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★そして、新しく


 この春休みは、今までの人生の中で一番楽しい春休みだった。

 たった二週間しかないなかで、体力勝負のような怒涛のお遊戯タイムが続いた。

 また漁に出たし、また山に登ったし、またオスヤマに女装させたし、また土いじりしたし、また洞窟探検に行ったし、またヒーロー演劇したし、また鬼ギャル先輩たちと遊んだし、またワンちゃん家に泊まったし、また大合唱したし、また生き残りゲームしたし、またお料理教室開いたし、また由佳を泣かせてやったし。

 もっと早く、こいつらと打ち解けていればよかったと後悔した。

 いや、もう後悔はしない。過去の俺に学んだ今の俺は、一回りも百回りも成長できたんだ。バームクーヘンだぜ。ほどよい甘さで周りをメロメロにしても、自分を甘やかすことはない。これからも日々精進。魅力があふれて止まらない男になってやるぜ!

「……何ニヤついてるの、陽平君。気持ち悪いんだけど……」

 変に緊張した新学期初日の朝。玄関に貼り出されていたクラス表を確認していると、由佳が険しく眉をひそめながら声をかけてきた。

「誰が気持ち悪いだと!」

 その頬をつまんで横に引っ張る。それだけで涙は浮かんできた。

「いだいいだいっ! やめへおっ!」

「――こら! 何やってんのよ、和智田!」

 すかさずエミリーが飛んできて手を叩き落とされる。

「なんだなんだ、朝から女を泣かせやがって。二年生になってもおめぇはガキのまんまだな」

「オスヤマ君も人のこと言えないけどね……」

「なんだと!?」

 寝癖がついたままのオスヤマは、スケボの首を片腕でロックして、頭にこぶしをグリグリと押しつける。

「ばっかだねぇ。ホント、高校生の男なんてどいつもこいつもアホ面のガキさ」

「そういうところが可愛いのよ♪ アタシならもっとイイ男にしてあげられるけど♪」

 呆れ顔のバチ子は鼻先で笑い、世にも奇妙なキノコ頭のヤバ美は瞳をキラキラさせながら靴を履き替えた。……ウインクを飛ばさないでくれ……。

「皆の衆、早くからご苦労。小生はクラス割りが気になりすぎて、昨日から一睡もできなかったぞ!」

「それは~、バンドー君だけクラスが別になっちゃうフラグだね~」

 ギンギンに目を見開くバンバンに、ゴンはえへへと口角をゆるめる。

「……ん? なんだこれ」

 バンバンにつられてクラス表を見たオスヤマは、ふと手を止めた。

 つられ、改めて掲示板に目を向ける。

 新一年生や新三年生の名前がそれぞれ三クラスに振り分けられているのに対し、新二年生の欄には〝全員、二年A組の教室へ移動してください〟とだけ書いてあった。

「えっ、どういうこと? どうしてわたしたちだけ省略されてるの?」

「名前を貼り出されたくない人でもいたんじゃない? プライバシーを守りたいとかで」

「どうせ後でわかることなのにね。俺っちはすぐに全エンジェルの居場所を把握しちゃうよ!」

 確かに、一学年が四十人程度しかいないんだ。隠そうとしたところで意味はない。

「とりあえず、朝ごはんにしようよ~。朝からランニングさせられて、もうヘトヘト~……」

「まだ続けてたのかい、肉体改造計画」

「一人よりも二人のほうがパワーを燃焼できるということに気づいたのだ。貴様も参加するか? おなごも大歓迎だぞ!」

「やだね、めんどくさい。そういうのは押山が適任さ」

「早起きなんてめんどくせぇよ。スケボがひそかにやりたそうにしてるぜ」

「俺っちに面倒ごとを押しつけないでよ!」

 お前ら、付き合い悪いな。ずっと孤独に筋トレをするバンバンを想像してみろ。可哀相だろ。

「わっちーならやってくれるんじゃない?」

「だが断る!」



 食堂で朝食を済ませ、二階の西棟に変わった教室へと向かう。

 中に入ると、ニッコニッコのニコちゃんが小鳥みたいな軽やかな声で出迎えてくれた。

「みんな、おはよぉ!」

 多分、ニコちゃんが突然「ホケキョ!」とか鳴き出したら、みんなで外を見る。

「ねえねえ、聞いてよリーダー! 太史くんがね、みんなとクラスがバラバラだったら寂しいなって、朝から心配してたんだよ!」

「そんなことは言っていない! 教室が静かになると言っただけだ!」

 教壇に立って黒板に貼られた紙を見ていたワンちゃんは、振り返りざまに叫ぶ。

「えぇ~! 〝太史くんは寂しくないの?〟って聞いたら、〝少しはな〟って言ってたじゃん!」

「言ってない!」

 二人とも、朝から元気だな。

「で、そのクラス分けはどうなったのよ」

 エミリーに続いて黒板の紙を覗き込む。それはクラス表ではなく、座席表だった。一年の時よりも席が一列増えて、全部で十七人分ある。旧一年B組のメンバーに加え、なじみのない名前が四つ書かれていた。

