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14:あの手この手にも程がある

 


 数ある裏取引現場の内、マーゴット達はとある店での検挙を担当する事になった。

 そこは一見すると普通の雑貨屋だという。外観も品揃えもこれといって違和感はなく、周囲の景色にも溶け込んでいる。だが建物の奥では違法生物の取引がされているらしい。

 店員も相応に知識があり、何も知らずに来店した者達は怪しむことなく買い物を済ませて出ていく。店の評判も可もなく不可もなく、平凡だからこそ誰も注目せず、よくある地味な雑貨屋で悪事が蔓延っているとは思わず見逃してしまうのだ。


「普通のお店を装ってるのよね? それならどうやって奥の取引現場に入るの?」

「合言葉があるのよ。それを店員に伝えると奥に案内されるんですって。でも取引場所によって合言葉も変えてるらしいから、本当に厳重に管理してるのね」

「それほどに向こうも警戒してるのか。俺達もボロを出さないように気を付けないとな」


 意識を改めるように真面目な口調で話すドニに当てられ、マーゴットも真剣な顔付きで頷いて返した。

 自分達がどれほど貢献できるかは分からない。とりわけ自分はまだ新米冒険者だ、貢献どころか足手纏いにならない事を心掛けるべきかもしれない。

 そのうえ、聞けばこれから合流するパーティーは歴も長い熟練のパーティーというではないか。こちらが新米パーティーというのも了承してくれているというのだから、胸を借りるつもりで先輩達から一つでも多く学ぼう。

 そうマーゴットが決意し「頑張りましょう!」と意気込んだ。


「確かここで合流のはず。そろそろ向こうも……、あ、あの人達じゃないかしら」


 ルリアの言葉を聞き、マーゴットはドニと共にそちらへと視線をやった。

 道の先から数人が歩いてくる。彼等が合流するパーティーなのだろう。歩く様に余裕を感じさせる。

 彼等と合流し、マーゴット達はさっそく自己紹介を、……と考えていたのだが三人とも言葉を失ってしまった。


「そ、そちらの……方は……」


 とは、辛うじて絞り出したマーゴットの問いかけ。

 それに対して、ハドックと名乗った相手パーティーのリーダーが「そちらの方?」と不思議そうに尋ねてきた。

 マーゴット達の視線を追うように自分達の背後を見て、そこに立つ一人の女性に目を止めて今度は「あぁ」と納得の声をあげる。


「彼女は臨時で俺達のパーティーに加わったんだ。名前はエヴァ」

「エヴァ……さん……」


 エヴァと紹介された女性に視線をやり、マーゴットがポツリとその名前を呼んだ。

 目鼻立ちの整った凛とした麗しい顔付き。長い髪は燃える炎のように赤く、それでいて濃紺色の瞳は涼やか。背が高く、男だけのパーティーに加わった紅一点でありながらも一番背が高い女性だ。


 ……女性か?


 ………いや、どう見ても女装をしたエヴァルトである。


 これにはマーゴットも言葉を失い、だがこのまま黙り込んでいては失礼だと考え、絞り出した声で「ちょっと失礼します」とハドック達に一言告げた。

 次いで彼等に背を向け、同じように動いたルリアとドニと顔を寄せ合う。


「……お師匠様よね」

「……エヴァルト様ね」

「……エヴァルト様だな」


 三人の意見が一致する。

 やはりどう見てもエヴァと紹介された女性はエヴァルトなのだ。

 確認のためにマーゴットがチラと背後を振り返れば、ハドック達は不思議そうにし、彼等の殿に立つエヴァ改めエヴァルトは露骨に顔を背けた。その表情はだいぶ気まずそうだ。

 それを確認し、マーゴットは再びルリア達と顔を見合わせた。


「あの手この手の幅がまた広がったわね。まさかの広がり方に私も怒って良いのか分からなくなっちゃったわ」

「そうねぇ……。でもエヴァさん改めエヴァルト様、なんだか気まずそうな表情してない?」

「確かにそうだな。普段なら同行出来る時は嬉しそうにしてるのに、今は露骨に顔を背けつつもたまにこっちを横目で見てくるし」

「あれは多分、自分でも『女装は無い』と思ってるのよ。そして無いと思ってるのに予想外に上手くいって本人も困惑してるの。ちらちら向けてくる視線は私達に助けを求めてるんだわ」


 師のだいぶ複雑な胸中をマーゴットが代弁すれば、ルリアとドニがなるほどと頷いた。次いで「マーゴットも大変ね」「悩みがあったら俺達に話せよ」という労いは、あの手この手の果てに女装までしてくる師を持ったことに対してだろう。

 二人に感謝を告げ、マーゴットは改めてハドック達に向き直った。挨拶を中断させてしまった事、そして自分達の自己紹介もまだだった事を詫びれば、彼等は気にする事ないと苦笑と共に受け入れてくれた。

 これぞ熟練の冒険者がもつ余裕。……露骨に他所を向き続ける一名を除いて、なんて頼りがいがあるのだろうか。




 約一名訝しい人物がいるものの、ハドック達は熟練のパーティーだ。

 こういった潜入捜査や他と連携しての摘発、新米パーティーとの合同依頼も何度も経験しているという。マーゴット達が軽く自己紹介をすればすぐに各々の役割を理解し指示を出してくれた。

