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原初の罪  作者: EVE
第2部 神々の庭
21/32

2-7

 眩しい朝日の光が差し込み、俺は目を覚ました。何時もの布団の変わらない感触が俺を包んでいる。


「痛っ……」


 不意に襲ってきた痛みの名残りを消すように手で頭を抑える。


 どうやって部屋まで帰ってきた?俺は帰路の途中で気を失った筈だ。まさか、アベルが……?


 そして……。


「これから為すべきこと……」


 メタトロンとの会話を思い出しこれからの事に思い、考える。

 とりあえず2人と合流するとしよう。少し早いが俺は家を出てギルドに向かう。



 ギルドは早朝ということもあり人が少なく殆どのテーブルが空いていた。部屋の隅のテーブルに腰を据えウェイターに珈琲を頼む。暫くすると鼻腔に豆の良い匂いが漂ってきた。


「お待たせ致しました」


 カチャリと心地のよい音を立てて目の前のテーブルに珈琲が置かれる。


「ふぅ……」


 口に拡がっていく苦味がまだ残っている眠気を覚まし、思わず溜息が溢れた。


「朝から溜息か?昨日はちゃんとベッドで眠れたみたいだな」


 皮肉げな台詞を吐きながらアベルが向かいの椅子へと座る。


「一応礼は言っておく」


 素っ気なく礼を言うとアベルは不愉快そうに鼻を鳴らした。


「お前の礼なんぞいらん。そんなことより、自分の成すべき事を思い出したか?」


 ーー〝成すべき事〟ーー。俺の目的はずっと変わってはいない。あの影……カインを滅ぼすことだ!


 テーブルに置いた手に力が入り、拳を固める。


「あぁ……わかっている」


 声に力を込め、アベルを睨みつける。俺の視線を受け止めながら、アベルは椅子から立ち上がり、テーブル越しに近づいて低い声で問いかけてきた。


「本当に分かっているのか?この話、昨日今日で知ったワケじゃないだろう。お前のお仲間はこの話を何処まで知っている?

 まさか1人で全部こなせるだろうと高を括っているんじゃないだろうな」


「くっ……!」


 脳裏にアシュリーとカイルの姿が過る。確かにまだ2人には何も話していない。だが。


「あの2人を巻き込みたくない! こんな……!」


 アベルに言い返したいが言葉が出てこない。確かに1人で成し遂げられるとは到底思わない。2人の協力が必要だという事もだ。しかしだからといって危険な目に、無謀な事に進んで突っ込ませる気にはなれない。


「ふん。本当に甘ったれた坊ちゃんだぜ。こんな奴に俺は……。

 そう言うと思って先に手を打って置いた」


 一体どういうことだ?先に、だと?


「っ! まさか2人に話したのか! 何処までだ!」


「世界の崩壊ー。そしてそれを止める為に、お前が影を封印する必要性とその犠牲だ。影は封印する毎にお前の身体を蝕んでいく。言い逃れは出来ない。その眼がいい証拠だ」


「世界の崩壊まではいい! 何故俺の身体の事を、お前が勝手に話した!!」


 俺は声を殺してアベルに詰めより、ローブを捕まえようとするが、するりとその手を交わす。


「ちっ!」


 悪態に微動だにせず、アベルが俺の後ろに注目する。その視線を追い、振り返るとそこには2人が立っていた。


「アシュリー。カイル……」


 カイルは腕を組み、目を伏せて立っている。

 そしてアシュリーはただ俺を見ている。そしてゆっくりと歩いてきて……。


「つっ!」


 渇いた音とともに頬に衝撃が走った。


「アベルさんに話しを聞いたわ」


 振り抜いた手を抑えながらアシュリーが掠れた声で言う。


「その眼のこと。世界のこと。確かに信じられないような話だった。でも……でもどうして私達に何も言ってくれなかったの?どんなに……どんなに心配していたか!言うタイミングはあった筈なのに! 私達は同じパーティーじゃない!!」


 アシュリーはそれだけ言うと、扉を勢いよくあけてギルドから出て行った。


「ふぅ。今回ばかりはエルが悪い。仲間だからって何でも話せとは言わない。でも、アシュリーはずっとエルの事を心配してたんだぜ?」


 カイルが開け放たれた扉に視線をやる。


「エル、気付いているか?あの塔の出来事から考え込むことが多くなったって。そして、その眼の事も。お前がどう話をするつもりなのか、決まったら教えてくれよ。それまでは俺たちも何も聞かねえ。俺はアシュリーを宥めてくるわ」


