兄の言いわけ
ずっと、という地獄。
「俺の妹にならない?」
そう言ったのは、ただの同情心。世界に独り取り残された少女が、泣くことすらできず蹲っているのを助けてあげたくなった、それだけ。
それから7年経った。少女は日々成長し、今やかぐわしい女子高生となった。彼氏ができるのも秒読みだ。それに比べ俺はおじさんと呼ばれてもおかしくないような年。
いつからだろう、彼女を女として意識し始めたのは。幼女趣味の烙印を押されたくないとずっと押さえ込んできた気持ちが、最近になって暴れだしている。どれだけの女を抱こうと消えてくれない。適当にあしらっていたら逆ギレされて別れて、新たに体だけの関係を結んで、それに繰り返し。
俺たちはどんどん深みにはまっていっている気がする。酸素も光も届かない、暗い暗い海の底へ。
あの時何て言えば、こんなことにならなかったんだろうか。1つ屋根の下に住んで、それでも何も起こらないっていう、今の状況を回避できたんだろうか。
「お兄ちゃん、ずっとそばにいてね」
契約内容を更新しますか?
なんて幻聴が聞こえてくる。
NOって叫びたい。もうこんな契約やめよう。俺が兄でお前が妹。そんな関係やめにしよう。そう言って今までの全部をぶち壊しにしたい。
でも、こちらを見上げてくる瞳には、信頼だけが宿っていて。それを否定することなんてできなくて。
どうせ俺はこの子にとって、兄でしかないってことだ。
「ああ」
黒い瞳が、何かでゆらりと揺れた。
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