 それもマーゴット達が無理をしない程度の指示。それでいて新米だから大人しくしていろと邪険にするわけでもない。これぞ熟練と言える判断力と手際の良さだ。


「三人とも、見た目や振る舞いが良い所の出って感じだな」

「本当ですか? あんまり気にしたことないんですけど……。もしかして、もっと荒んだ感じや凄みが必要でしょうか?」


 マーゴットは元々貴族の令嬢だ。ルリアとドニも平民とはいえ貴族に仕える家の出である。五年前に全て捨てたとはいえ、喋り方や立ち振る舞いからその生い立ちを感じさせてしまうのだろう。

 とりわけギルドの冒険者達は己の強さだけで生き抜いてきた猛者が多いのだ、品の良い年若い男女三人組は異質なのかもしれない。

 せめて威圧感でも醸し出そうとマーゴットがムムムと眉間に皺を寄せて見せた。これで少しは強そうな印象が……、と思うもハドックは笑うだけだ。

 ちなみにその背後ではエヴァが目を細めて「凄むマーゴットも可愛い」と呟いている。正体を隠す気はないのだろうか。


「君達はそのままで良いと思うぞ。確かに見た目は重要だが、逆に考えれば君達の見た目や振る舞いも時と場合によっては有利になる」

「有利に? でも冒険者らしさが無いと依頼する人も心配になりませんか?」

「確かにその可能性はあるが、依頼によっては上品な振る舞いや品位を必要とする時も有るんだ。たとえば貴族のふりをしてパーティーに侵入とか、俺達じゃ難しいだろ」


 自分で『難しい』と言い切ってハドックが豪快に笑う。

 彼は未熟な冒険者達を導こうとする優しく頼りがいのある冒険者だ。だが見た目は厳つく、冒険者としての強さや経験の豊富さが佇まいや顔付きに出ている。

 彼の仲間も同様。只者ではないオーラが醸し出されており、素性を知らぬ女子供は臆してしまうだろう。マーゴットとて同業と知らずに対峙していたら緊張していたかもしれない。

 それは冒険者としては誇るべき事である。だが時には足枷にもなってしまう。

 先程彼が話していた貴族のふりをしてパーティーへの潜入は難しいどころか無理だろう。仮にパーティー会場に入れたとしても悪目立ちしてしまう。


「だから無理に自分達を変えようとする必要はない。むしろ今の印象を売りにした方が良い」

「なるほど……。分かりました。ありがとうございます」

「……うちのパーティーも少し印象を変えたら依頼の幅も広がるかもしれないな。たとえば、ほら……、エヴァがいれば雰囲気が変わるだろう。彼女、美人で上品だし。きっと貴族のふりも出来る」


 コホンと咳払いをしながらのハドックの話に、マーゴットは唸りたいのを押さえて「エヴァさんですか」と呟くように返した。

 確かにエヴァは美人で上品だ。……と、思う。正体を知っているマーゴットにはどうしても普段の師の姿がちらついてしまうので断言が出来ない。

 だが正体を知らぬ者からしたら確かに美人なのだろう。背が高くて良く見れば肩幅もしっかりしているが、そこはゆったりとした服装で誤魔化しているし、そういう女性が好みという男性もいるはずだ。


「ハドックさん、お師匠様の……、いえ、エヴァさんの事が気になってるんですね」

「俺と言うか、俺達と言うか……。俺達いつもは臨時の加入は断っているんだけど、エヴァに声を掛けられた時は全員が賛成したんだ。はは、恥ずかしい話だな」

「うそ、軒並み骨抜きにしてる……!」


 師の意外なーーそして知りたくなかったーー魅力を知ってしまい、マーゴットが悲鳴じみた声を漏らした。

 ちらと後ろを見れば、エヴァ改めエヴァルトがハドックの仲間達に囲まれている。美女をちやほやとする男達、さながら女が作る逆転したハーレムのごとく。

 ちなみにエヴァルトはドニの腕を掴み、むしろ抱き着かねない勢いで側に置いていた。これは単に助けを求めているだけなのだが、なにも知らない男達はドニに対して嫉妬し、自分の方がと更に必死でアピールをしている。


「地獄……」


 思わずマーゴットが呟いた。

 ……が、あまり助ける気にならないのはエヴァルトが自業自得だからである。ドニは助け出したいのだが、幸い男達は嫉妬するだけに留めているのでもう少し放っても大丈夫だろう。

 ドニの表情は呆れを通り越して無の領域だが、マーゴットと目が合うとふっと軽く笑って小さく頷いてきた。


『俺は大丈夫だから、今はひとまず依頼を優先しよう』


 そんな彼の声を聞いた気がした。

 ……想像の中でさえだいぶ達観した疲労交じりの声である。


「ドニ……、貴方の犠牲は無駄にはしないわ。今日の夕飯はピーマンオンリーにして仇は打ってあげる。だから今は我慢してね……!」


 仲間を犠牲にする心苦しさを胸の内に押しとどめれば、いつの間にか真剣な表情に戻っていたハドックが「見えて来たぞ」と道の先を見るように促した。



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