23 Lv.1、茨の道
雅雄は翌日長船君に指定された時間に、再び武器屋を訪ねた。ようやく今日で農民スタイルとおさらばだ。
「待ってたぜ、平間! これができあがった品だ!」
雅雄は長船君から〈ダークレザーコート〉なる防具を受け取る。膝くらいまで丈のある真っ黒いレザーコートだ。厨二心を刺激されてなんだかとてもかっこいい。気分だけは黒の剣士である。ユニークスキルに目覚めそうな気さえしてくる。長船君は防具について解説してくれた。
「防御力は+5で大したことないが、Lv.40の隠蔽効果があるぞ! じっとしてると敵に見つかりづらくなるんだ!」
「ありがとう! 大事に使うよ!」
雅雄が思っていたよりずっといいものを作ってくれた。暗闇バットを一生懸命狩る人などほとんどいないので、ハイレベル装備が作れる設定になっているのだろう。
それにしても隠蔽効果は大きい。不意打ちすれば雅雄も強いモンスターとまともに戦えるかもしれない。ようやく光が見えてきた気がする。
「あと、これはサービスだ! そのコートに鉈は似合わないだろ!」
「え……?」
長船君が渡してきたのは〈ショートソード〉だった。攻撃力+17で特殊効果はなし。けれども今の雅雄からすれば、普通にやっている限り絶対手が届かない武装である。
「俺が練習で打ってみたやつだよ。ぶっちゃけ、しょぼすぎて他のやつには売れないからな。おまえにやる」
「ありがとう! 本当に助かるよ!」
「いいってことよ! これでも俺は、おまえのこと凄いと思ってるんだぜ? そのレベルで諦めないんだからな。がんばれよ!」
長船君に見送られ、雅雄は武器屋を後にした。
〈ダークレザーコート〉を身につけ、〈ショートソード〉を腰に差し、準備は完了だ。いよいよダンジョンに挑戦である。雅雄は森の中の獣道を抜けて、はじまりの洞窟を目指す。最奥部には〈冒険者の証し〉なるアイテムがあって、手に入れると宿屋代が5%引きになる。
レベルの低い雅雄はほとんどただ同然で宿屋に泊まれる。なので最奥部まで行くかは微妙だが、まずは腕試しをせねばなるまい。
雅雄はLv.1で、これから上がる見込みもない。勝てそうな相手を見極めて襲わなければ、あっという間にやられて死ぬだろう。慎重に行かなければ。
雅雄は洞窟の入口付近で岩陰に身を伏せ、倒せそうなモンスターがいるかじっくり見極める。〈ダークレザーコート〉のハイレベルな隠蔽効果があるので、モンスターに先に見つかってしまうことはないだろう。
モンスターのレベルでいえば15~20くらいがうろついていた。Lv.15以上でスタートしている者からすれば大したことのないモンスターだろうが、雅雄にはラスボス級に強力な相手だ。
じっと観察を続けていると、狙い目の相手が通りかかった。『ゴブリン Lv.15』。腰巻きを巻いて棍棒を持った子鬼だ。体格は雅雄の半分くらい。普通なら群れているところだが、こいつは一匹だけで歩いている。
「やろう……!」
雅雄は決意し、岩陰から飛び出してゴブリンを後ろから襲った。〈ショートソード〉の一撃でゴブリンの背中がぱっくりと割れ、勢いよく血が噴出する。ひょっとしてクリティカルヒットか? 幸先のいいスタートだ。〈ダークレザーコート〉の隠蔽効果が威力を発揮している。
このままとどめを刺してしまおうと雅雄は剣を振りかぶるが、ゴブリンも必死に抵抗する。乱暴に振り回された棍棒が雅雄の脇腹を掠め、雅雄は悶絶する。
「大丈夫……! 剣で防げたはずだ」
雅雄はとっさに棍棒を〈ショートソード〉で払っていた。痛いのは痛いが、小学生の頃馬鹿な男子に囲まれて全身を蹴り飛ばされたとき程度の痛みである。耐えられないほどではない。
