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《叛逆の魔物使い》〜落ちこぼれE級の俺が魔王軍にスカウトされたので責任持って人類を滅ぼしにかかります〜  作者: 時雨


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第3話 外の世界

 再び嘶きが空に轟く。ご馳走《ナラク》を前に待ち切れなくなったのか、黒き飛翔体は風切り音を纏って直滑降を始めた。


 急いで障害物に隠れなければ。ナラクは急いで近くあった草陰に飛び込んだ。

 だが、やられてばかりじゃいられない。ちょうど良いことに、この草陰はメイドからの視線を切るのにも最適だ。


 ナラクの隠れた草陰から橙色の閃光が弾け、三発の火球が空へと打ち上がった。草陰に隠れたと同時に攻撃呪文を唱えていたのだ。


 フルスピードで下降するガーグルに、この火球は避けられまい。

 ナラクの予想通り、火球はガーグルの胴体を捉えた。


 豆鉄砲が弾けたような軽い音が響いた。


「くそっ、初めて知ったぜ。体が小さくなると呪文の威力まで落ちるのかよ…」


 完全に息の根を止めるつもりで放ったフレム《初級火球呪文》だった。たが、実際に与えることができたダメージは、奴の自慢の体毛を少し焦がす程度。

 本来の威力ならば、今頃焼き鳥が落ちてきているハズだ。


 威力は低いものの、思わぬ反撃を喰らったガーグルは軌道を変え、再び上空へ舞い戻っていった。

 しかし、さっきのフレムが奴の闘志にも火をつけてしまったのだろう。焦げた体毛を逆立てて、甲高い咆哮を上げた。


 さっき放ったフレムで、自分の身を隠してくれた雑草は縮み焦げている。このままじゃ格好の的だ。移動しなければ。

 ナラクは目の前ある石陰に向けて、右足を一歩踏み出した。そのとき、


「今の音は何かしら??」


「!?」


 等間隔で大地が揺れ響く。視界は暴れ、まっすぐ立っていられないほどの揺れが辺りを支配した。

 さっき炸裂させたフレムの音を聞いたのだろうか、メイドという名の巨人が不審そうな様子でこちらに近づいてきたのだ。


 とてつもない揺れのせいで二歩目を踏み出せない。このままではメイドに見つかってしまう。

 

 ーー万事休すか…。いや!!


 ナラクはとっさに目の前に踏み下ろされた巨大な足に飛びついた。

 自身の脅威となる普通サイズの人間へ逃げたのだ。あれほど執拗に狙ってきていたガーグルはあっさりとそっぽを向いてどこかへ飛んで行ってしまった。


「可愛いメイドに触れながらガーグルも追い払う。俺ってなんて頭が良いのだろうか。これでこのままメイド飯が外出してくれればもっと最高なんだけどな」


 しがみついたメイドに自身を悟られないよう、息を押し殺しながらそんなことを考えていると


「キャアアアアアアアッ!なになに!?虫!?」


 メイドの暴力的なまでにデカい絶叫が、ナラクの毛穴ほどの鼓膜をつんざいた。おまけに圧倒的な音圧が振動となって、五臓六腑《ごぞうろっぷ》を大きく揺さぶる。

  それと同時に、風切り音を放つ巨大な何(・)か(・)が高速で近づいてきた。硬直してしまったナラクにそれを避ける術はない。


「え?」


 ーー乾いた破裂音が炸裂し、まるで重力が下から横向きに変わってしまったのではないかと思うほどの横Gがナラクの体を襲う。それが「吹き飛ばされている」ということに気がついたのは、遥か向こうにあった塀に全身を叩き付けられてからだった。


