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47 ない頭で絞った作戦

 次の日、いつも通りにツボミは上履きをどこかに捨てられていた。いつも通りにツボミは迷うことなく裸足で廊下に出ようとする。ここで雅雄はぎこちない作り笑いを浮かべ、ツボミにスリッパを差し出す。


「よ、よかったらこれ、使いなよ。来客用のやつだけど、勝手に使っても怒られないから」


 前に雅雄が上履きを忘れてきたとき、使わせてもらったものだった。メガミが世話を焼いてくれて、教えてくれたのだ。授業参観などのときに大量に出すものなので生徒が多少使っても何も言われない。


「……大きなお世話だよ」


 ツボミは胡乱な目で雅雄を見下ろした後、そう吐き捨てて去っていく。まあ、想定内である。地道にやっていこう。




 その後、雅雄は事あるごとにツボミを助けようとした。モノを隠される、捨てられるといった経験は雅雄にもあったので、雅雄は対処の仕方をわかっている。自分のものを貸すようなことは絶対にしないが、ツボミがなくしたものを雅雄が調達してくるのは容易だった。まあ、ツボミは雅雄が持ってきたものを頑なに受け取ろうとはしなかったが。


 周囲の反応はただただ困惑、というものである。全然目立たない空気のような陰キャラが急にどうして、と皆頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


 雅雄が謎のやる気を出したことでツボミへの攻撃は目に見えて鈍る。雅雄を巻き込んで攻撃することを、女子たちはためらったのだ。雅雄だって好かれているわけではないが、下手に手を出すと静香が怖い。ツボミと違って雅雄はメガミの介入も拒まないだろう。静香とメガミのことを考えると、ノリノリでツボミをいじめている過激派も躊躇せざるをえない。


 面白くないのは静香だ。昼休みを過ぎる頃にはツボミの周囲はすっかり静かになっていた。静香がせっせと肥料を撒き、まめに水やりをしてここまで育てたのに、雅雄のせいで台無しだ。




「雅雄、ちょっと顔を貸しなさい」


 五時間目の休み時間、業を煮やした静香は雅雄を人気のない旧校舎廊下に連れ込む。静香は雅雄の胸ぐらを掴んでドン! と壁に押し付け、事情聴取を開始する。


「どういうつもり? 香我美ツボミの世話を焼くなんて?」


「いや~、さすがにかわいそうかなって思って……」


 ひきつった笑みを浮かべながら雅雄が釈明すると、静香はワイシャツを捻り上げている手にさらに力を込め、要求する。


「今すぐやめないさい。私のかわいい雅雄なら、聞いてくれるわよね……?」


 静香は口角を上げてニッコリと笑みを浮かべ、血走った目で雅雄の顔を見る。ああ、滅茶苦茶怒ってるなあ。ある意味作戦成功なのだが、こんなに早くプッツンするとは思ってなかった。静香への反撃はできたしツボミもイライラさせている。でも、まだメガミに動きがない。メガミが一番の目的なのに。


 どうしたらいいんだろうと雅雄が視線を宙にさまよわせていると、メガミがやってきた。


「業田さん! 何やってるの!」


 メガミは頬を膨らませて怒っている風の顔をして、近づいてくる。


「ちょっと雅雄とお話してただけよ。平和友好的にね」


 即座に静香は雅雄の胸ぐらから手を離す。メガミを敵に回す気はないのだ。


「じゃ、雅雄、今の話、ちゃんと考えておいてね」


 静香は早口で喋ったかと思うと足早に去ってしまった。雅雄とメガミだけが残される。


「もう、業田さんは相変わらず滅茶苦茶なんだから……。雅雄君、大丈夫? 何もされてない?」


「う、うん……。大丈夫だよ」


 メガミに尋ねられた雅雄はうなずく。多分メガミは雅雄の行動を見て近いうちに静香が雅雄に接触すると予測し、気をつけていてくれたのだろう。そしてメガミは静香と同じように、ツボミのことを訊いてきた。


「ところで雅雄君、すっごく香我美さんのこと気に掛けてるけど、いったいどうしたの?」


 雅雄は少し得意になって答える。


「さすがに見過ごせなくてさ。勇気を出して、助けてあげようかなって……」


 雅雄は胸の前で拳を握って見せ、アピールするが、メガミの反応は微妙だった。


「そ、そうなんだ~……。立派だね」


 メガミは全く似合っていない作り笑いを浮かべる。明らかに、雅雄の行動を評価していなかった。はて、そんなにおかしなことを言っただろうか。浮かない顔をしたメガミは何やらうつむいてブツブツとつぶやく。


「そっか……雅雄君の……な人って香我美さんだったんだ……」


「え? 何?」


 メガミが何を言っているのか聞き取れなかった雅雄は目をパチクリとさせる。しかしメガミはバッ! と勢いよく顔を上げてふるふると首を振った。


「う、ううん! 何でもないの! じゃ、がんばってね~!」


 そう言い残してメガミは走り去ってしまう。いったい何がだめだったのか。残された雅雄はメガミの背中を見送りながら首を傾げた。

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