そう思ってHPゲージを確認して、雅雄は青ざめた。半分以上減って、黄色ゲージに突入している。雅雄は防御力もHPも低すぎるのだ。やばい。あと一撃喰らったら死ぬ。
雅雄は無我夢中でゴブリンに剣を振り降ろす。最初の攻撃で深傷を負っていたゴブリンは思うように動けていないようで、雅雄の攻撃をまともに喰らう。ゴブリンは雅雄に三度頭を叩かれ、死亡した。光のエフェクトとともに戦闘結果が表示される。
「経験値14に36クォンか……。今までよりは多いけど……」
次のレベルまであと七万のところが14減っても焼け石に水ではある。いくらなんでもゴブリンを五千匹狩るなんてやっていられない。
「まぁいいや。がんばればやれるってことがわかったんだから……」
それが一番の収穫だ。雅雄はポーションを飲んでHPを回復して、再び岩陰に身を隠し、次の獲物を待った。
そこから雅雄は五回ほど一匹だけのゴブリンを狙って戦い、悟った。
「こりゃあ全然割に合わないや……」
背中から襲ってクリティカルヒットを出しても、ゴブリンは一撃では死なない。必ず反撃してくる。雅雄のHPだとゴブリンの攻撃を二回受ければ死亡なので、全部避ける気でいくしかない。しかし現実的には一発くらいはもらってしまうのが常であり、間違って二発目を受ければ即死亡である。
というか、雅雄は一度死んだ。雅雄は〈身代わりのお守り〉の効果で復活し、どうにかゴブリンを倒したが、危ないところだった。HP1でその場に復活してどうしろというのだ。今回は何とかなったが、囲まれて殺されたなどのパターンであれば、復活してもまた殺されるだけで意味がない。現状、雅雄はゴブリンスレイヤーにさえなれそうになかった。
「ハァ……。仲間でもいればなぁ……」
せめて同じレベル帯の仲間がいれば協力してゴブリン程度なら楽に倒せるのに。なんでレベルが低いのが雅雄だけなのだ。
一瞬、雅雄の脳裏にツボミの姿が浮かんだが、雅雄は首を振って打ち消す。レベルの差が10もある相手は同レベル帯とはいえない。
「それよりは、シノかな……」
もう一度〈名もなき村〉に行って、シノを誘ってみよう。仲間にはなってもらえなくても、〈身代わりのお守り〉をもう一度くれるかもしれない。
というわけで雅雄は〈名もなき村〉に移動してシノの家を訪れてみたが、誰もいない。村を歩いてシノの姿を探してみたが、やはり姿は見当たらなかった。NPCの村人にも話しかけてみたが、最初と同様に決まった言葉を繰り返すだけだ。
「まさか……」
雅雄は森に向かってみる。あっさりシノは見つかった。
「た、助けて~! 誰か助けてくんろ~!」
出会ったときと同じように、シノは三匹の暗闇バットに追いかけ回されていた。雅雄が〈身代わりのお守り〉をなくしたことで、最初からクエストがやり直しになっているのだ。もう、雅雄と一緒に冒険したシノはいない。
「うわあああああっ!」
雅雄は半泣きで乱入して暗闇バットを即座に全滅させる。シノの方を向くと、シノは雅雄と初めて会ったような顔をして言う。
「は~死ぬかと思った~! ありがとうごぜぇます。助かりましたわ」
「こ、こんなこと、大したことじゃないですよ……」
「冒険者の方なら、助けてくれんかね? 実は私、お父さんを捜して……」
心が泣いているのを押し殺しながら、雅雄はイベントをクリアして〈身代わりのお守り〉を再度手に入れた。展開は前回と全く同じで、パーティーに誘ってみるとやはり断られ、キスしてくれた。気持ちよかった。畜生。




