第六十三話 ダンジョンからの帰還
短いですが・・・
「それでカオル。先ほどの浮気の件だが」
師匠は不貞腐れた顔をして、ボクを見詰める。
うぅ・・・ボク悪くないのに・・・・
怖いので、ここへ入ってからの事を説明する。
説明を聞いた師匠が「何百年も待っていた・・・?それに先ほど霞のように消えた姿・・・・人間ではないのか」とブツブツ呟いていた。
ボクはそんなことよりも、背中の痛みがピークに達していた。
うぅ・・・回復魔法が使えれば・・・・・アレ?魔力あっても、ボクは自分に回復魔法使った事ないよ?
どうやって自分にかけるんだろう・・・・背中だと、傷口に両手を掲げたり出来ないし・・・・
あ~・・・・カルアに聞いておけばよかった・・・
まぁいいか。
魔力回復してないし。
とりあえずみんなの所に戻ろう。
っていうか、師匠どうやって入ってきたの!?
師匠を見上げ聞いてみる。
「師匠、どうやって入ってきたんですか?」
ボクがそう聞くと、ブツブツと呟き思案していた師匠が答えてくれた。
「ああ、カオルがここへ入ってから戦闘をしている音が聞こえてね。その音が止んだら、見えない壁が無くなったんだ。それで、偵察をしに私が来たって訳さ」と教えてくれた。
なるほど・・・オルトロスを倒したから、入れるようになったのですか。
ああ、そうだ、オルトロスしまわないと。
師匠にお願いして、身体を支えて貰う。
双頭の犬こと、オルトロスは片方の頭を切り落とされ横たわっていた。
アイテム箱を取り出して、オルトロスの亡骸をしまうと「カオル・・・・これ、1人で倒したのかい?」と不審そうな顔で聞いてきた。
ん?なんだろう?前にドラゴンだって倒したんだから、問題ないような・・・・
不審そうな師匠に「はい、死にかけましたけどね」と答える。
すると「カオル・・・・戻ったら、しばらく訓練をしよう。ドラゴンに続き、これほどの魔物と戦うとは・・・この先も何かあるかもしれない」と、神妙な顔をして話した。
そう・・・ですね・・・・
ウェヌスが、ボクの使命がどうのとか言っていたしね。
師匠にうなづくと、お姫様抱っこをしてくれた。
ちょっと恥ずかしいけど、歩くのが辛いから仕方が無い。
入ってきた通路へ向かうと、突然師匠にキスをされる。
急で驚いたけど、師匠とは何度もしているので嫌悪感は一切無い。
そのまま師匠の舌を受け入れる。
「ぐちゅ・・・ちゅ・・・じゅるる」
師匠の口内へ舌を射し入れ、唾液ごと啜る。
抱きかかえたまま必死になって舌を絡めると、満足したのかそっと離れニッコリと笑顔を見せてくれる師匠。
ボクは、つい大胆に求めてしまい恥ずかしくてうつむいた。
まったく、師匠は突然なんだから・・・・
もう少しムードとかそういう・・・ね。
そこで気付く。
夢中になってキスをしていて気付かなかったのだが、師匠が抱き上げた手でボクの太股を触っていたことに。
はぁ・・・・
一気に冷める。
せっかく、盛り上がるというかトキメクというか・・・・・
本当に『残念美人』だよ!
運んでもらっている立場なので、注意することも出来ずセクハラを受けながら通路を進む。
100mほどしか距離が無いので、あっという間に扉の前へ。
師匠に抱き上げられたボクへ、心配そうな表情で迎えてくれたエリーとエルミア。
心配してくれて、ちょっと嬉しかった。
まぁ、エリーのせいでイライラして行ったんだけどね!
3人のオシオキはあとで必ず決行しますよ!
ボクと入れ違いで、ティルとフェイが扉の中へ。
「さぁフェイ!ゆくぞ!」
ものすごい楽しそうなティルと、疲れた顔をしたフェイ。
可哀想に・・・・がんばってください。
というか、ホールの先になにかあるんだろうか?
たいして確認もしないで、戻って来ちゃったけど・・・
まぁいいか。
何かあれば呼んでくれるでしょ。
師匠に降ろしてもらい、地面に座ると「大丈夫ですか!カオル様!」とエルミアが寄り添ってくれた。
うんうんええ子や。
「心配してくれてありがとう」と答える。
でも、オシオキはします。
そこへ「まったく、カオルってやっぱり私がいないとダメなのね!」とツンデレ全開エリーが言う。
どっちがまったくなんだか・・・・
めんどくさいので「そうだね、エリーがいなきゃダメだよ」と笑顔で返す。
エリーは「そ、そうよね!わ・・・私だってカオルがいないと・・・・その・・・・」急にモジモジし出すエリー。
本当にツンデレさんなんだから。
エルミアとエリーに背を向けて、師匠に胸当てを外してもらう。
アイテム箱から麻のチュニックを取り出し、防具の下に着ていた下着の上から着る。
手をあげる度に、ビキビキと背中に激痛が走った。
うぅ・・・早くここから出てベットで休みたい・・・・
傍で着替えを手伝っていた師匠に手を伸ばすと、それに気付いた師匠が優しく手を握ってくれた。
繋いだ手から師匠の温もりを感じる。
「はぁ・・」と息が漏れる。
本当に疲れた・・・
そこへティルとフェイが戻ってきた。
嬉しそうな顔をしたティルの手には、石の破片のような物を持っている。
「何かありましたか?」
そう聞くと「あったのじゃ!」と言い、石の破片を見せてくれた。
それは裏側が石版のように平らにカットされており、なにやら地図のような物が描かれていた。
どこかの場所だろうか?
