38 さらなる闖入者
さて、雅雄はというと盛り上がっている皆さんからは距離を置き、ひたすらに宝箱の祭壇を目指していた。ここまで不死身の双頭竜は雅雄の方を見ようともしない。メガミを集中攻撃していたことといい、双頭竜がレベルの高い順にプレイヤーを狙うという話は本当だったようだ。
ただ、雅雄に対して邪魔者が一人もいないかといえばそんなことはなかった。静香のパーティー、仮面の剣士の影に紛れてひっそりともう一人、闖入者がいたのである。彼女は低レベル故に双頭竜からは狙われず、剣を抜いて雅雄を追いかけてきていた。
「恥ずかしくないのか! 卑怯な手を使って伝説の剣を手に入れようとするなんて!」
ツボミはこっそり静香たちについてきていたようで、乱戦が始まるとさりげなく階段から顔を出し、そろりそろりと雅雄の後ろから追いかけてきたのだった。当初はツボミを先行させて盾にするつもりだったが、メガミが何とかしてくれそうなのでもう必要ない。邪魔なだけだ。
「いや、そんなこと言われても……。これも作戦でしょ」
背中から声を掛けてくるツボミに、雅雄は困惑しながら反論する。まさかこんな幼稚なことを言い出すとは。別に雅雄は悪いことはしていないはずだ。メガミは静香が襲ってくるのを織り込み済みで雅雄を連れてきたわけだし。静香の作戦はメガミに筒抜けであり、雅雄は誰もハメてなんかいない。
「だいたい、じゃあ君は何しに来たのさ?」
雅雄がそう尋ねると、ツボミはない胸を張って答えた。
「もちろん、伝説の剣を回収しに来たんだよ。君みたいな不埒者の手に渡らないようにね!」
「ええ……。僕と何が違うんだよ……」
「君は大人しく帰ることだ! そうすれば悪いようにはしない! さもなければ……!」
ツボミは手にした剣を雅雄に向ける。本気で戦えば、Lv.1の雅雄はLv.11のツボミに全く太刀打ちできないだろう。脅迫は卑怯なことではないのだろうか……。そもそも、結局自分も剣をネコババするのが狙いなのでは……。
雅雄は呆れるが、そこを指摘したところでツボミが引いてくれるわけもない。なんやかんやと理屈をつけて開き直るだけだろう。雅雄は伝説の剣を巡ってツボミと競争することになる。
しかし雅雄もツボミも流れ弾を気にしなければならないので、お互いに構ってばかりいるわけにはいかなかった。双頭竜の鱗に弾かれた魔法はたびたび雅雄たちの方にも向かってくる。
メガミたちが白熱した戦闘を繰り広げる横で、雅雄とツボミは「だるまさんが転んだ」のような緩慢な追いかけっこを繰り広げた。
「俺がこいつを引きつける。おまえらの攻撃でどうにか倒しきれよ……!」
仮面の剣士はメガミたちの前に出て、雅雄が見たこともないような上級剣技を次々と繰り出す。モーションスキルの硬直で一回一回動けなくなるが、関係ない。仮面の剣士は気迫だけで、物理無効によりダメージを受けない不死身の双頭竜をひるませた。ダメージを受けないとわかっていても、本能が体をすくませる。その間にメガミは動き出した。
「生半可な攻撃じゃ通用しない……! 火綱ちゃん、冷司君、お願い!」
「任せて!」
「任せてください!」
二人はMPを使い尽くす勢いでメガミに支援魔法を掛ける。限界を超えた支援魔法重ね掛けがスペシャルバーストのキーになっているのだろう、メガミの全身がオーバーライドの光を放つ。
「二人の力をもらったなら絶対に負けられない……! 勝つよ、私は!」
『神林メガミ パラディン Lv.70』。マジックナイトのときより無骨で分厚い鎧に換装し、盾を左手に装備する。右手で肩に担いだのは、巨大な片刃の両手剣だ。パラディンのパワーなら片手で使える。レベルアップした上でバランスのいいマジックナイトから、破壊力と打たれ強さのパラディンへ。メガミは、双頭竜を一気に葬る気だった。
「行くよ、お兄さん!」
「……ああ!」
メガミと仮面の剣士は双頭竜に斬りかかる。パラディンは聖なる光で相手の耐性を消す。双頭竜の物理無効も消し飛んだ。メガミがともに戦うことで、仮面の剣士による攻撃も通るようになる。二人の強力な剣が双頭竜の鱗を切り裂き、双頭竜は苦悶のうめき声を上げる。
このまま畳みかければ勝てる。そう思われたとき、双頭竜は翼でメガミと仮面の剣士を打つ。ガードのため、一瞬二人の攻撃はやんだ。
その隙を双頭竜は見逃さない。灼熱のブレスが二つのあぎとから放たれ、メガミたちは炎に包まれた。




