第六十四話 召喚魔法
やっとの思いで村へと辿り着く。
馬を預けている宿屋へ入ると「おかえりなさいませ!」と、宿屋の主人が元気良く迎えてくれた。
来た時と同じように部屋を3つお願いして、師匠と2人でツインの部屋へ。
グローリエルがシングルで、エリーとエルミアはツインの部屋だ。
夕日も落ちていた時間なので、食堂で食事を取り各々お風呂へ入るなど自由に過ごした。
実質6日・・・いや7日ぶりのお風呂だ。
陶器製の浴槽にお湯を溜めて、湯船へ浸かる。
「はぁ・・・」と、溜息が出てしまうほど気持ちよかった。
温めると、背中の痛みもかなり和らいだ。
約1週間かぁ・・・なんだか永かったけど、ボクほとんど戦ってないしなぁ・・・
そういえば、オルトロスどうしようかな~
せっかくだし、売らないで皮で何か作ろうかな・・・
黒いフサフサの毛が生えてるんだよね~・・・
やっぱりアレかな、マントとか?
真っ黒いマントとかどうなのよ・・・
ボクは似合わないだろうなぁ・・・
髪の毛黒いし、全身真っ黒になっちゃうよ。
あ~でも、師匠とか似合いそうだよね。
美人さんだしカッコイイし。
そういう意味なら、美人さんのエルミアにも似合うかも。
「しばらくは訓練をする」って師匠も言っていたし、趣味の時間も作れそうだ。
あ~そういえば、この前服屋で反物とか色々買ったから和服とか作ってみようかなぁ~
この世界に、ミシンとかないからもちろん手縫いだけど。
のんびり出来るのがいいんだよね~。
ボーっと湯船に浸かり、ふと左腕にはまっている腕輪へ目を向ける。
そこにはドラゴンゴーレムの瞳だった青い魔宝石と、ウェヌスがくれた赤い魔宝石が埋まっている。
これ・・・魔宝石だよね・・・・どんな魔法がかかっているんだろう・・・・
どうやるんだっけ?
たしか風竜が「魔法をイメージしてみるがいい。その石から何か溢れ出るイメージだ」とか言ってたような・・・
どれどれ・・・
腕輪に意識を集中する。
赤い魔宝石・・・・『ガーネット』
ウェヌスは「きっとカオルの力となります」と言っていた。
ボクの力・・・・助けてくれる力・・・・
意識を腕輪に同調させる。
何か溢れるイメージ・・・・
頭の中でカチリと何かがはまった音がした。
すると、目の前に浴室いっぱいの大きさの大きな鳥が現れた。
驚いて目を見開く。
狭い場所だからか、大きな鳥は窮屈そうだ。
慌てて、腕輪に意識を集中する。
もどれ~もどれ~。
すると、大きな鳥が音も無く姿を消した。
「びっくりした・・・・」
思わず声に出るくらい驚いた。
いきなり大きな鳥が現れるんだもん。
それは驚く。
試しにもう一度腕輪に意識を集中する。
小さな鳥を・・・・先ほどよりもうんっと小さな鳥を・・・・
ゆっくりと目を開けると、小さな小鳥が浴槽の縁に佇んでいた。
カワイイ・・・・
そっと手を伸ばすと、掌にちょこんと乗ってきた。
小さい爪が小刻みに動く。
くすぐったいような、こそばゆいような・・・・
これはあれですね。
所謂、召喚魔法ですね!
しかも大きさ自由自在!
やっばい!
ティルが乗って行った鳥を見た後だから、余計にやばい!
一目見て、欲しかったんだよね~♪
これはペットだよね?
うわぁ・・・餌付けしよう。
うん、飼おう。
大事にするよ~!
名前はピーちゃん!いや、ぴぃ助!・・・・・ありきたりだなぁ・・・・・・
う~ん・・・・・ここはひとつ、ステキな名前を考えなくては。
エルミアに相談してみようか?
おしゃれさんだし。
いやいや!
ボクのペットなんだ。
ボクが名前考えなきゃだめだよね!
