25 弱者の戦略
次の日はログインする時間をいつもより遅くして、一番人が多いと思われる時間帯にログインした。思った通り、村には四、五組のパーティーが駐留していて、暗黒竜の山に挑戦する準備をしていた。
雅雄は先回りして暗黒竜の山に忍び込み、おっかなびっくり昇っていく。幸い山の中は隠れるところが多く、モンスターを避けるのは簡単だった。この辺りをうろついているモンスターはLv.30台後半なので〈ダークレザーコート〉の隠蔽が効くか不安だったが、問題ないようだ。
しかし〈ダークレザーコート〉の隠蔽効果はLv.40。きっとここより先では通用しない。これが最初で最後のチャンスだ。
雅雄が狙っていたのは、山の頂にあるというレア装備だった。昨日、【麓の村】でNPCに聞いた話だと山の頂には暗黒竜がいて、〈ツィルニトラ〉なる剣を守っているとのことだ。
無論、雅雄がラスボスの暗黒竜に勝てるはずがない。なので強いパーティーに暗黒竜を倒してもらった後、装備だけネコババするという計画である。ラスボスが装備をドロップするということなら雅雄が盗む余地はないが、村人の口ぶりからすると暗黒竜の背後に宝箱があるという形式のようだ。
暗黒竜とかいうラスボスと戦えば、いかに強力なパーティーでもボロボロになるのは間違いない。ハイレベルパーティーが戦いのダメージと疲労で思うように動けなくなっているところで、雅雄が素早く装備を回収し、〈天使の翼〉という屋外ならどこでも【ブレイバーズシティ】に帰還できるアイテムを使って逃げ出す。雅雄の計画は完璧だ。
可能なら途中の宝箱も回収する予定だったが、モンスターを避けるのに必死でその余裕はなかった。宝箱からモンスターが出てきたら雅雄は即死なので、色気を出さない方が無難ではある。
雅雄は頂上付近に身を潜め、暗黒竜と戦うパーティーが来るのを待つ。今日ばかりは制限時間を超えてペナルティを受けるのも辞さない。どうせ経験値やお金を減らされても痛くもかゆくもないのだ。
レベルはどうせ上がらないし、お金は使い切ってから来た。〈天使の翼〉が思っていたより高額だったのだ。潜るタイプのダンジョンなら〈天使の翼〉は使えないので、そういう意味でもチャンスは少ない。今回を逃すわけにはいかないのだ。
そもそも、この作戦が成功しなければ雅雄がこの先トッププレイヤーの仲間入りすることは無理である。そうなればゲームオーバーと同じだ。徹底的にやってやる。
すぐに暗黒竜に挑戦するパーティーを現れた。やはりというか見知った顔であり、メガミのパーティーだった。
「よ~し、いっちょ、やっちゃいますか!」
「今回も楽勝ですぞ! 我が輩が保証します!」
メガミの声に応じて肩に乗っているピヨちゃんが声を上げる。雅雄はメガミのパーティーのレベルを確認して絶句する。
(何だよこれ……! 全員Lv.40越えの上級職ばっかじゃないか……!)
『神林メガミ Lv.47 マジックナイト』、『服部ユメ子 Lv.43 ニンジャ』、『双月冷司 Lv.44 ワーロック』、『双月火綱 Lv.44 ビショップ』。メンバーは四人で、パーティー枠は一人余っている。いかにも強そうな職業ばかりだ。
山頂のステージにメガミたちが足を踏み入れると、『暗黒竜 Lv.60』がポップして立ちはだかる。暗黒竜の背後には宝箱があり、うまくやれば雅雄が入手することもできそうだ。
「いつも通り最初はみんなで突撃して相手の力を探るよ! 『ドラグナースラッシュ』!」
全身を銀色の鎧で覆い、大剣で武装したオーソドックスなスタイルのメガミは叫びながらノリノリでいきなり大技を繰り出す。メガミの剣を振り降ろすモーションとともに全身から金色のオーラが放たれ、暗黒竜の鱗を派手に切り裂いた。ドラゴン系に効果の高い剣技のようだ。
「姉さん、行くよ!」
「ちょっと、置いてかないでよ!」
次に前に出たのは意外にも職業からすると後衛っぽいワーロックの双月冷司と、ビショップの双月火綱だった。瓜二つに顔がそっくりな冷司と火綱は双子の姉弟だ。美少女、イケメンの双子として冷司と火綱は雅雄たちの学校ではちょっとした有名人である。それぞれ青と赤の鎧を身に纏った二人は、息をピッタリ合わせて至近距離から暗黒竜に呪文を叩き込んだ。
「『ハイ・ブリザード』!」
「『ハイ・フレイム』!」
わずかに氷の呪文が先に着弾し、暗黒竜の右前足が凍結。そこに逆方向から火綱の炎の呪文が襲う。暗黒竜は避けることも防御することもできず巨大な火球をまともに受けた。
しかし乱暴な戦い方だ。雅雄はてっきり後衛が補助、回復魔法で前衛を支援しつつメガミが盾役となって前線を支え、じわじわと暗黒竜のHPを削っていくという戦い方をするのだと思っていた。これだと戦術も何もあったものではない。
このパーティーは四人しかおらず、しかも前衛向きの職業に就いているのがメガミだけだ。あまり役割にこだわらず、全員が主役になって乱闘するのが常なのだろう。それでも一人一人のスペックが高いので、うまく回る。メガミ、冷司、火綱の三人は戦士、魔法使い、神官を兼ねているようなものだ。この三人が臨機応変に前線を支えつつニンジャのユメ子が攪乱、補助を担当するのだろう。
「ギャアアアアアッ!」
暗黒竜は苦しみの咆吼を上げながらも反撃に転じる。これは非常にまずいのではないだろうか。メガミ、冷司、火綱はスキルを使った後の硬直で動けない。ユメ子がフォローするしかないが、三人はあまりに暗黒竜に接近しすぎているので大ダメージは必至だ。
「やばいですぞ! 早く防御魔法を!」
ピヨちゃんはそう叫ぶが、全員大技を乱発しすぎである。強力なスキルほど使用後の硬直時間は長いのだ。特にモーションスキルを使ったメガミの復帰は絶望的だろう。モーションスキルはマジックスキルよりずっと硬直時間が長い。
暗黒竜は炎のブレスを吐き出す。下手したらメガミたちのレベルでも即死である。思わず雅雄は目を瞑りそうになるが、雅雄が危惧したような結末は訪れなかった。硬直で動けないはずの火綱が虹色のエフェクトを発生させながら、防護の呪文を使ったのだ。
「言われてなくても! 『フーガ・プロテクション』!」
風の防護壁が現れてドラゴンのブレスを散らす。同時に冷司も虹色のエフェクトを起こし、連続して呪文を唱える。
「『ブリザード・ウォール』! 『シャイン・オーラ』!」
氷の壁を作った上で、メガミに光の防護魔法を掛けた。連続で放たれたブレスに氷と光の防御は耐えきる。その間に、メガミの硬直は解けていた。
「二人とも、ありがとう! また私から行くね~!」
メガミはニッコリと笑い、氷の壁を飛び越えて暗黒竜に斬りかかる。




