11 王都前の再会
夜が明けて、しばらくして。
丘にのぼっていき遠くまで見通せるようになった。
「あれが王都だ」
「ええ……?」
どこまでも広がるような草原に、どん、と壁に囲まれた建物が見えた。
異質だ。
「ここからは歩いていく」
「どうしてですか?」
返事の前に馬が消えた。
「うわっ」
きれいに着地するアリンさんのうしろで、俺もなんとか着地した。
「……離れてもらっていいか」
「あ、すいません」
まだアリンさんの腰にしがみついていたので、ケンタウロスみたいになってしまっていた。
「あまり、私のスキルを見せびらかしたくないからな」
「……ありがとうございます!」
「なんだ?」
「アリンさんの、誰にも見せたくない秘密の部分を見せていただいて、ありがとうございます!」
「変な言い方をするな!」
変だろうか? そのままだと思うが。
王都に向かって、草原の中に整備された土の道がある。そこを二人で歩いた。
なかなか近づいてこない。
山に向かって歩いても、近くに見えてなかなか近づいてこないように感じたことがあった。それと同じ感覚だろうか。
「もしかして、王都ってものすごく大きいですか?」
「そうだな。城も、町も、民家も、畑も、なにもかもある」
「ふえー。あれ、人の列ですか?」
高い壁に、門のようなものが見える。
近づいてみるとわかったのは、そこからパラパラとならんでいるのはどうやら全部人で、その列がけっこう長い。
百人はいそうだ。荷馬車なんかもある。
「あれは、順番待ちだ。王都兵など、きちんと身分を保証できない者は、門の前で審査がある」
「そんなものが」
「この時期は特別だ。もうすぐ武術大会がある。そういうやつらは決まってやっかいなスキルや、技、魔法を身につけているからな。犯罪防止の為、徹底的に審査、管理をすることになっている」
「へえ」
「……ああいう、ならんでいる一般人狙いの盗賊が出てくる時期でもあるな」
「え?」
馬が近づいてきたと思ったら、俺たちの近くで止まった。
髪がぼさぼさ、ひげもじゃもじゃ、体がムキムキという絵に描いたような荒くれ者三人だ。
「おい、いい女連れてるじゃねえか!」
「おいそこの姉ちゃん、おれたちといっしょに遊ぼうぜ」
「げへへ」
「ほら、おれの馬に乗るか? それともおれが乗ってやろうか? げへへへへ!」
三人でいっせいに笑った。
「おいそこの兄ちゃんよ、こっからはひとりで行ってもらうぜ」
すると、アリンさんが首をまわして、手をにぎったり、開いたりした。
「肩の関節でも外して、それで帰るならよし、帰らないなら……」
ぶつぶつ言っている。
あ、そうだ、アリンさんは、王都遠征兵の人だ。
こういう人たちの扱いも慣れているのか。
この人たち、ボコボコにされてしまうかもしれない。
いや、ボコボコくらいだったらいいけれども、ズタズタとかバラバラにされたら、俺も心の傷を負ってしまうかもしれない!
「えっと」
俺は彼らに話しかけた。
「まあ、ここはこのへんで、ね。知らない者同士、知らなかったことにして、お別れしましょうよ」
「なんだお前、やる気か?」
男のひとりが馬からおりて、俺に近づいてくる。
「ぎゃはは! アニキとやるんだってよ!」
「いまのうちに謝って、その女出したほうが、身のためだぜ!」
「いや、あなたたちのことを思って、なんですけど」
「ほう。お前は、おれたちよりも強いってのか?」
男がにらみつけてくる。
「あ、そういう意味じゃなくて」
「オラ!」
男が足をふりあげると、思いっきり俺の足をふんだ。
「出たー! アニキの足ふみ!」
「先手必勝! これでお前の足はもう、役立たずー!」
見れば、男のはいている靴の底は、金属製のようだ。
「だ、だいじょうぶか!?」
アリンさんはあせったように言う。
でも痛みはなかった。
どういうこと?
