50 終わった二人の冒険
雅雄はツボミのスマホにインストールされていたワールド・オーバーライド・オンラインで一緒にゲームの世界に入った。複数人ログインに対応しているのだ。二人は【ブレイバーズシティ】セーブポイント前に出現する。
「どうするの? はじまりの洞窟に行ってみる?」
「いや……【名もなき村】に行こう」
ツボミに尋ねられ、雅雄は答える。今さら低レベルダンジョンに行くより、【名もなき村】でクエスト発生を狙った方がいい。一度行ったところのセーブポイントなら、他のセーブポイントから一瞬で移動できる。雅雄はツボミを連れて、【名もなき村】に移動した。
まずはシノに会ってみよう。ツボミの分の〈身代わりのお守り〉をくれるかもしれない。
雅雄とツボミはシノの家に行ってみるが、誰もいなかった。それどころか、村のどこにも人の気配がない。いったい何が起きているというのだ。雅雄が村はずれの畑で立ち尽くして戸惑っていると、シノの大声が耳に飛び込んできた。
「雅雄~! 助けてくんろ~!」
「シ、シノ!?」
雅雄はギョッとする。シノを後ろから『キバいのしし Lv.10』が五匹ほど追いかけていたのだ。前にこの村でいたときより遙かにレベルが高い上に、数が多すぎる。勝てないかもしれない。そう思って固まった雅雄を尻目に、隣にいたツボミは動いた。
「行くよ!」
ツボミは果敢に前進してキバいのししに剣を叩きつける。キバいのししは一撃で倒れた。慌てて雅雄も加勢し、ばったばったとキバいのししを撃破していく。そうだ、今は一人ではないのだ。装備もかつてに比べれば格段によくなっている。敵の数が多くても恐れることはない。雅雄とツボミはすぐにキバいのししを全滅させた。
「いや~、雅雄、助かりましたわ~! 死ぬかと思った!」
「シノ、どうしてこんなことに……?」
にゃはは、と笑うシノに雅雄は尋ねる。シノは答えた。
「ここのところ森でキバいのししが大発生して畑を荒らしてるから、みんなで駆除してるんよ! 雅雄と、雅雄の仲間さんも協力してくれる? 領主様に手紙は出してるけど、全然来なくて」
シノが申し出ると同時に、左上方にウィンドウがポップした。
『クエスト:いのししを狩り尽くせ! 受託条件:Lv.5以下 クリア条件:クエストボスを倒し、キバいのししを全滅させること 報酬:〈反射鏡〉 備考:時間無制限』
雅雄はツボミに目配せする。ツボミはうなずいた。
「もちろんだよ」
「ボクも、手伝わせてもらうよ」
「ありがとう! 私も手伝うんよ! 雅雄、頼りにしてるからね!」
二人の返事とともにクエストは受託され、シノもパーティーに加わった。さぁ、森でいのししを狩ろう。
森に入るとLv.15~20くらいのキバいのししが、群れで何度も出現した。この地域はプレイヤーと同程度の敵しか出現しないように設定されている。敵の数が多いことも勘案して、今の雅雄やツボミはLv.20ちょっとの実力があると判定されているようだ。ちなみにシノも雅雄たちに合わせてかレベルアップしており、Lv.10となっていた。
村人たちも各地で戦っていて、雅雄たちは村人の手に負えない敵を倒す遊撃隊のような役目を果たす。必然的に雅雄たちが戦うのはレベルの高いキバいのしし五匹以上の群れとなり、それなりの苦戦を強いられた。三人は拙いながらも連携して、襲い来る敵に対抗する。
「雅雄! そっちに二匹いった!」
「了解! 任せて! 香我美さんは大丈夫!?」
「ボクの方は問題ないよ! 『フェザースラスト』!」
雅雄が通常攻撃でキバいのししを引きつけている間に、ツボミは後ろに回り込んでモーションスキルを発動する。黒のオーラとともに初級の突き技がいのししの尻に命中し、一匹を撃破した。硬直に襲われているツボミを狙わせないよう、即座に雅雄も『フェザースラッシュ』を発動し、もう一匹も倒してしまう。
キバいのししは鈍重であるが体力があり、撃破するまで雅雄やツボミだと通常攻撃を二、三回当てる必要がある。大きなキバで突かれると感覚的にもHP的にも非常に痛い。シノが回復魔法、支援魔法でバックアップしてくれるとはいえ、楽に勝てる相手ではなかった。初級のモーションスキルをうまく使わなければならない。
苦労する分、得られる経験値は多い。一回の戦闘につき百近い経験値を獲得できる。次のレベルまであと七万ということを考えれば焼け石に水だが、気持ちはよかった。
戦いの合間、行軍中にツボミはポツリと漏らす。
「ゲームって、本来こういうものだよね。苦しいけど、がんばった分報われる……。フェアで、自由で、ボクらを楽しませてくれるんだ……。競い合うことが本質じゃない……。ボクらはただ、楽しむことに集中すればいい……」
「……そうだね」
ここまでずっと険しい顔をしていたツボミだが、戦っているうちに少しだけ表情が弛んでいた。今まで、死ぬような思いをしてもこんなに経験値は入っていない。単純にそのことが嬉しいし、他のプレイヤーに勝たなければならないというプレッシャーを忘れられているというのもある。雅雄もツボミも、雑念を忘れてゲームに没頭しつつあった。




