2-8
今回はアベル視点です。
少し短め。
『シュルルルルーーー!!!』
ここは人通りの少ない街道の側の草原だ。何時もなら通りもしないこの場所に俺は依頼を受けて遠方から出向いてきた。
目の前に映るのは鈍色に光る無数の鱗。3m程の小型の蛇に似た爬虫類型の魔物が牙を剥いて唸っている。
「ちっ、雑魚が一丁前に威嚇してやがる」
俺は悪態をついて、蛇型の魔物と対峙しながら剣を抜く。
「珍しく荒れてますね。やはりエルロイドが気になりますか?」
いつの間にか美しい銀髪の男が、長い髪の毛を靡かせて佇んでいた。
「そんなんじゃない。あいつを見ているとただ苛々させられるだけだ」
素っ気なく返事をするが、脳裏には思い出したくもない光景が再生される。
俺に突き飛ばされて、只項垂れていたアイツを思い出して、更に苛立ちを覚える。
「くそっ、何もかも気に食わねぇ……なっ!」
苛立ちをぶつけるかのように地を蹴って力任せに剣を薙ぐ。肉を断つ心地よい感触が柄を伝って掌に感じる。
蛇型の魔物は断末魔の叫びをあげる間もなく首と胴体を綺麗に別ってその命を堕とした。
「ちっ。ストレスの解消にもならねぇ」
堕ちた首を八つ当たりするように乱暴に蹴飛ばす。
「おい、俺は何時まであの野郎に振り回されなきゃならねぇ?」
言葉を投げかけるがその声に応えるモノは居ない。先程までいた美しい銀髪の男はその姿を忽然と消し、まるで初めから存在すらしていなかったかのように感じる。
「もうしばらくです。時は動き出しました……。貴方の願いはきっと叶うでしょう」
美しい澄んだ声だけが何処からともなく聞こえてきた。
「フンっ。くだらねぇな」
俺の……願い。
10年前。
総てを失ったあの日。俺は初めてアイツと出逢った。俺は何も理解できず、何も受け入れる事が出来なかったあの頃に、いつの間にかアイツはいた。
何処から来たのかも、何故やって来たのかも、その時はただ微笑んで教えてくれなかった。
だが、アイツはそんな俺にあらゆる物をくれた。生きる方法。生きるために必要なモノ。
それは生きる為の道標ともなり、今の俺を形作っているモノそのモノすら、与えられた。
いつしか、アイツが来た目的を知った。何故俺が総てを無くしたのかも、アイツは教えてくれた。
〝総てはその日の為に〟アイツはただ、そう言った。
そして俺はその日に備えて、冒険者として活動を始めた。戦う方法すら知らなかったが、ひたすらガムシャラに行動し、身体に叩き込んだ。死を覚悟した事など、星の数ほどある。
今までの行き方を棄て去り、新しい行き方を模索していった。
戦っては殺して、戦っては殺して。無数の戦闘を、死闘を越えて俺は強くなった。
剣を持つことさえ耐えられなかった腕は、太くなり、何時間でも剣を振るっていられるようになった。平地で1時間も活動していられなかった筈が、いつの間にか足場の悪い山道でも、長時間活動できる足腰や体力がついた。
魔物と対峙するたびに恐怖に震えていた弱い心も、窮地に陥っても冷静に物事観察し、考える事ができる胆力がついた。
この10年間。
血反吐を吐いて、泥水を啜って汚く生きてきた。
だが……。
〝お前に何が分かるっていうんだ!〟
何度も頭の中で繰り返される言葉。その言葉を思い出す度にドロドロとした感情が溢れ出してくる。
「何が……だと?」
「ーーー!」
思考の渦に入り込みそうな俺の耳に地を這う音があちこちで聞こえてきた。
「シュルルルルルルーーー!」
「シュルルルルーーー」
「シャーーー!!」
いつの間にか何十匹もの蛇型の魔物が周りを囲んでいる。チロチロと二股の舌を出し入れしながら、獲物を見つけたと、嬉しそうに鳴いている。その姿を視認し、無言で剣を納刀する。
「シャーーッ!!!!」
一匹の蛇型魔物が一番ノリとばかりに飛び出してきた。
その姿を目視し、数歩右にズレる。牙を剥いた魔物はそのすぐ側を飛び、抜けていった。それを合図に我先にと何匹も飛び出してくる。
「ふんっ!」
脚に力を込めて宙へ飛ぶ。右手を開いて魔力を籠めてイメージすると、魔力は揺らぎ、形取られていった。
魔力の揺らぎが収まると、握った手には湾曲した刃が特徴的な鎌が、柄に鎖をぶら下げてその手に収まった。
「オラァアッ!!!」
鎖を左の掌に巻きつけて右手で鎌を遠投してする。そのまま両手で鎖を持ち魔力を一気に流し込み、8の字を描くように振り被る。
「ギシャーーッ!!」
魔力を流し込んだその刃は切れ味を増し、無数の魔物達を切り刻んでいくだけでなく、大地も深く、鋭く削り取っていく。
「はぁっ!」
着地と共に手に巻きつけた鎖を解いて、遠心力に任せるままに投げつける。鎖鎌は空を回転していき、数匹の魔物をついでに絡め取った。
両手を頭上に広げ、魔力を空へと伸ばす。魔力は変換されて水となり、分散されて水蒸気となる。その大きさは雨粒の体積の100万分の1。その粒は集合し、大きな雲を形作っていった。
水蒸気は固まり、小さな氷の粒となって高速でぶつかり合い、小さな静電気を起こす。
空へと流れた魔力がその工程を高速化させ、更に大量の静電気を貯める。パチパチと弾けるような雷雲が辺りを包み込んでいく。
「稲妻の襲来!!!」
鎖に身を取られ、踠いている魔物を中心に太い稲妻が墜ちる。稲妻地面を裂いて凄まじい轟音を辺りに響かせ、溢れんばかりの光が目を眩ませた。
白く染める光が消えた頃、総ての魔物は息絶えていた。稲妻が墜ちたその大地は煤で黒く染め、辺りには何かが焦げた臭いが漂っている。
ーー〝何時までも過去に縛られるな〟ーー
投げかけた筈の言葉が俺自身を責める。
「分かっている。そんな事は……な」
口から零れた言葉は誰に届くこともなく、風に流されて消えた。




