第116話「万博記念公園女性刺殺事件 その2」
「ーーへぇ、この4月から刑事課に?」
「はい。3月まで交番勤務でした。本来なら窃盗等の捜査を扱うのですが、捜査本部が立ったので、応援です」
青木巡査の運転する車は万博記念公園へと走り出す。
警察車両というとパトカーを思い浮かべるが、今乗っているのは軽自動車だ。尾行や裏取りなど、軽自動車の方が風景に溶け込む場合もある。
「正直、『公安部』の人って初めて見ました」
青木巡査が唐突にそう言った。嘘をついている事に、少しだけ胸が痛む。
「ボクらの任務は『マイルド』な方ですから」
そう言ってお茶を濁す。
そんなやりとりをするうちに、現場に到着した。
♦︎♦︎♦︎
駐車場に車を止めると、巨大な構造物を見上げる。太陽の塔だ。これを見るのは2回目で1回目はこの事件の起こった日と同じ、昨年12月8日だった。
(「……違うわ。犯人はアタシよ」)
昨日の伊都子さんの言葉が蘇る。
(違うよ、伊都子さん。この事件を迷宮入りさせたのは『ボク達』だ)
「被害者の広瀬香はここ南口ではなく、東口から入場したようですね。茨城市在住だったのでちょうど自宅の方角です」
「犯人は映ってなくても、被害者は映っていて、足取りは掴めてると?」
「はい。私の前の担当者が防犯カメラの映像から割り出しました」
持ってきたPCを確認する。
東口で入場した被害者はそのまま北口方向へとそして日本庭園を通過し、西口方向へと走った。いかにもジョギングしてますって格好で12月だというのにTシャツとジャージ、頭には帽子を被っている。何人も同じような格好の人がいるが、Tシャツがピンク系で結構、目立つ。
「……ずいぶんカメラが多いですね」
「ええ、運営管理者が10年前からあの大手電気メーカーのグループなんです。それで実証実験も兼ねてるようです」
館内放送用スピーカーの下部、防犯カメラが至る所についている。
「それじゃあ、青木巡査。始めましょうか?」
「一体、何を?」
「地味で退屈な作業ですよ」
♦︎♦︎♦︎
3時間後。
「……できました?」
「はい。防犯カメラの専門家って聞いてたから、人物判別するアプリとか使うかと思ってました」
「この作業なら、ボク達がいなくてもできるでしょ?」
「……そうか。それで私のような若手を起用したのか」
2手に分かれて作業した物を1つに結合する。
白地図の上にいくつもの扇型が並ぶ。公園を東西に分けて東側をボク。西側を青木巡査が担当した。要は防犯カメラの撮影範囲を地図上に起こしていく作業だ。
「これで、『防犯カメラに映らないエリア』が可視化されました」
青木巡査が目を見張る。
そこには刺殺された現場の西口付近から中央口にかけて『防犯カメラに映らない道』が出来上がっていた。
「なぜ?こんな事が……?」
「せっかく現場にいるんだから、見ましょう」
青木巡査が走る。ボクもそれを追う。
「あ!」
「……そういうことか」
低木が生い茂り、遊歩道ではない道が存在していた。普段は誰も通らないのか、草が生い茂っているが通れない程ではない。
♦︎♦︎♦︎
「さすが、『防犯カメラの専門家』ですね。恐れ入りました!」
青木巡査が興奮を隠せない様子で言った。
この情報を捜査本部に持ち帰り、被疑者特定に結びつけるのだ。
「これであの道は『作られた』のか『利用した』のか、いずれにしてもかなり絞り込めるはずですよ」
ボクの言葉に大きくうなづく青木巡査。
ボクはそろそろ頃合いだと思う。
「ところで、犯人が写ったと思しき、防犯カメラがどこだったのかわかりますか?」
「ああ、あれは公園管理のカメラではなく、自販機業者のものです」
(なるほど、だから犯人は『そのカメラ』を認識していなかったのか)
もう1つ、ボクには重要な気づきがあった。
「扇型をグラデーションする案、今後はボクも使わせてもらいます。青木巡査」
青木巡査に、防犯カメラのマッピング作業を教えた時だった。
「……端はこの線で……右側はこのあたり……奥行きは……すると、レイヤーを分けて、あれ?透過率0%だ、50%にしてと……」
そんな事をつぶやきながら作業を進める青木巡査に。
(…50%?)
ボクはその言葉に何か引っかかりをおぼえる。真ん中、そういえばこの事件も『事件B』だった事を思い出す。
(そうか!0%・50%・100%だ!)
なぜ、3つも事件を田中管理官が用意したか?だ。
そして、1番難しいはずの50%、つまりはこの事件。
それに関与した魔法少女がボク達だった。