小鳥は、いつのまにかボクの肩に止まっていた。
鳴くことは無いが、時折翼を伸ばしたりしている。
超カワイイ・・・・
名前か~・・・・
う~ん・・・う~ん・・・・・
思いつたので呼びかけてみようかな・・・・
思い付く限りの名前を呼んでみる。
「ヴォラティル・アウィス・プチーツァ・パッハロ・ターイル・アスフール・ヴォーヘル・チン」
なんてことは無い、鳥をロシア語やスペイン語・オランダ語などで言っているだけだ。
・・・・だって思いつかないんだもの。
呼ばれた小鳥は特に動くことも無く、羽を掻いたりしている。
むぅ・・・・
ここは親として、何か良い名前をつけねば・・・・
いや・・・むしろボクが親なんだから、雛と思えば・・・
そこで「ファルフ」と呼ぶと、小鳥が顔を向けてボクの頭の上に登った。
お!気に入ったのかな?
もう一度「ファルフ」と呼ぶと今度は掌の上へ。
おお!
「よし、今日からキミはファルフだ!よろくね♪」
そう言って、人差し指で頭を撫でると嬉しそうに羽ばたいた。
うんうん!カワイイ仲間が増えたぞ!
急いでお湯から上がり身体を拭くと、そのまま部屋へ戻る。
ベットの上でくつろぐ師匠に「師匠!新しい仲間です!」と言ってファルフを見せる。
師匠はファルフを見て「なんだ?捕まえたのかい?」と首をかしげていた。
ふっふっふ・・・
あまいですね、師匠。
ボクはニッコリ笑ってファルフを腕輪へ戻す。
それを見た師匠が慌てて「な!?き・・・消えた!?」と驚愕の顔を浮かべた。
にゃっはっは!
ボクはもう一度腕輪に意識を集中し、小さな鳥のファルフを呼び出す。
目の前に現れたファルフはボクの肩へ止まり羽をバタつかせた。
カワイイヤツじゃ!
人差し指で頭を撫でておいた。
師匠はそれを見て啞然としていたが、やがて「それは・・・・魔法か?」とボクに聞いてくる。
実際の所はわからないのだが、おそらくウェヌスがくれた赤い魔宝石の魔法なのだろう。
師匠にその事を告げると「なるほど・・・・失われた召喚魔法かもしれないな」と話した。
ふむふむ、やっぱり召喚魔法なんですね。
ゲームではおなじみですよ!
それにしてもカワイイなぁ~。
アイテム箱から、ローストビーフを取り出しダマスカスの包丁で細かく切り取る。
それをファルフの口元へ持って行くと、おもむろに啄ばんだ。
おお!食べたよこの子!
かわええ・・・
よしよし、沢山食べて大きくなるんだよ。
って・・・・風竜みたいに実体が無いんだ。
風竜はエーテル体とか呼んでいたよね。
う~ん、前に風竜は「食べる必要が無いだけで、食べようと思えば食べられる」とか言っていたから、食べても大きく成長することはないのかぁ・・・
でも、なんとなく餌を与えたくなるよね。
切り分けた小さな塊を食べ終わると、満足したのか目をぱちぱち閉じたり開いたりしていた。
まぁいいか、気分で食べ物をあげよう。
ボクもそれを見て満足するしね。
一頻り、ファルフと遊んで寝る事に。
師匠が「寝る時はしまってあげなさい」と言われたので、ファルフを腕輪に戻した。
1人だけ起きてても可哀想だしね。
いつものように、師匠に寄り添って眠る。
ベットの上で師匠の身体を弄った。
なぜって?今日こそ、バラの匂い袋を見つけ出すために!
しかし、身体のどこにも匂い袋は無かった。
う~ん・・・・バラの良い匂いはするんだけどなぁ・・・・
師匠の胸で息をする。
バラの香りと、師匠の体臭が嗅ぎ取れた。
むぅ・・・・本当にどこに隠し持っているのか・・・・
いつか・・・見つけ出しますからね・・・し・・・しょ・・・う・・・
師匠の匂いで安心したのか、そのまま眠りについた。
翌朝、師匠に抱きついて寝ていると扉をノックされる音で目覚めた。
眠い目を擦りながら扉を開けると、そこにはエルミアが立っていた。
「おはよう」と寝惚けた声で言うと「おはようございます。カオル様」と言い、柔らかく微笑んでくれた。
エリーとグローリエルの姿は無い。
エルミアを部屋に招き入れると「エリーとグローリエルはギルドの方が尋ねてこられて、連れて行かれました」とエルミアが語る。
ボクはまだ寝惚けていたので、意味がわからなかった。
連れて行かれた?
