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21 低レベルクリアへの挑戦

 翌日、ログインした雅雄はまず領主の館に行き、魔王領への通行許可証をもらうイベントをこなす。髭面で貴族っぽい服装をした領主は許可証のメダルを雅雄に渡して言った。


「ふむ……。まずははじまりの洞窟で腕試しをするとよいだろう。無職では頼りないな。神殿に行って何らかの職業に就くとよいだろう」


 なるほど、神殿で転職できるのか。雅雄はさっそく神殿に向かう。DQⅥやⅦのように、レベルと別に職業の熟練度があるタイプのシステムなら、低レベルでも職歴を活かして戦えるようになるかもしれない。


 しかし、雅雄は神殿で門前払いされた。


「神殿を使えるのはLv.20からだ。君に就職する資格はない」


 雅雄は衛兵につまみ出され、ため息をつく。レベルと職業が連動しているシステムだった。例えばソードマンになるには「ちから」のパラメータが70以上必要で、レベルアップして「ちから」が上がる度に技を覚えるという寸法だ。ソードマンになりさえすれば「ちから」が上がりやすくなるので、自分に「ちから」の才能がなくてもそれなりにやれる。


 もはや雅雄には雲の上の話だが、「パラディン」「ワーロック」といった上級職も用意されていて、Lv.40以上になって条件を満たせば就くことが可能だ。トッププレイヤーの中にはすでに上級職に就いている者もいるらしい。




 気を取り直して雅雄は大通りに出る。レベルが上がらなくてもパラメータが上がればマシになるはずだ。つまり、ステータスアップ系のアイテムを収集すればいい。DQでいうところの〈~のたね〉、FFでいうところの〈~アップ〉を集めるのだ。


「でもこのゲーム、妙なところで現実的だからなあ……」


 ひょっとしたらこのゲーム、そもそもそんなアイテムは存在しないかもしれない。そう予測しながらも雅雄は大通りを歩くプレイヤーを捕まえて、心当たりがないか訊いてみる。ぼっちコミュ障の雅雄としては、かなりの大冒険だ。


 結果は雅雄の予想通りだった。そんなアイテムは聞いたことがないという答えばかりが返ってくる。まぁいいだろう。これは話のきっかけ作りだ。ゲームバランスから考えて、どうせステータスアップ系のアイテムがあっても大量に入手することなどできない。ここから同情を誘い、どこかのパーティーに潜り込むのである。


「こ、この通りレベルが低すぎて困ってるんです……。ど、どうにか仲間に入れてもらえないでしょうか……?」


 雅雄はどもりながらも半泣きで頭を下げるという行為を繰り返す。ちなみに泣きそうなのは演技ではない。


 しかしいくら雅雄がなけなしの勇気を振り絞っても、交渉成立することはなかった。どのパーティーも、一様に同じ返事をする。


「ごめん、もうメンバーが一杯になってるから」


 パーティーメンバーは五人までで、それ以上増やすことはできない。それ以上はパーティーを組むことによって自動で掛かるステータスアップ補助が掛からなくなるのだ。また回復魔法、補助魔法の射程もパーティーメンバー以外にはかなり短くなる。


 ダンジョンに出るモンスターは、最初期を除いてフルメンバーのパーティーがステータスアップのエンチャントを受けているという前提で連携してようやく倒せるという強さだ。無駄に枠を余らせているパーティーはほとんど存在しないし、足手纏いを入れる余裕もない。雅雄を相手にしてくれるはずがなかった。




 雅雄は数組のパーティーに声を掛けて当然のように断られた後、雅雄は失意のうちに道端に腰を下ろす。酷く惨めな気分だ。まさか遠足や修学旅行の班決めで余ってしまったときの気分をゲームでも味わうことになるとは。


(あのときはどうしたっけな……。確か静香ちゃんの班に入れてもらったんだっけ……)


 雅雄が辛い過去を思い出していると、静香がやってくる。静香は雅雄を見下ろして言った。


「雅雄、聞いたわよ。組んでくれる人を探してるんですって?」


「え……、あ……うん」


 雅雄は見下ろされたままぼんやりとうなずく。静香はニッコリと笑った。


「私のパーティーに入れてあげてもいいわよ?」


「え……?」


 雅雄は思わぬ申し出に固まる。静香がそんなことを言ってくれるなんて。感激のあまり涙が出そうだ。二次元では幼馴染みは負けフラグだが、やっぱり持つべきものは幼馴染みなのか。


「Lv.10以下でないと就けない職業があるのよ。雅雄にピッタリだわ!」


「へ、へぇ~。どんな職業?」


 どうも嫌な予感がする。雅雄はさりげなく立ち上がり、逃げる算段を始める。そんな雅雄の動きにも気付かず、静香は喋り続ける。


「もちろん奴隷よ! 奴隷ヒロインって定番でしょ? やっぱり雅雄には女の子の格好が似合うわ! ちゃんと私がかわいい格好させてあげるからね、雅雄! もう衣装も用意してあるの!」


 アイテム袋から静香は真っ赤なドレスを取り出して見せびらかす。確かに高そうで綺麗なドレスだけど、勘弁してくれとしか言い様がない。


「うわあああああっ!」


 雅雄は叫びながら遁走した。冗談ではない。静香を当てにした雅雄が馬鹿だった。


「何も逃げることないじゃない……。奴隷は結構ステータスアップ率が高いのに……」


 残された静香は憮然とした表情を浮かべていたが、付き合っていられない。なお、静香が追いかけてきたとしても市内はPK禁止区域になっている。直接危害を加えることはできない。外だと殺されるかもしれないので、遭遇しないように気をつけよう。

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