 背中にできた擦り傷がチクチクと痛む。思ったよりダメージはない。

 九階建てのマンションの屋上から小さな蟻を落とすと、下から吹き上げる巨大な風圧によって減速し、何事もなかったかのように地上に降り立つという。

 ナラクの小さな身体にも、その風圧が味方をしてくれたようだ。


「イテテ…、俺は虫じゃねぇよ。いや……、ルークス家での扱いは虫ケラ以下のようなもんか」


 更に幸いなことにこの塀は、ルークス家の敷地と外を分ける塀だった。


「さて、塀に空いた穴はどこかな」


 労せず目的地にたどり着いたナラクは、十センチ台の大穴を探し当てると、その穴に身を入れてルークス家の外に出た。


 塀の外側に出て辺りに誰もいないのを確認すると、早速リモール《縮小呪文》を解いた。小さかったその体はみるみると大きくなり、二階建ての家のように高かった雑草も膝下までに縮んでいく。

 

 元の大きさに戻ってもなお、辺りには見上げるほどに高い木々が堂々と立ち並んでいた。正真正銘本物の大木だ。

 そんな木々の隙間から声のする方へ目線を移すと、アルスーン王国名物の大通りを見下ろすことができた。

 ナラクはそのまま丘の急斜面を駆け降りると、さっき上から見えた大通りへに向かって駆け出したのだった。




「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」


「この『バスターソード』特別価格で今なら5万ペイルだよ」


「そこのお兄さん!今朝釣れた『トロフィッシュ』だよ!新鮮なうちに買っときな!ガッハッハ」


 道ゆく人々に自店の商品を買わせようとする露店商人、ただ夕飯の材料を買いに来ただけの主婦、親から貰ったであろう小遣いを小さな手に握りしめ、元気に走り回る子供達。

 そんな様々な人々が行き交うこのレンガ調の大通りには、このアルスーン王国最大の活気に満ち溢れていた。

 もし、この大通りを観光しようものなら一日をそれに費やしても足りないだろう。


「お父さん!お母さん!だーいすき!」


 ふと目の前で、父親と母親に挟まれるようにして手を繋がれた子供が、屈託《くったく》のない笑顔でそう叫んだ。

 胸が痛く握り潰されるような感覚に襲われる。両親から当たり前の愛を向けられなかったナラクにとって、目の前で見せつけられた無条件な愛は、見えない刃となって自分の胸に突き刺さっていた。


 俯きながら足早にその家族の横を通り過ぎる。


「ママー!あの人なぜか悲しそう」


 すると追い抜いたハズの子供から、指を刺されながらそんな言葉を投げかけられた。


「ーーッ!?」


 ーーうるせぇ。余計なお世話だ。


 しばらく走り続けると、高さ十メートルはありそうな立派な城壁が見えてきた。そして、城壁と城壁の間にある王国外へと繋がる柵には、重装備に身を包んだ兵士二人が、それを守るようにして見張っている。


 あそこを通るには「遠征許可証」と呼ばれる物を兵士に見せる必要がある。

 それがなければ、あの柵の向こう側へ出られない。もちろん、小屋に閉じ込められているナラクがそんな物持ち合わせている訳がなかった。

 

 ーーしかしナラクには、この最強の呪文がある。


「リモール」


 再びナラクは体を小さくして、兵士らに気づかれぬように柵の方へと向かっていった。見上げると兵士のうち一人は呑気に鼻をほじっている。


「ククク…。せいぜい大物を掘り当てればいいさ」


 兵士に気づかれず柵をくぐり抜けると、少し歩いたところでナラクはリモールを解除した。

 色々なしがらみで息苦しかった王国の外には、どこまでも続くような果てしない緑の草原が広がっていた。


 王国の外は魔物達が巣食う弱肉強食な世界だ。青や赤、橙色をした三匹のスライムが仲睦《なかむつ》まじい様子でかけっこをする姿や、黒と黄色の蜘蛛のような姿をした魔物が木に作られた住処でくつろいでいる様子など、様々な魔物がこの草原に生息している。

 

 ここは通称「アルスーン大草原」。多種多様な捕食者と被食者の連鎖により形成された圧倒的なスケールの生態系が特徴的な草原だ。

 