何か悪さでもしたのかな?
だんだんと、頭が冴えてくる。
そこへ「失礼しました。連れて行かれたのではなく、お話を聞きたいとお願いされてギルドへ行きました」と、訂正した。
なんだ。
何かしたわけじゃないのか。
っていうか、2人がそんなことするわけないし。
ずっと一緒だったんだもの。
エルミアに断って、洗面所で顔を洗うと寝惚けていた頭もスッキリとした。
部屋へ戻ると、師匠はまだ寝ていた。
せっかくなので、エルミアにファルフを見せる。
エルミアは驚いた様子もなく、現れたファルフを掌に乗せて遊んでいた。
むむ!驚かないとは・・・・
なんかつまんない・・・・
エルミアに「驚かないの?」と聞いてみると「はい。カオル様は特別な方ですから」と言い、ボクに笑いかける。
う~ん・・・・イエスマンには何を言っても無駄そうだ。
エルミアと話しをしていると、やっと師匠が起きた。
「ん・・・おはようカオル。エルミア」と、ボクと同じように目を擦りながら挨拶をしてきた。
その姿を見て、あまりにも自分に似ていたので嬉しくなった。
「おはようございます」と言い、洗面所へ連れて行く。
ファルフが部屋を飛び周り、ボクの肩に止まった。
よく懐いているなぁ・・・嬉しいよ。
顔を洗った師匠の顔をタオルで拭いてあげる。
師匠も目が覚めたようで、ボクのおでこに口付けをしてくれた。
部屋へ戻り、エルミアと3人で食堂へ行って朝食を食べる。
宿屋で出される料理は、味はそこそこなのだが根野菜が多い。
葉野菜に比べて、日持ちするからだろうか?
まぁ、この野菜スープとかは美味しいからいいんだけどね。
ああ、オナイユの料理長が作ったシチューが食べたくなる・・・
あれは美味しかった・・・・
戻ったら作ってもらおう。
食事を終えて、3人で宿屋の厩舎へ。
預けてある4頭の馬は元気にしていた。
特に、あの2人組みに傷つけられたエリーの馬は、怪我なんて無かったかのようにはしゃいでいた。
ボクが近づくと、頭を擦りつけてくる。
嬉しくなって頬を撫でてやると「ブルルン!」と元気良く声を出し顔を左右に振っていた。
せっかくなので、ファルフを見せると特に驚いた様子もなく平然としていた。
ふむ・・・小さいから、危険じゃないと思ったのかな?
ファルフが馬の身体をピョンピョン跳ねても動じる事は無かった。
う~ん・・・不思議だ。
ファルフを腕輪に戻して3人で冒険者ギルドへ。
朝早くに連れて行かれたエリーとグローリエルのお迎えだ。
本当はあまり行きたくないのだが・・・
7日前に大暴れしちゃったしね。
師匠とエルミアを先頭に、コソコソと冒険者ギルドへ入ると併設された食堂のテーブルで多くの人が和気藹々と食事をしていた。
気付かれないようにエルミアを盾にしていたら、立ち止った師匠にぶつかってしまった。
師匠の背中に激突してしまい、思わず鼻を強打する。
よろけた師匠に「ごめんなさい」と言うと、ボクの鼻を摘んで「だいじょうぶだ」と言い離してくれた。
その時、誰かの息を飲む声が聞こえた。
恐る恐る声がした方へ目を向けると、いつぞやに色々押し付けたドワーフのおじさんがいた。
苦笑いを浮かべると、驚愕としていたおじさんは「く、黒巫女様!?」と大声で叫んだ。
それを合図に、冒険者ギルドにいた人達は立ち上がり、まるで軍隊の様な統率された動きを見せ直立不動の気をつけをした。
な、何が始まるのだろうか!?
