36.待ち人来りて
会話はない。ただただ、穏やかな風が吹いているだけ。
黎はチラリと隣に座る男性を見る。どこかで会ったことがある気がするけど、思い出せない。
真っ黒な制服を着こなし、長い脚を組んで座っている。黒い髪が風に揺れている。まとっている空気が、そこだけ違う気がして、何度も見てしまう。
「何か視えるか?」
「え?」
唐突に聞かれた言葉に聞き返してしまう。見える? 視える? 何を聞かれているんだろうか?
「あの、見えるって、なにが?」
スッと、男性が黎の方を向く。暗いその目は、何もかも見透かしているような気がしてしまう。黎は、自分の目のことがバレているのではないかと、内心焦っていた。
何か言わなくては。このまま黙っていては、肯定しているのも同じ。でも何を……。ぐるぐると思考が巡る。
そのとき、後ろの方から軽く砂利を踏む足音が聞こえてきた。
「あら? けいくん。黎くんと一緒にいたんですか?」
振り返ると、そこには巫女装束を着たみこが立っていた。
「みこ」
「みこさん」
男性——もとい、けいと一緒に名前を呼んでしまう。
「仲良しですね」
クスクス笑いながら近づいて来た。
「けいくん、待たせてごめんなさい」
「平気だ。アポも無しに来て悪かった」
「いえ、構いませんよ。黎くん、こちら私の恋人のけいくんです」
「……京夜だ。けいでいい」
「あ、黎です。……恋人?」
まさかの情報に困惑する。そして、名前を聞いて、あの逢魔時にみこに助けてもらったときのことを思い出した。あのときもみこと一緒にいて、けいと呼ばれていた。
なるほど。と、一人で納得した。
そりゃ、見たことあるはずだよ……
「けいくん、今から行きますが準備はよろしいですか?」
「嗚呼、構わない。無理を言って悪いな」
「構いませんよ。黎くんも一緒に行きますか?」
突然振られた話に着いて行けなくて、またしても困惑する。
「えっと、どこに行くんですか?」
「宇迦之御魂神に会いに行くんですよ。黎くんのように直接ではありませんけど」
黎の目が輝いた。直接ではないウカへの会い方。それはすごく、気になる。だが、なにか用事があって会いに行くのに自分が着いて行って良いものか悩んでしまう。
「俺の用事は気にしなくていい」
悩んでいる黎を見かねた京夜が声をかける。みこを見るとにこにこと笑っていた。
「じゃあ、着いて行きたいです」
「はい! 決まりですね。一緒に行きましょう」
楽しそうなみこを見て、やっぱりミサキちゃんに似ているな……と黎は思った。




