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3 嫌すぎるイベント

「……雅雄君、とっても楽しそうだったな」


 途中の村で雅雄たちと別れ、メガミはポツリと漏らす。結局、距離がありすぎて【マキナシティ】までは到達できなかった。その一言を、火綱は耳聡く逃さない。


「もう厳しいんじゃない? あの二人、無茶苦茶仲よさそうだったわよ」


「ひ、火綱ちゃんは何を言ってるのかな!?」


 メガミは目に見えて動揺してしまう。冷司は嘆息した。


「あんな冴えない人のどこがいいですかね……。そりゃあ男の私から見ても顔は綺麗だと思いますが……」


「その通りですぞ! あの小僧はメガミ様にふさわしくありません!」


「愛は無限でござる! ニンニン!」


 ピヨちゃんはやかましく飛び跳ね、ユメ子は嬉しそうに意味もなく印を結んだ。メガミは顔を赤らめながら、みんなから目を逸らす。


「もう! そういうのじゃないって言ってるのに!」


「これは何もできずに、そのままあの子の中からフェードアウトしちゃうパターンね。望みはほとんどゼロだけど、行動した方がまだ後悔はないんじゃない?」


「……」


 メガミは黙ってしまって何も言わない。冷司は今一度ため息をついた。


「本当にもったいないなぁ。なんだったら、私が付き合って……」


「あんたは彼女いるでしょ~が!」


 冷司は火綱に後頭部をチョップされて「酷いや、姉さん」と声を上げた。その様子を見てみんなが笑う。メガミだけが、ツ~ンと拗ねたままだった。


 メガミは皆に聞こえないようにつぶやいた。


「大丈夫、雅雄君は絶対私のところに戻ってくるよ……。だって、香我美さんより私の方が凄いんだもん……。雅雄君はそういう人しか好きにならない……。だから、私は……」



「あああ~っ! 完全に忘れてた! 明日は体育祭じゃないか!」


 ログアウトして自室に戻るなり雅雄は頭を抱える。ワールド・オーバーライド・オンラインをプレイしているときにありがちな現象だ。七時間も必死で戦っていれば、現実での予定など頭から吹っ飛んでしまう。


 うちの学校は暑くならないうちにということで、体育祭が五月にあるのだった。秋の文化祭とかぶらないため、という理由もある。


「そういや、そうだったね。楽しみだなあ」


 同じく戻ってきたばかりのツボミはのんびりと言った。ゲームの世界では最初にキャラメイクしたときから変わらず長髪のままだったけれど、現実において勢いで切ってしまった髪は元に戻らない。しかし、美容室で整えてもらったショートは、女子としては背が高くて凜々しい感じのツボミによく似合っている。


 この髪型で走ったら、完全に部活に勤しむ少女だろう。まさか狙って切ったのだろうか。いや、そんなわけはない。


「ボク、リレーのアンカーなんだよ! みんながボクにはアンカーが似合うって!」


 ツボミはニコニコしながら告げる。実力なら運動部のガチ勢には敵わないはずだが、ネタとノリでアンカーにされたのだろう。本人は喜んでいるのでいいのだろうが、道化である。


「はぁ……明日は学校休もうかな……」


 ツボミの笑顔を見ても気分は乗らず、雅雄はぼやく。体育祭は雅雄にとって、一番嫌な学校行事だった。ちなみに二番目は球技大会だ。鈍臭い雅雄は、運動系の行事が憂鬱で仕方ない。真剣にサボるかどうか悩んでしまう。


「えっ、雅雄、休んじゃうの? 本気?」


 ツボミは意外そうに尋ねてくる。そりゃあ、そこそこ運動神経のいいツボミからすれば何のプレッシャーもないイベントなのだろう。けれども雅雄からすれば公開処刑イベントである。


「僕が行っても仕方ないからね……」


 うちの学校は中高一貫で高等部に合わせているせいか、体育祭は大して力を入れていない。組み立て体操なんかやらないし、女子の創作ダンスや男子のエッサッサとかいうよくわからない踊りも有志のみだ。練習も有志以外は本番前のリハーサルのときしかしないし、先生もそんなに厳しくは言わない。父兄もあまり来ない。


 しかしその分綱引きやら騎馬戦やらのクラス対抗戦が多く、優勝争いは盛り上がる。徒競走に至っては50メートル走、100メートル走、1500メートル走の三種類もあり、リレーも普通のものとスウェーデンリレーの二種類あった。


 当然、クラス全員参加の競技には出なければならないし、個人競技にも二種目は出ることになっている。雅雄は戦犯になってしまわないか戦々恐々だ。とにかく目立たないことだけを祈るのみである。


「そんなことないよ! ボクは雅雄と一緒の体育祭、楽しみにしてるんだけどな……」


 ツボミは心底ガッカリした表情を見せる。どうやら本気のようだ。雅雄は苦笑いして言った。


「そこまで言ってくれるなら行こうかな。後で怒られても嫌だし……」


 うん、まあ、どんなに嫌でもサボリはよろしくない。一度サボリの味を覚えれば、雅雄は登校拒否にまっしぐらだろう。自分を律するためにも、行くだけは行くべきだ。雅雄の言葉で、ツボミの表情がぱぁっと晴れる。


「絶対だよ? ボク、雅雄のためにがんばるから!」


「ハハハ……期待してるよ……」


 張り切るツボミを見て、雅雄は曖昧に笑う。雅雄とツボミはクラスが違うので、むしろ敵同士なのだが……。

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