「……代わり映えしなくて飽きる」

 変わらず出席番号一番のねねっこが、窓側最前列で頬杖をつきながら眠そうに息を漏らした。

「えっ、どういうこと……!? 俺っちたちはクラス替えしないの……!?」

「──しないんじゃなくて、できないそうよ」

 全員で首を傾いでいると、静かにスライドした扉から姐さんが入ってきた。

「元A組とC組の生徒がほとんど退学や転校でいなくなったから、クラスを一つにまとめたんですって」

 はぁ!? いやいやいや! いくらなんでも減りすぎだろ! 一年で三分の二が消滅するってどんな学校だよ! そこまで酷かったか!?

「あら、可哀相に。陽平ちゃんがいないからエンジョイできなかったのね。敵が減ってアタシはラッキーだけど♪」

「わ~い、みんなと一緒ならまた美味しいものが食べられるよ~」

 お料理部じゃないぞ、ここは。

 けどまあ、よかった。またこいつらと一緒か。クラスが分かれたって、朝昼晩と顔を合わせることはできるけど、安心したというか……単純に嬉しい。

 ――そうか。由佳やニコちゃんが怒ったり悲しんだりしてた理由がわかった気がする。確かに、親しかった人が自分から離れていくって、寂しいもんだな。

 自然と手が伸びて、目の前にあったあずき色の頭に触れると、由佳は素早く振り返って痴漢でも見るような目で凝視してきた。

「な、何……!?」

「いや、お前も可愛いところがあるなと思って」

「は……!? ば、馬鹿じゃないの!?」 

 せっかく褒めてやったのに睨み返された。……変な生き物だな。

 とりあえず、席に着いて残りの四人を待つことにした。

 ……また一番後ろの出っ張り席か。四人増えただけだと席順もあまり変わらないな。というか、俺とファミリーたちとを隔てるように新メイトたちの席が食い込んでやがる。神のイタズラか?

「新たな敵は四天王か! まさか、怖じ気づいて逃げたのではなかろうな!」

 いや、この学級壊滅状態で生き残ったということは、そこそこ神経が図太い奴らなんだろう。間違っても撃つなよ。

 封印したはずのマシンガンを磨き始めたバンバンを横目で見つつ、頬杖をついた。

 ――そして、その時はやってくる。

 始業のチャイムが鳴りやむと同時に開いた扉から、ただならぬオーラをまとった四人が入ってきた。

 先頭にいた男子生徒は指をパチンと鳴らし、

「さあ、僕ちゃんの席はどこだ~い? とっとと案内しな、愚民ども!」

 かけていたサングラスを外して、制服の胸ポケットに挿した。……なんかキモイ。

「ああ……また席が後ろのほう……また何も見えない……」

 目の下に真っ黒なクマを作ったゾンビ少女は、魂を吐き出すようにヒュウとため息をつく。……なんかコワイ。

 確か、元A組の二人だっけか。見たことはあるな。

「見てよハニー! また席が隣同士だよ! あはははは!」

「やっぱり運命の糸で結ばれているのねダーリン! うふふふふ!」

 キモイ&コワイ! 元C組のバカップルじゃねぇか!

 よりによってこんな奴らが来るとは……。生き残ったというより取り残されたって感じだ。

 ま、俺様の敵じゃないぜ。和平の使者はこんなところでくじけやしない。今後どんな奴に出会っても、どんな困難に出遭っても、俺は俺のやり方でそいつを幸せに導いてやるんだ。いい意味で、俺と出会ったことを後悔させてやるんだ。

 それは、二十歳になっても三十路になっても定年になっても変わらないだろう。

 百歳になったら、名物ジジイとして世界にその名を轟かせ、果てしなく長い道のりの中で、数えきれないほどの人たちを笑顔にさせるんだ――!


 一年前には咲いていなかった桜が、笑うように揺れている。花びらが窓から舞い込み、追い風に吹かれて目の前でくるりと一回転した。

 そいつが地面に落ちるよりも早く、俺は勢いよく立ち上がり、伸ばした右手の人差し指でビシッと敵をロックオンして、威勢よく言い放った。



「――俺はこのクラスのリーダー、和智田陽平様だ! まずは挨拶代わりに、お前たちの生まれた日を教えてもらおうかぁぁぁぁぁぁぁ!!」







(終・わ・り?)

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