あまりの迫力に、ボクの方が驚いてしまった。
そこへエリーとグローリエルが帰ってきた。
何やらニヤニヤと笑うエリー。
なんかいやな予感が・・・
案の定エリーから「カオル。あんたすっごいわね・・・・悪人捕まえたんですって?しかも、ものすごい手段で自白させて」と口元に笑いを浮かべて話してくる。
ああ・・・ついに師匠以外にバレてしまった・・・・
まぁいいんだけどね。
隠し通せるわけ無いし。
でも、エリーのこの態度は気に入らないよ!
オシオキをしてあげよう・・・・
エリーに近づき耳元で「そうだよ。ボクの『大切なエリー』が乗る馬を傷つけられたから、ついやりすぎちゃった」といやらしく言う。
それを聞いたエリーは、ボン!と音が出るくらい顔を真っ赤にしてモジモジとしていた。
本当に可愛いね、エリーは。
オシオキが成功してほくそ笑む。
エリーの傍にいたグローリエルへ「何の用事だったの?」と聞くと「いや、あたい達がダンジョンで助けたパーティがいただろう?カオルにお礼を言いたいんだとさ」と言い、ギルドのカウンターを指差すとそこには見たことがある人物が。
リーダーらしき長身のヒュームの男性と、あの時足を怪我していたヒュームの女性だ。
ボクと目が会うと手を振ってくれた。
よかった・・・無事だったんだね。
ボクも笑顔で手を振り返すと、嬉しそうに笑いこちらへやってくる。
「怪我を治してくださり、本当にありがとうございました」そう言い、ボクと握手を交わす女性。
ボクは「いえ、無事に回復したようでよかったです」と笑顔で返した。
すると、リーダーの男性が「ダンジョンでは世話になったな。俺達はアンエ村へ帰るんだが、何か用があればいつでも言ってくれ!良い温泉を案内するぞ!」と話してくれた。
なんと!?
温泉があるのですか!?
アンエ村は行ったことないけど、ぜひ行ってみたいですね!
温泉かぁ~いいよね~・・・・
フルーツジュース片手に、のびのびと温泉に浸かる。
なんという贅沢!
これはぜひぜひ行かなければ!
お礼もそこそこに2人と別れる。
気付かなかったが、ボク達が話している間中ギルドと食堂内の人は気をつけをしていた。
ここは軍隊ですか?
なんとなく会釈をしてギルドを出ると、ビシッ!と踵を合わせ敬礼をしてくれた。
本当に軍隊なのだろうか・・・?
普通のおじさんとかなのに・・・・
師匠に連れられ、宿屋をチェックアウトする。
宿の代金はグローリエルが払っていた。
何倍にも吹っかけてエリーシャからふんだくるそうだ。
さすが元冒険者だね。
抜け目が無い。
師匠が跨った馬へ乗せてもらう。
ファルフを呼び出すと、ボクをぐるりと一周回って馬の頭に乗った。
どうやら、その場所が気に入ったようだ。
馬も臆することなく耳の間にファルフを乗せている。
なんだか可愛い。
エリーが馬を寄せて「カオル、あんたその鳥どこから出したのよ・・・・」といぶかしげに聞いて来た。
ボクは勝ち誇った顔をして「な~いしょ♪」と答えた。
エリーは「ぐぬぬ・・・・」と言い、悔しそうな顔をしていた。
ぐぬぬとか、初めて聞いたよ。
馬の前にボクを乗せたまま、師匠が地図を取り出す。
帰りも師匠が先導するようだ。
最後尾のグローリエルに目を向けると、どこから取り出したのか傘を開いて器用に馬の上で眠っていた。
まったく・・・ダンジョンでは、あんなに頼れる人だったのに一歩外に出たらこれですか・・・・
『残念美人』め・・・
ブツブツ呪詛を込めて睨んでいると、ふとグローリエルが持つ傘の柄に目が向く。
あれって・・・・グローリエルが魔法使う時に持っていたステッキじゃ・・・
というか、あれ自体が傘だったの!?
本当に剣聖も剣騎も変わった人が多いなぁ・・・・
フェイは可愛そうだったけどね。
あの2人にも、またどこかで会うのかな~・・・
馬に揺られながらそんなことを考えていた。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




