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42:これからも一緒に

 


 マーゴットの隣を歩くエヴァルトは随分とご機嫌で、『嬉しい』という感情がこれでもかと顔に出ている。

 分かりやすい彼の態度に、自ら誘ったマーゴットは何とも言えない気持ちで歩いていた。己の頬がほんのりと熱を持っているのが分かる。


「お師匠様ってば、そんなに喜ばないでください」

「だってマーゴットが付いてくるのを許可してくれたんだぞ? 喜ぶなっていうのが無理な話だ」

「断言しないでくださいよ。もう……」


 恥ずかしさを誤魔化すために不満を訴え、唇を尖らせて怒っている事を訴える。

 だがそんな仕草もエヴァルトにとっては愛でる要素でしかないのだろう「怒っていても俺のマーゴットは可愛いな」と褒めてきた。マーゴットが思わず眉間に皺を寄せる。

 この状態になったエヴァルトは何をしても止まらない。満足するまで褒め倒してくるのだ。

 共に生活していて十分過ぎるほどそれを理解しているマーゴットは止めるのは無理だと判断し、早くギルドに向かおうと歩く速度を速めた。当然、エヴァルトも歩幅を合わせて付いてくる。


「ところで、今までは怒ったり呆れたりだったのに、どうして一緒に行くのを許す気になったんだ?」

「怒られたり呆れられていた自覚はあったんですね」

「有るには有ったが、それはそれ、これはこれってやつだな。それで、どうしたんだ?」


 改めて尋ねてくるエヴァルトに、マーゴットはチラと彼を見上げた。

 嬉しそうに目を細めて微笑んでいる。いつも通りの表情。テディア国から戻って来てからも相変わらず彼は弟子を愛でる師だ。

 ……だけど時折、彼は瞳の奥に熱を宿す。弟子を見る師の瞳ではない、溶け込んで胸の内を焦がすような熱い瞳。

 あの時のエヴァルトの事を思い出すと、同時に胸の苦しさも蘇ってくる。心臓が跳ね、体がふわりと浮かぶような浮遊感すら覚える。


 落ち着かなくて、それでいて心地良い感覚。


「テディア国に行く時にお師匠様が付いてきてくれるって分かって、私すごく安心したんです。ステファン様の奥様達の墓地に行く時だって、きっとお師匠様が居てくれなかったら怖くて行けなくて真相に気付かなかった……。お師匠様が隣に居てくれたから、私、頑張れたんです」

