18 【ブレイバーズシティ】
【ブレイバーズシティ】は今までの【名もなき町】、【名もなき村】とは比べものにならない大都会だった。城壁に囲まれた市内には掘っ立て小屋なんか一つも見当たらず、レンガ造りの立派な建物がずらりと並んでいる。中心部にはほとんど城のような外見の領主の館がある。
「やっぱここからが本番か……!」
門番に門を開けて城壁の中に入れてもらった雅雄は、気を引き締める。【ブレイバーズシティ】は魔王領に面する最前線ということだ。この町を拠点に、雅雄は魔王打倒を目指すことになる。きっと他のプレイヤーも多数いることだろう。
「まず領主の館に行けばいいのかな~」
雅雄の隣でツボミがのんびりと言う。
「きっとそうでしょ」
雅雄はうなずいた。勇者を目指す冒険者は、【ブレイバーズシティ】で領主に謁見して魔王領への侵入許可を得るのだと【名もなき町】でNPCに聞いていた。そこまで行けばツボミとはおさらばだ。清々する。
雅雄とツボミは領主の館に続く大通りに出る。大通りは祭か何かのように人で溢れていた。商人のような格好をしているのがNPCで、武器防具を身につけているのがプレイヤーだろう。
「みんなはどれくらいのレベルなのかな……?」
少しドキドキしながら、雅雄はプレイヤーっぽい人物に視線を合わせてみる。すぐにステータス表示がポップした。『山田孝 Lv.32 ソードマン』。
「か、かなりハイレベルだなぁ。きっと相当強いんだろうな」
そう思って雅雄は次のプレイヤーを見る。『長岡花子 Lv.35 ダンサー』。
「あれ……?」
雅雄は顔を引きつらせながら、次々と町往くプレイヤーのステータスを確かめる。『柳志郎 Lv.31 ナイト』、『松田百合 Lv.38 モンク』、『桜井瞬 Lv.37 メイジ』、『土井よしの Lv.29 シーフ』……。
ほとんどがLv.30を超えていて、Lv.20台すら稀だ。雅雄は未だにLv.1で、ツボミでもLv.11だというのに。
雅雄が呆然としていると、知った顔が通りかかる。静香だった。静香は魔法使いのローブを身につけ、杖を持っている。小柄で結構ロリ顔な静香にはよく似合う格好なのに、どこか邪悪さを感じるのはなぜだろう。雅雄の目が邪悪なのだろうか。
「あら、雅雄じゃない? あなたも参加してたのね」
『業田静香 Lv.35 メイジ』。静香もLv.30台である。いったいどうなっているのだ。
「し、静香ちゃん……。どうしてみんなそんなにレベルが高いの?」
「私は普通くらいよ? 逆にどうして雅雄はそんなにレベルが低いの? 普通、Lv.20くらいからスタートよ」
「え……?」
雅雄はLv.1スタートで全くレベルが上がっていない。静香はLv.20台からスタートしてレベルアップし、経験値を稼いでLv.35まで上げているのだ。
さらに静香は尋ねてくる。
「私、今日まで全然雅雄を見掛けなかったけど、雅雄、今までどこにいたの?」
「ぼ、僕は【名もなき村】に……」
静香は少し間を置いてあごに手を当て、思い出すような仕草をする。
「……ああ、街道を逆方向に行ったらあるっていうところね。あんなところ、何もないでしょ。どうしてわざわざそんなところに行ったの?」
「行ったっていうか、そこがスタート地点だったんだけど……」
「ええ? みんなこの【ブレイバーズシティ】からでしょう?」
静香は本気で驚いているようだった。普段のような毒が全く混じっていない。雅雄は【名もなき村】からLv.1スタート。ツボミは【名もなき町】からLv.11スタート。そして町の様子を見るに、大多数は二人より遙かに高いレベルで【ブレイバーズシティ】からスタートしている。いったいどういうことだ。
「まぁいいわ。人を待たせてるから、また今度ね。本当は雅雄をかわいがってあげたいけど……」
心底残念そうな顔をして、静香は雅雄の頬を撫でる。ひんやりした指が触れた瞬間、雅雄はドキッとする。蠱惑的な笑みを浮かべながら静香は去っていき、雅雄は混乱する頭を落ち着けながらツボミに訊く。
「香我美さんが【名もなき町】にいたとき、他にプレイヤーは何人くらいいた?」
「五、六人だったね……。みんな、レベルはボクと同じくらいだった。……やっぱりレベルでスタート地点が違ってたようだね」
だとしてもレベル差が酷すぎる。これではゲームにならないではないか。
「多分これは運営のミスだね……。抗議しよう」
ツボミはそう言ってステータスウインドゥを開き、GMコールする。すぐにヤスさんが何もない虚空から出現した。
「何の用だね?」
「ボクら、みんなと比べてもの凄くレベルが低いんだけど、どういうこと?」
ツボミは眉間に皺を寄せながら尋ね、雅雄も同調する。
「そうだよ! これじゃあ絶対に魔王なんて倒せないじゃないか! みんなと同じくらいにレベルを修正してよ!」
「話はわかった。レベルを修正することはできないな」
ヤスさんは即答し、雅雄とツボミは顔を見合わせた。




