第一話 魔物酔女ミント
真っ赤な苔の絨毯が怯えている。
背の高い樹々は遥上空で枝葉を絡み合わせながら騒いでいた。
薄暗い森に映える黄金色の芋虫がいた。
蠢く身体から金属を引っ掻く音がして、地面は震えていた。
この芋虫は、目の前に立つ人間へ警戒と殺意を向けていた。
全身鎧の騎士。
黄金芋虫に襲われようとしていたその姿は、まるで子供のように縮こんで見えた。
いや!
その騎士は子供だった。
少女ミントはまだ14歳。
大剣を振るい、一撃で黄金芋虫を……潰していた。
「半分潰れたけど、ま、いいか」
ミントは、細かいことは気にしない性格だ。
ドロドロの内臓と思いの外美味しそうな肉が黄金の殻の中に詰まっていた。
……まさかそのまま生で!?
ミントが大剣を大きく振ると、血や肉が一気に綺麗になった。
それと同時に大量の水が一緒に飛んで行く。
この森のあまりの湿気で、金属のまわりにはいつも水滴がくっ付いていたせいだった。
そしてもう一度。
今度は、大剣を空へと出来るだけ高くへと投げた。
投げた大剣は森の上で重なった乾いた枝をガサガサとかき分け……。
バキバキと、そのまま枝ごと落ちてきました。
乾いた枝を落とすのも大変です。
ここでは湿ったものばかりですから、面倒ですが仕方ありません。
でも、どうやら生で食べるわけではないようです。
その乾いた枝でたき火でもするのでしょう。
地面に突き刺さった大剣をそのままに、発火性の高い油を枝に振りかけました。
あとは、大剣を手甲で殴れば……おお、火花が飛びましたね。
大量の枝が燃えて行きます。
これは……結構な火事ですよ?
かなり湿った森なので、彼女は燃え移らないことを知っているはず。
たぶんですけど……。
あっ、気になるのは彼女のほうですよね?
はい!燃えてます!
芋虫と一緒に焼かれています。
でも、鎧の隙間から鼻歌が聞こえますから平気です。
薄暗い森の生物たちは、火事だと思って逃げたかもしれません。
それでも残った者がいれば、香りに釣られていたことでしょう。
ぎゅるるるる~
「食べれそうな奴がいてラッキー。もうたまらない」
兜の顔部分が、半分に割れ、横へスライドする。
そこから十四歳の……。
……え?
九歳に見える可愛い顔が現れた。
今にもヨダレを垂らしそうな、無邪気な表情だった。
腰に下げた短刀を取り出した。
残り火を反射する刃には、曇り一つない。
……もちろん、彼女が丁寧に手入れしているから……ではありません。
「ん~、おいひ~! 皮の裏にへばり付くお肉サイコー」
彼女の恍惚の呟き。
あどけない笑顔。
わかります。
だって、一週間もロクなものを食べていないのですから。
カエルとかタニシとか。
この森で捕まえられただけで良かったです。
ほとんど泥の味ですけどね。
黄金芋虫がいたのは、不運だった。
ガッチガチの甲羅は、どんな武器も通さない。
でも幸運だった。
脱皮直後だったから。
いいえ、そもそもが自業自得だった気がします!
方向音痴のくせに、自分の『魔物酔い』を治す薬の材料がこの森にあると聞いて、一人で意気揚々と飛び込んでしまったのですから。
おまけに、森の入口ですぐ地図を落としていたし……。
「材料はわかっているから、ま、いいか」
この時も言っていた。
でも、仕方ない所もあるんですよね。
魔物と戦っていると、何故かどんどんお酒を飲んだように酔ってしまう。
記憶をなくさないうちは、まだいいのだけれどね。
だから自分で探して、そして作る。
これさえあれば、魔物に対しては凄い強いのにね。
……それか。
魔物がいなくなればいいのに。
「うぷっ……。満腹ぅ~」
カシャっとマスクが閉まった。
ガシャ、ガシャっとお腹をポンポンしているようだ。
焼き芋虫はほとんど残っていた。
それはいいんです。
初めて戦った小金芋虫だったのに、美味しい場所だけ選んで食べていた。
……どこかで知ったのか。
それとも本能が働いたのか?
すると、行く当てもないのに、キョロキョロとし始めました。
あ、まさか……。
「よし!」
よし!って何処へ?
どうしたらいいの……。
いや、この鎧は守ってくれるんだった!
じゃあ、彼女はどこにいくの?
大剣を持ち上げ、背中に背負いました。
全身を包む鎧を、まるで着てないような身のこなしで走って行きます。
彼女の進む先には、この森の中でも鮮やかさを放つあれを見つけたようです。
薬の材料となる、赤い花を。
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この物語はフィクションです。
実況、憶測、個人の感想が含まれています。
なお、ミント本人への確認は行ってないので知らないはずです。




