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53 KO劇場

 次の日、登校してきたツボミを見て、学校中がざわめいた。ツボミはちょっと前まで着ていた軍服風の改造制服で颯爽と登校してきたのだ。


 ツボミは校門で風紀委員に止められた。すぐに血相を変えて先生が飛んでくる。


「香我美さん! 昨日の今日で何ですかその格好は! あなた、本当に反省してるの!?」


「先生、前にも言ったはずですよ。校則では制服の規定なんてありません。この制服で全然問題ないですよ」


 怒られてもツボミは堂々とない胸を張り、全く気にしていないという風に笑った。ツボミは先生を無視して校舎に歩き出す。


「そんな屁理屈、社会で通用すると思っているんですか!? ちょっと、待ちなさい!」


 先生はツボミを追いかけるが、ツボミはどこ吹く風である。たまたま後ろから様子を見ていた雅雄は顔を引きつらせていた。ひょっとして雅雄は、押してはいけないボタンを押してしまったのではないだろうか。




 ツボミは教室に入る。例によってツボミの机は落書きだらけで、菊の花が飾られていた。自分の机を一瞥したツボミは回れ右で教室を出て、雅雄のクラスに向かう。いったい何をする気だ。見守っている雅雄は気が気でない。


 ツボミは雅雄の教室に入り、談笑している女子の一団に向かってつかつかと歩いていった。静香のグループである。静香はにこやかに応じた。


「あら、香我美さん。どうしたの? おかしな格好しちゃって」


 いきなり静香に毒を吐かれてもものともせず、ツボミは口角を上げて心底楽しそうに笑った。


「悪いやつっていうのは一目見たらわかるんだよね……!」


「は? 何を……? キャッ!」


 ツボミは静香の袖を掴み、静香が反応できない早さで手前に引き寄せる。ツボミは静香の襟口にも手を掛け、勢いよく一本背負いで投げ飛ばした。


「カッ……ハッ……」


 硬い床に叩きつけられ、静香は悶える。静香の前のボタンが弾けて飛び、どこかに転がっていった。木刀で雅雄を襲撃したときはてんで滅茶苦茶だったが、今回の一本背負いは美しいものだった。多分、ツボミが怒りで我を忘れておらず、落ち着いているからだ。


 肉体言語で会話は終了したと言わんばかりにツボミは静香に背を向け、教室を出ようとする。しかし静香が引き留めた。


「待ちなさいよ! こんなことして、ただで済むと思ってるの!?」


 静香は痛みで涙を流しながらも感情のままに吠える。ツボミは静香を嘲って挑発した。


「へぇ、どうなるっていうの?」


「殺してやるわ!」


 今度は静香が怒りで我を忘れていた。静香が冷静なら変に反撃しようとせずに今回の件を先生に報告してツボミをまた出席停止、場合によっては転校にまで追い込むはずだ。


 静香は前がはだけて花柄のかわいらしいブラが露出しているのにも気付かず、ツボミに飛びかかる。ツボミは闘牛士のようにひらりと横に避けてまた静香の袖をとり、今度は足を引っかけて尻餅をつかせる。


 雅雄相手には木刀をでたらめに振ることしかできなかったツボミだが、女子の中では体格は大きい方だし、運動神経も悪くない。落ち着いていれば、女子の中では無敵に近いだろう。


 なおも静香はツボミに掴みかかるが、全く相手にならない。ローキックで足を止められ、小外刈りで体勢を崩され、勢いそのままに壁へと押し付けられた。後頭部をしたたかに打った静香は昏倒し、その場に崩れ落ちる。


「う~ん、やりすぎちゃったかなあ」


 ツボミは静香を見下ろす。打ち所が悪かったらしい。静香の股間からは生暖かい液体が漏れ出してスカートを濡らしていた。



 結局、ツボミはまた出席停止となった。静香に失禁させるほど危害を加えたため、転校とか少年院とかいう話も取り沙汰されたらしいが、今回は静香たちによるいじめも絡んでいる。また最初以外は静香から仕掛けたため正当防衛も認められ、一週間の出席停止という処分になったわけである。ついでにいじめの件で静香たちも先生にこってり絞られた。


 ちなみに証言の大部分は雅雄だった。静香にばれないように祈るのみだ。


 出席停止中も、ツボミは雅雄とともにワールド・オーバーライド・オンラインを毎日プレイした。無理して上を狙うのをやめ、【名もなき村】を拠点にクエストを捜し、挑戦していく。


 発生するクエストは難易度的にちょうどいい感じで、二人が協力すれば問題なくクリア可能なものばかりだ。ちょっとしたアイテムやお金を、雅雄とツボミは次々手に入れた。世界を救う勇者ではないけれど、村勇者くらいのポジションを雅雄たちは確保した。


 そのうちいちいち時間を合わせるのが面倒だということで、ツボミは出席停止中にもかかわらず雅雄が住んでいるアパートに来るようになる。なぜかツボミは雅雄が好きなちょっと古いゲームのことをよく知っていて、話が盛り上がった。




 すぐに一週間は経ち、ツボミは復学してくる。もちろん服装は、勇ましい軍服風の改造制服だ。静香が失神失禁KOされたことはアンタッチャブルな話題になっている。それに伴ってツボミの存在自体もアンタッチャブルとなっているようで、あれだけ群がっていた下級生も含めて誰も話しかけようとしない。同級生女子たちはツボミの姿を見ると目を逸らす始末だ。


 だがそんなことはツボミの知ったことではない。本人はない胸を張って堂々とぶらぶらする。廊下で鉢合わせると、ツボミは雅雄に普通に挨拶してきた。


「やあ、昨日はありがとう。今日はどうする?」


「じゃ、じゃあ、帰ったらすぐ……5時ぴったりでどうかな?」


「いいね! 今日は何持っていこうか?」


「ACLR、お願いできるかな? 新作はやったことあるんだけど、古いのはやったことなくて……」


 雅雄は顔を引きつらせながらも相手をする。静香が後方から絶対零度の視線を雅雄に注ぎ続けていたが、ツボミは一切気にしない。


 重度の凍傷はむしろ火傷のように熱く感じるのだと何かの漫画で読んだが、雅雄の背中はそんな感じだ。静香の視線が冷たすぎて冷や汗が垂れるけど焼けるように熱い。あれだけボコボコにされてまたツボミに突っかかる気力は、静香にだってまだないだろうに。放置でいいよね……?

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