31 対決
赤松とは完全に決裂したが、他の三人にも説明はしなければなるまい。結局この日はログインせず、赤松たちとワールド・オーバーライド・オンライン内で話をするのは翌日となった。
特に事前の連絡もしていないし、できるはずもない。いつも通りの時間に雅雄とツボミはログインして、目下攻略中だった知恵の洞窟の入口に行ってみる。当然のように赤松、青木、緑沢、桃井は待っていた。
「時間通りですね」
腕時計を見て青木がつぶやく。赤松は前に出て、険しい顔で言った。
「何しに来た? 俺たちが削ったボスを横取りしようとでも思ったのか?」
「は……?」
雅雄とツボミは意味がわからず顔を見合わせる。赤松はドヤ顔で告げた。
「残念だったな! あのボスは俺たちが倒した! おまえらの卑怯な企みは阻止されたってわけだ!」
青木はクイッとメガネを上げる。
「ま、削ってたのはほとんどお二人のような気がしますけどね……。前のダメージが持ち越しだったので勝てたわけですから」
青木の言葉でようやく雅雄は赤松が何を言わんとしていたか理解した。知恵の洞窟最奥部で待ち構えていたキングゴーレムには、前回雅雄たちがともに戦ったときのダメージが残っていたのだ。その状態からであれば、赤松ら四人だけでも外周にあったパズルを駆使すれば勝てる。
赤松たちは独力で再びボス部屋まで到達し、キングゴーレムを倒してしまった。前回、キングゴーレムにダメージを与えていたのは主に雅雄とツボミである。雅雄は赤松のとんでもない言いがかりに唖然とした。どっちが横取りなのかわからない。
「散々俺たちを利用しやがって! 落とし前をつけてもらおうか! おまえらの〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉を寄越せ! それで手打ちにしてやる!」
雅雄は赤松の不遜な要求に愕然とする他ない。何もかもが言いがかりで、どうしてそんなに自信満々なのだ。
「意味がわからないんだけど。ボクらが君らに何かする必要性を感じないね。そんな要求は拒否するよ」
ツボミははっきりと赤松にノーを突きつけた。当たり前である。雅雄だってこんな話は断るに決まっている。
おそらく、赤松は仲間たちに「雅雄から〈ブルー・ヘヴン〉を取り上げてツボミを仲間にする」などと調子のいい説明をしていたのだろう。そして失敗したので雅雄とツボミに卑怯者のレッテルを貼り、理不尽な要求をして雅雄たちを煽っている。自分の面子を守るためのごまかしだった。
「君ら、恥ずかしくないの? 自分たちでわかってるだろう? 厚顔無恥な要求をしてるって」
ツボミは四人の顔を順番に眺め回す。青木と緑沢は顔を背けたが、桃井は開き直る。
「関係ないでしょ! アタシたちは勝ちたいの! だから、あんたたちの剣を寄越しなさい!」
非常にストレートで、わかりやすかった。仲間にできないなら、殺して剣を奪い取る。どういう経緯かは知らないが、この四人の中でそういうコンセンサスができているのだ。
「あ、青木君、緑沢君。本当にこんなやり方が正しいって思ってるの?」
雅雄は一縷の期待を抱いて二人に問い掛けた。赤松は雅雄たちの正しさを絶対に認めないだろうし、桃井は剣を奪えるならお題目は何でもいいと思っている。でも、この二人は違うのではないか。
「こういうやり方が正しいとは思いません。ですが、私たちが勝つ方法を考えるのが私の仕事……! 先にこちらの信用を裏切ったのは雅雄君、あなたでもあります」
「我が輩自身は雅雄殿たちと戦いたくはないと思っている……。いろいろあったが、我らは仲間だったのだと我が輩は今でも信じている……。だが、皆がそれを望むなら、騎士として皆の剣になろう」
青木は覚悟は決まったと言わんばかりに真剣に語る。緑沢も若干の迷いを見せながらも雅雄たちと戦う道を選んだ。
「勝てると思ってるの? ボクらに」
ツボミは声を低めて問い掛ける。青木がメガネをクイッと上げた。
「もちろん。言ったでしょう? 我々はこのダンジョンを攻略したんですよ?」
「こいつらに俺たちの力を見せつけてやろうぜ」
赤松は不敵な笑みを見せる。雅雄はここでようやく気付いた。四人全員が同じデザインのブレスレットをつけている。赤松に至っては右と左で二つ装着していた。赤松、青木、緑沢、桃井は叫んだ。
「来い! マジンビーグル1号! マジンビーグル3号!」
「来なさい! マジンビーグル2号!」
「顕現せよ! 我が愛馬、マジンビーグル4号!」
「出てきて! マジンビーグル5号!」
赤松たちの背後に魔方陣が現れ、ちょっとしたトラックくらいのサイズの車が出てくる。ファンタジックなデザインだが、全て自動車ということだろうか。
「今日がてめえらの命日だ! 覚悟しやがれ!」
赤松は吠え、赤い車体に金の装飾が施されたマジンビーグル1号に乗り込んだ。