「マーゴット……」

「お師匠様は、私が大事だからいつも付いてくるんですよね」

「あぁ、そうだよ」

「それは……、私が弟子だからですか? ……それだけだから、ですか?」


 立ち止まってマーゴットが問えば、エヴァルトが「……え」と小さく声を漏らして足を止めた。

 驚いたような表情で見つめてくる。

 そんな彼を、マーゴットは跳ねる心臓をぎゅと押さえるように胸元を掴みながら見つめて返した。


「お師匠様、私、もしもお師匠様が私の事を……、弟子だけじゃなくて……」


 弟子だけではなく、一人の異性としても大事に想ってくれているのなら……。


 そう言いかけるも、遮るようにエヴァルトが「俺は」と話を進めた。


「俺はマーゴットを大事に想っている、だから誰より近くに居たい。それは家族や弟子としてだけじゃない、それ以上に、俺はマーゴットを一人の女性として大事に想っている」

「お師匠様、それは……」

「きみのことが好きだ、マーゴット」


 エヴァルトの言葉は真っすぐでいて熱い。家族としてでも師としてでもなく、一人の男性として一人の女性を求める言葉だ。

 彼の言葉はマーゴットの胸の内に溶け込み、元より早い鼓動を更に速めた。自分の心音が体の中で響いている気がする、心音に合わせて体が震えそうになる。

 そんな痺れるくらいの緊張を感じつつも、それでもとマーゴットは胸元を掴んだたままエヴァルトを呼んだ。


 いつもの「お師匠様」という呼び方ではなく、今だけは「エヴァルト様」と。


 呼び方が変わったことに気付いてエヴァルトが小さく肩を震わせた。

 彼が緊張しているのが分かる。だがマーゴットだって緊張しているのだ。震える声をなんとか押さえながら「私も」と言葉を紡いだ。


「私も、エヴァルト様の事が好きです。お師匠様としても家族としても大好きだけど、でも、一人の男性としても……、その……」


 男性としてエヴァルトの事が好き。

 その言葉を口にしようとすると元より荒かった鼓動が更に早まり、うまく声が出せなくなってしまう。

 顔が熱い。耐え切れずに俯くも心音は相変わらず体の中で響き渡っている。

 言わなくてはと自分を急かすも上手くいかず、想いだけが溢れて「あの」「私は」と繰り返すだけだ。


「マーゴット……」


 そんなマーゴットの必死さに気付いたのか、エヴァルトが落ち着いた声色で名を呼ぶとそっと肩に触れてきた。

 驚いて顔を上げれば、エヴァルトが目を細めて微笑んでいる。


「これからも必ずそばに居るから、俺の隣に居てくれ」


 優しく穏やかな声色で、それでいて強い思いが込められた言葉。

 恥ずかしさと緊張で碌に喋れなかったところにこの言葉なのだから、マーゴットが返事出来るわけがない。それでもこの言葉に返さなくてはと一度はっきりと頷いて返した。


 肩に置かれていたエヴァルトの手に僅かに力が入ったのが分かる。

 嬉しそうに目を細めていた彼が「ありがとう」と囁くように告げると、そっと身を寄せてきて……、


「まっ、まだ駄目です! 気が早すぎます!!」


 キスをしようとしてきたところを、マーゴットはすんでのところで慌てて押し戻した。


「おっと、少し気が早かったかな」


 残念と言いたげにエヴァルトがぱっと離れた。

 悪びれる様子もなく、それどころか「まだ、か」と期待の色さえ見せている。

 これにはマーゴットも元より赤かった顔を更に真っ赤にさせ、「お師匠様ってば!」と普段より強めに彼を呼んだ。


「ルリアとドニと待ち合わせしてるんです、早くギルドに行きますよ! お師匠様が加わるって二人に説明しないと」

「エヴァルトって呼んでくれないのか?」

「すぐ調子に乗るその癖が直らないうちはお師匠様です!」


 ぴしゃりとマーゴットが言い切り普段より足早に歩き出す。

 それが照れ隠しなのは言うまでもなく、もちろんエヴァルトが察しないわけがない。

 緩んだ表情を浮かべて隣に並ぶ彼を見て、マーゴットはこれにも「だらしない顔をしないでください!」と叱りつけた。



 ◆◆◆



 ギルドに到着し屋内へと入る。隣には嬉しそうなエヴァルト。満足そうな表情をしており、そのうえわざと扉を開けて大袈裟にエスコートの仕草までしてくるではないか。

 それに対してマーゴットはいまだ顔が赤いまま、むすと唇を尖らせて「ご親切にどうも」と拗ねた感謝の言葉を返した。もちろんこれも照れ隠しであり、エヴァルトの笑みが強まるだけだ。


 そんな二人の登場に、ギルド長や居合わせた者達はおやと視線を向けてきた。

 今まではマーゴットが一人でギルドを訪れ、エヴァルトは彼女の後を付けて様子を窺いながらギルドに入ってきていたというのに。今日は二人で。それも随分と様子がおかしい。


「おはよう、マーゴット。……ん?」

「あら、これって……」


 待っていたドニとルリアもこの変化に目を瞬かせたものの、二人はすぐさま納得したと言いたげに笑みを浮かべた。

 にんまりとした悪戯っぽい笑みだ。


「今日から四人パーティーね。これでエヴァルト様にも協力してもらえるわ。報酬は四分割だけど、そのぶん難易度の高い依頼を受けられるわね」

「あ、待てルリア。マーゴットがこっちを睨み始めたぞ。揶揄うのは程々にしておかないと」


 そんな事を話すルリアとドニに対して、マーゴットは気恥ずかしさでムグと口を噤み……、ふんとそっぽを向いた。


「お師匠様が正式に加入すれば、正真正銘、私達で依頼を完遂することになるわ。そうすれば私はもう立派な冒険者よ」


『師がどこまでも付いてくる半人前』ではなく『師と共に行動する一人前』になるのだ。

 そうすれば『自分達パーティーだけで依頼を完遂させた』という事になる。

 これこそ独り立ちの最短ルート。


 そんなマーゴットの些か無理がありそうな話にルリアとドニが顔を見合わせて苦笑し、エヴァルトはと言えば、


「可愛いし頭も切れる、さすが俺のマーゴット」


 と、これ以上ない程に嬉しそうな表情で愛でてきた。



 …end…






『マーゴットの独り立ち』これにて完結です!

最後までお読みいただきありがとうございました。

さくっと明るく楽しく読めるお話を目指してみました。楽しんで頂けたなら幸いです。


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