「どうだ! これでもう、抵抗しようって気はなくなっただろう!」
男は得意げだ。
……そうか。
これは警告だ。
俺が引っ込まないなら、今度こそ、ボコボコだぞ? って言ってるんだ。
なかなか優しい盗賊じゃないか。
でも実際はちがうのだ。
アリンさんなのだ。
君たちをやっちゃうのは、アリンさんなのだ。
「アリンさん、俺はだいじょうぶです。……あの、悪いようにはしないので、今日はこのへんで帰ったほうが……」
「ああ!? オラオラ、オラー!」
男は顔をゆがめるようにすると、俺の足を連続でふみつけた。
「でたー! アニキの連続足ふみ!」
「これはもう耐えられないー!」
村でもらった靴は、あちこちが破れてしまっていた。
でも痛みはない。
どういうことだろう。
俺はまだ、スキルを封印するという首輪をつけたままだ。
ということは、仮に俺がスキルを持っていたとしても、使えないはず。
つまり……?
男は俺を痛めつけていない……?
どういう……?
「おい、本当にだいじょうぶなのか?」
アリンさんが、俺の表情を見て不思議そうに言う。
男は、俺の横を通ってアリンさんの方へ向かった。
「へっへっへ。行こうぜ姉ちゃんよ。おれたち三人で、ケルベロスっていうんだ。名前くらい知ってんだろう? おれたちについてくりゃあ、まじめに働くより、いい生活させてやるぜえ?」
「……ケルベロス!」
俺が叫ぶと、男たちがみんなこっちを向いた。
すべての謎が、つながった。
ケルベロス。
グルル。
どうやら、これは同じものらしい。
そして、グルルは俺を痛めつけない。
この人も俺を痛めつけていない。
ということは。
「お前、グルルだな!」
ふふ。
これは完全にわかってしまった。
通じ合ってしまった。
「グルル、お前、転生、したのか……?」
話には聞いたことがある。
生前の記憶を持ったまま、新しい生活を始めたという人の話だ。
そんなことないといままで思っていたけれども、そうか、なるほど。
グルルは死んでしまったのか……。
「グルル……。昨日の今日で死んでしまうなんて、なにがあったか知らないが、つらかっただろうな……。でもいいんだ! 俺だ、バインだ!」
俺は、男に近づいた。
「アニキ! こいつ、連続足ふみくらって、平気で歩いてますよ!」
「アニキの足ふみが、効かない……?」
「グルル! 一緒に行こうぜ!」
「アニキ、こいつ、まさか、武術大会の参加者なんじゃないですか!?」
「グルル! 俺たちは一緒だ!」
「変なスキル持ってんですよ! だから余裕だったんですよ、アニキ!」
「ちっ、ずらかるぞ!」
男は馬に乗る。二人の男も、あわてて続いた。
「早く走れ、バカ馬!」
「アニキ! 待ってくださいよ!」
ドドドド、と馬が走り出した。
「え、ちょっとまってくれよ、グルル!」
なんで行っちゃうんだ!
せっかく会えたのに!
「行かせればいい、面倒くさい」
アリンさんが言う。
「どうしてですか!? せっかく、グルルに会えたのに!」
「そんなわけないだろう」
「アリンさんには、俺とグルルのことはわからないんですよ! 転生してまで、俺に会いに来てくれたんですよ!」
「そんなことありえないが、仮に、もし転生したなら、子どもからやり直しなんじゃないのか?」
「……え、じゃあ、なんですか、いまの」
まったく意味がわからない。
「それより、なんでお前は足をケガしていないんだ? スキルは使えないはずだろう?」
アリンさんはひざをついて、俺の足を見ている。
「はっ」
待てよ。
転生が、子どもだけとはかぎらない説……?
いきなり大人も、ある説では……?
「お前が何者なのか、王都の中で徹底的に調べてやるからな!」
「……」
アリンさんが俺を調べるというのなら。
転生、いきなり大人もある説についても、調べていただこう。
俺は静かに決意していた。