 数分ほど歩き続けただろうか。ナラクの目の前に巨大な斧《おの》を咥えた犬の魔物が現れた。


 まずいことになった。いつもは気をつけていたのに、この殺気…奴のナワバリに足を踏み入れてしまったようだ。

 こいつは「アースドッグ」と呼ばれる魔物で、ナワバリ意識が強い上に大変気性が荒く、駆け出しの冒険者がよく奴に殺される事案が発生すると、小屋にあった魔物図鑑に記されていた。


 アースドッグは低く唸り声をあげていて今すぐにでも襲ってきそうな雰囲気を放っている。


「ナワバリに入るならば死で償え。人間」


 アースドッグはそういうと、その身を低く屈めて、飛びかかるための姿勢を作った。


 ーーこのままでは殺されてしまう。


「勝手にナワバリに入ってしまって申し訳ない!」


「!?」


 ナラクは先ほどかけられた言葉に対して、そう返事を返した。それを聞いたアースドッグは、動きをピタリと止め、驚きに満ちた表情を浮かべると、


「キサマ、我が言葉が通ずるのか??」


 そう問いかけてきた。


「俺は魔物の声が分かるんだ」


 会話は成立するようだし、なんとか穏便にこの場を切り抜けられるかもしれない。そう思ったナラクだったが、


「そうか。だが我々の声が理解できたとて、ナワバリに侵入したことに変わりはない」


 奴の攻撃を数秒遅れさせることしかできなかった。


「くそ…、戦るしかないのか!」


 ナラクは強くなるために、この草原で魔物と戦闘を繰り広げて力を上げてきた。しかし、アースドッグクラスの強敵とは未だ戦ったことはない。


 少しでも対応を間違えれば、あの斧で頭を中を晒され即死だろう…。緊張の糸は極限まで張り巡らされ、内臓がキリキリと悲鳴を上げている。


 アースドッグの足が大きく隆起すると、その溜め込めた力を地面へぶつけるように踏み込み、咥えた斧を振りかぶりながらこちらに突進してきた。

 慌ててシルド《初級防御呪文》で、防御しようと手を伸ばした次の瞬間…!


「まってー!その人に手を出しちゃだめー!」


 ナラクとアースドッグの間に、ついつい強張りが緩んでしまうような、ほんわかとした声が割り込んできた。

 ナラクはこの声を知っている。


「スラピー!?」


「ごめんね?ナラク!迎えに行くはずだったのに、ボク寝坊しちゃった」


 その声の主は、きゅるんとした目が特徴的な緑色の一匹のスライムだった。


「何故、スライムが人間など庇う??」


 攻撃を中断したアースドッグは、スラピーを睨みつけながらそう問いを投げた。


「友達だからだよ!!ナラクは!」


 スラピーは一寸の迷いもなく、そう答えた。


「人間と友達??笑わせる…。ではその友達とやらと共に死ぬがいい」


 奴は再び斧を振りかぶった。その血走った眼は緑色の物体に向いている。次の標的はスラピーだ。


「わぁぁぁ!落ち着いてー!」


「させるか!!フレム×2!!」


「ぬっ!」


 ナラクが放った二発のフレムを、奴は重たそうな斧を咥えてるにも関わらず、俊敏な動きで全てを避け切った。


「ありがとう!ナラク!」


「いいってことよ!それよりも今日の特訓は変更だな…。コイツを倒すぞ」


 ナラクは、スライムと互いに背中を預け合い、迫り来る容赦のないアースドッグと対峙した。


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《Profile》


スラピー (スライム属)


魔物ランク  E級

得意攻撃   身体変形

好きな物   葉っぱ ボアトスの肉 ナラク

嫌いな物   意地悪する魔物、辛い草


 ・薄い緑色のぷるるんとした体に、頭の上には猫耳みたいなとんがりが二つついている。きゅるるんとした目が可愛いマスコット的な魔物。スライムには様々な性格が確認されているが、スラピーは、のほほんとしていて呑気な性格をしている。基本、スライムは体当たりしか攻撃方法がないのだが、スラピーは自身の体を自由に変えて多種多様な攻撃を繰り出すことができる。この戦い方は親友であるナラクが提案していて、スラピーにしかできない。そしてやっぱり可愛い。


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