 じゃあまた明日な。カイルは軽く声を投げるとゆっくりとギルドの扉を抜けてその姿を消した。


 痛みに疼く頬を撫でる。アシュリーの言葉が嫌に胸に突き刺さった。


「俺はお前が気にくわない……」


 アベルが不意に呟いた。


「お前がお前である限り。エルロイドである限り、お前の成すべき事を考えろ」


 分かっている! 分かっているさ! 自分でもしなければならない事は。

 アベルに自分では見て見ぬ振りをしていた処を突かれた気がした。苛立ちが大きくなっていく。


「何時までも過去に縛られるな」


 その言葉で、完全に頭に血が昇った。


「お前に何が分かるっっ!!」


 アベルに向かって全力で拳を振るう。


「カハっ!!」


 世界が回転し、背中に衝撃を受ける。痛みで何が起こったのか分からず混乱していると、不意に伸びてきた手に顔を掴まれて耳元で囁かれる。


「お前の顔を見ていると本当に不愉快だ。本当は出来ることを、お前はいつまで経ってもしない。その顔で、何時までも愚図ってるんじゃねぇ」


 アベルはそれだけ言うと、俺を突き飛ばして何処へともなく消え去って行った。


 暫く倒れたままで動けなかった。両手で顔を覆い、考えるほどに全然纏まらない。

 分かってる。本当は分かってる。

 何度も何度も自分に言い聞かせる。分かってい……


「ブァッはっはっはぁぁあ!」


 思考していると不愉快な笑い声が耳に届いた。


「見ろよ! 仲間とも喧嘩して、挙句にぶっ飛ばされてやがるぜ?」


「あぁ、コイツはとんだお笑い種だな!!」


 あぁ、苛々する……。声のした方を向くと、ガタイの良い男達が酒を煽ってせせら嗤っている。


「チッ」


 此処にいても面倒くさくなりそうな予感がして、俺は立ち上がりギルドから立ち去ろうとする。


「あぁ?今コイツ舌打ちしなかったか?」


 頭の悪そうな男がもう1人の男に言う。


「あいつ見た事ない顔だな、新人だろ?ちょっと教育してやるか。おい!」


 更に頭の悪そうな男がニヤニヤとした笑みを浮かべて声を掛けてくる。


「なんだ。俺はもう帰りたいんだ」


 苛立ちを抑えながら返事をする。


「あぁ?先輩に対する口の利き方がなってねぇな! お前俺らを舐めてんのか?」


 頭の悪そうな男が指を鳴らしながら近寄ってくる。


「……るんだ。……いか?」


 ぽつりと呟く。


「あぁ?何言ってるかわからねぇよ! もっとハッキリ言いやがれ!!」


 更に頭の悪そうな男がドスを効かせた声をあげながら片手で肩を掴んできた。

 その手を掴み、逃がさないように力を込める。


「苛々してるだ。お前らで発散してもいいか?」


 今度はしっかりと聞こえるように発声する。


「いい根性してんじゃねぇか!! おらぁあ!!!」


 更に頭の悪そうな男の方が怒声をあげて、掴んだ手とは逆の手で拳を振りかぶる。

 頬に衝撃が走り、身体を後ろに吹き飛ばそうとするが腰を落とし下腿に力を込めて、無理やり重心を前に移動させ、その場に踏みとどまる。衝撃で仰け反った上半身を元に戻し、嗤う。


「次は俺の番だな」


「なっ!!」


 頭の悪そうな男達が驚愕に眼を見開く。そりゃそうだろう。自分よりも一回りも小さい男が、自分の全力の拳で吹き飛ばないのだから。


「覚悟しろよ。〝奪われろ〟!」


 力が漲る。今回は筋力(パワー)を奪ったようだな。まぁ、脳筋のコイツらだから予想は出来たが。


「な……、力が入らない」


「一体どうな、ひっ!」


 更に頭の悪そうな男の方が俺の右眼をみて怯えたような声をあげて必死に拳を振り上げる。もう一度振るってきた拳をしっかりと受け止め、握り潰すように力を込める。


「ギャアァァアア!!」


 骨の軋みが手を伝わる。その不規則なリズムに心地よさを感じる。

 男の拳を握りしめたまま同じように反対の手で拳を振るう。男の顔に真っ直ぐに拳を当てて身体が宙に浮いたタイミングで握っていた手を放す。

 男はそのまま吹き飛んでいき、もう1人の男に勢いよくブツかっていった。


「ぐはっ!」


「うぅぅぅ」


 頭の悪そうな男が呻き声をあげながら起き上がっているが、更に頭の悪そうな男の方は完全に白目を剥いて意識を失っていた。


 俺はゆっくりと2人の方に歩いていく。男は俺に気付き青ざめた顔で見上げる。


「ひっ……! 化け物!!」


 歯をカチカチと鳴らしながら、恐ろしいモノでも見るかのような目で俺を見る。


「ここで総てを〝奪われる〟か、そいつを連れて去るか選べ」


 容赦のない言葉が俺の口から溢れる。男は言葉も出せず何度も縦に首を振って、気絶した男を背負って一目散にギルドから出ていった。


 いつの間にか静寂がギルドを包んでいた。辺りを見渡すと何とも言えない目で此方を見ている冒険者達がいる。少しやり過ぎたか。そう思い俺は佇まいを正してギルドを後にした。


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