『春のご挨拶』-4-
ミサキは先程までのテーブルに戻り、作業をしようとすると横から式神たちが静かに制す。
「お嬢様、三段目も完成しております」
「主様とお嬢様のお話中に完成させました」
「勝手をして申し訳ありません」
静かに頭を下げる式神たちの後ろを見ると、重箱は可愛らしい桜色の風呂敷に包まれていた。それを見たミサキは嬉しそうにお礼を言う。
「ありがとう!凄い凄い!とっても助かりました!」
式神たち一人一人の手を握りながら凄く嬉しそうにお礼を言うミサキを見てウカは眉を顰めた。
そんな主の表情をみて、式神の一人が小声で声をかける。
「主様、こころが狭いですよ」
「煩い、まだ何も言っていないだろう」
「顔に出ております」
遠慮のない式神を一瞥してから、もう一度ミサキを見る。すると、ミサキもこちらを見ていたようでバッチリとウカと目が合う。
その瞬間、先程までのイラつきも、モヤつきも全て無くなり、清々しいまでの幸せな気持ちで溢れてきた。気を抜くと表情を緩めそうになるため、眉間に皺はよっている。それでも、目の奥から感じる『愛おしい』という感情は隠せていなかった。
ウカ様可愛い!
ミサキの頭を占める考えはそればかり。隠しているようで隠せてない感情が丸わかりでとっても可愛いウカ様。私の愛しいお方。
そんなことを考えながら、式神たちから風呂敷に包まれた重箱を受け取る。
優秀でなんでも出来る式神たちのおかげで、これ以上ウカの機嫌を損なわなくて済みそうだと、内心安堵していた。
偶に朝起こしに行くのが遅れる時がある。その時も拗ねた様子で可愛らしい表情をするウカだが、今日は思ったよりも機嫌が悪かったらしい。
朝、起きたら必ずするぎゅーも拒否してしまったので、余計に機嫌が悪くなったらと思ったが、それは杞憂に終わった。(実際には、悪くなった機嫌は、ミサキの表情で治ったというだけだが)
「お嬢様、お着替えを」
「お外に出るご準備を」
「うん!
ウカ様!少し着替えてくるので、ウカ様も羽織着てきてくださいね!」
式神たちに促され、厨から出る途中でウカに声をかけると、分かったと言う風にひらりと手を振った。
それを見たミサキはにっこりしながら、トタトタと自分の部屋に戻り着替えを始めた。
と言っても、着物の上から割烹着を着ていたため、それを脱ぎ、髪を少し整えてから羽織を着る。
羽織は、白いレースの羽織。別の白の糸で桜の花が編まれており、春用の中ではミサキのお気に入りの1着だった。
髪を結ぶ組紐は、ウカとお揃いの物に変える。
姿見の前で一回りして、問題がないことを確認してからミサキは部屋から出る。
「お嬢様、お似合いです」
「お嬢様、主様は先に向かわれました」
「お嬢様、お気を付けて」
「ありがとう!とっても嬉しいです!
わ!もう行っちゃったんですか!?
それでは、行ってきまーす!」
戸の前にいた式神たちに、挨拶をしてから小走りでウカの元へと向かう。
先に外に出ていたウカを見つけ声をかけようとしたが、羽織を見てミサキは足を止める。
白いレースの(自分よりも網目が細かい)羽織。
(考えること一緒!!嬉しい!!可愛い!!)
ミサキがレースの羽織を気に入ってるのを知っているため、着てくるだろうと考え、ウカも着てきたのかと思うと、目が蕩け口がにやけてしまいそうになり、慌てて顔を手で覆った。
さっきまで、そんなに乗り気でなかったのに!なんて、にやけ顔で文句を言ってもしょうがない。ウカ様はそういうお人、どんなに乗り気でなくてもミサキが頼めば、最終的には折れてくれる甘いお方。
うぅ!!すきぃ!!と、ここで寝っ転がってドタバタしたいが、お花見をするためにここに居るため、何とか抑えようと顔を覆ったまましゃがみこむ。
「何をしている、ミサキ」
上から声がかかり、パッとそちらを向くと困惑しています。と書かれている(気がする)ウカ様のお顔。
「な、なんでもないです!」
そんな顔を見て、シュバッと立ち上がり前髪を手くしで軽く直す。
「お待たせしました、ウカ様。
さぁ!お花見行きましょ!」
「あぁ、行くか」
にっこり笑ったミサキに釣られるかのように、目元を緩ませ優しい表情をするウカ。
そんなウカの表情をみて、余計に、にこにこのにっこり笑顔をなるミサキ。ウカの手を掬うようにして取り繋ぎ、桜並木がある山の中腹を目指して歩いた。




