…
分けわかんねガキの世話しなきゃなんねえんだよ。
ふざけんな。
朝、俺が一番嫌いなもの。
希望ある一日の始まりだとか、んな馬鹿げたこと言ってる奴らもいるが、俺にとっては希望もなにもなし…
無意味な一日の始まり。
窓の外から聞こえる、雀の声。
心落ち着かせるはずのその声も、俺にとっては不快なだけだった。
「うぜぇ…」
文句を言っても、雀の声は鳴り止まない。
いっそ石でもぶつけてやろうか。
しばらくして時計を見ると、短い針が十二の字をこえていた。
何時間も、俺は死んだように天井を見ていただけだったようだ。
カレンダーを見れば、月曜日と水曜日にだけ赤丸がついている。
今月四個目の赤丸。十三日の水曜日。
それは今日の日付。
「さぁって…買いに行くか…」
月曜日と水曜日には俺が愛読している雑誌が発売される。
それを昼ごろに買いに行くのが俺の楽しみ。
それだけが、俺の楽しみ。
俺は玄関においてある財布を取って、うっとうしい日差しの下へ出て行った。
外に出れば雑音がうるさい。
子供の泣き声。
…黙らせろ。
車のクラクション。
…何回も鳴らしてんじゃねえよ。
チンピラ同士の喧嘩。
…あの世でやれ。
本当にウザイ。
世界に神がいるのなら、なぜこんな低脳なやつらを作ったんだ。
他人を傷つけることしか知らねえ。こんな莫迦な連中を。
一番近いコンビニに行くだけで不快感マックス。
まあいいや。
さっさと買って、家帰って読もう。
コンビニの自動ドアが開くとそれを知らせる音が響く。
さっさと目的のモンを掴んでレジに置く。
この時間は客が少ないからレジは大概開いている。
「二百三十円になります」
レジの若い女は少し不思議そうな顔で俺から小銭を受け取った。
わかってるよ。何が言いたいかは。
再びうっとうしい日差しの下へ出る。
長い赤信号。
ぼへーっとあちら側を見ていたら、気になる子供がいた。
真っ白なワンピースを着た、ツインテールの女の子。
風が吹くと肩を越した髪が少し揺れる。
あっちもこっちを見ているように見えた。
…気のせいに決まってる。
青信号。
ここの青信号は短いから皆大急ぎで渡る。
早歩き程度で全て渡れるから特に急がなくてもいいのに…
そういや、日本人はせっかちだってなんかでやってたな。
例えばエスカレーターでわざわざ走るとか…
くだらないことを考えていると、さっきの女の子とすれ違った。
すれ違って、お互いの間が一メートルも開かないうちに女の子は振り返って俺の後ろについてきた。
………なんだよコイツ。
近づくな。
ガキは嫌いなんだよ。
一発怒鳴ればいいか?
いや、いつまでもついてくるはずねえから…
うん。ほっとこう。
無視しとこう。
引き離すためにわざと早歩きで進むと、女の子は駆け足で追ってくる。
俺の隣へ並ぶと、駆け足のままで話しかけてきた。
「ねえ、お兄ちゃん」
話しかけんな。
「ねえ」
うぜぇよ。
「お兄ちゃん」
蹴飛ばしてやろうか?
「お兄ちゃん…」
その後には予想だにもしない言葉が待っていた。
「”歩くイカ”知らない?」
「…………は?」
思わず足が止まった。
歩くイカ?
何言ってんだこいつ。
「”歩くイカ”…知らない?」
知らないも何も、無いだろ…そんなもん。
「”歩くイカ”…??」
「うん。”歩くイカ”」
女の子はにっこりと笑った。
………それが、俺の、最悪な日々の始まり。