文字は無く、描かれた地図には×印が記されている。
よくわからないので「ありがとう」と言い、石版を返す。
ティルは、満足そうにそれを受け取り胸を反らせた。
反る胸もたいしてないのだが。
フェイはその様子を苦笑いを浮かべて見ていた。
大変そうですね・・・・同情だけはしますよ。
フェイに向かって微笑みながら、そんなことを考えていた。
師匠に支えてもらい、ひとまずダンジョンを出る事に。
行きと同じようにグローリエルが先導してくれた。
とは言っても、ここは40層なので出るだけでも数日かかるのだが・・・
行きと同じく3日を費やして、やっとダンジョンを出る事が出来た。
やはりダンジョンの中は暖かかったようで、魔境の森へ出ると肌寒い。
背中の痛みもだいぶ和らいでいたが、背伸びをするとまだ痛みが襲う。
戦う事が出来ないので、帰りのダンジョン内でも行きと同じように倒された魔物の回収に徹していた。
そんなことよりも、驚いたことにあのカムーン国の王女ティルがものすごく強かったのだ。
左手に持った盾で魔物の攻撃を弾くと、すかさず片手剣で急所を狙う。
以前、カイやエリーの盾捌きを見せてもらったことがあるが、雲泥の差だろう。
ティルが使う盾捌きこそ、洗練された戦い方だと思う。
ボクとあまり身長が変わらないくせにね・・・・
なんか敗北感がありますよ。
ダンジョンを出るとそこは魔境。
日の光も射さない鬱蒼とした森を、7人で連れ立って歩く。
時折、狼や猪などが巨大化した魔獣に襲われるがこの7人なら苦もなく倒せる。
エルミアとエリーがものすごい張り切っていたのが印象的だ。
おそらく、薄暗いダンジョンに何日も篭っていたのでストレスが溜まっていたようだ。
ティルとフェイは知らないが、ボクと師匠は元々引き篭もりだしグローリエルは何年も冒険者をしていてダンジョンに篭ることは慣れているのだろう。
生き生きとした表情で魔獣を狩る、エリーとエルミア。
女の子がアレでいいのかとは思うが、楽しそうだからいいか。
のんびりと魔境を進む。
やがて、木々の間から日が差し込む。
どうやら魔境も無事に突破できたようだ。
木々の開けた広場へ出ると、ティルが「うむ!ここらでよかろう。ヴァルカンよ世話になったな!」と話し出した。
師匠は「いえいえ、ティル様に怪我もなくよかったです」と答えた。
うん?ここでお別れするのかな?
フェイを見上げると、ニコッと笑いかけてくれた。
ふむ・・・
ボクが微笑み返すと懐から銀色の棒を取り出し、おもむろにそれを口に咥える。
「フィー」
甲高い音色を奏で音が鳴る。
小さな笛のようだ。
すると、大きな鳥が上空からやって来て広場へ着地する。
とても大きい。
鷹だろうか?こげ茶色の羽にくの字に曲がった嘴が特徴的だ。
大きな鳥フェイに向かい、頭を擦りつける。
あの笛はこの大きな鳥を呼び寄せるための物か。
ティルが我先にと言わんばかりに大きな鳥の背に乗り「では、皆の者!また会おうぞ!」と言うと、フェイがそれに続いて鳥の背に乗る。
「またね」とフェイが言うと、大きな鳥は翼を羽ばたかせ空へと舞って行った。
ボク達は大きな鳥が残していった風に吹かれながら、手を振って見送った。
なんというか、ティルは台風みたいな人だったな・・・
師匠の隣で手を振りながら、そんなことを考えていた。
大きな鳥が見えなくなると、師匠が「それでは私達も帰るか」と言い一路馬を預けた村へ向かう。
せっかくなので、歩きながら聞いてみた。
「師匠、先ほどの大きな鳥はなんですか?」
そう聞くと「あれは『魔鳥』と言って、カムーン国で使っている移動手段でね。とは言っても最大で3人しか乗れないし、数羽しかいないので王族しか使えないんだが」とニコッと笑い教えてくれた。
ほほー!
なんか、かっこよかったですよ!
いいな~・・・ボクも欲しいなぁ・・・・
風竜にまた乗せてもらえればいいんだろうけど、いつ出てくるかわかんないしなぁ・・・
魔力を消費しないで空を飛べるのは素敵だ。
カムーン国にはあんな物があるのかぁ~。
エルヴィント帝国には無いのかな?
グローリエルに「エルヴィント帝国にはああいう乗り物ないの?」と聞いてみた。
すると「ああ、あるぞ。空は飛べないけどな」と、満足げに答えた。
どんなものなんだろうか?
地上をすばやく走るとか?
う~ん・・・教えてもらおう。
「それってどんな物なの?地上を走るの?」
グローリエルが口元をニヤリと吊り上げ「うちにあるのはオオトカゲさ!ものすごい速さで、砂漠だろうが森の中だろうが駆け抜ける!しかも、繁殖に成功しているから数も多いぞ!」と自慢気に語ってくれた。
トカゲですか・・・・食べるとなかなか美味しいんですよね・・・ジュルリ
しかも皮も使えるしね・・・・
フフフ・・・・・なんだか見てみたくなりましたよ!
お城に帰ったら見せてもらおう。
ボクは疲れからか、そんなことを考えて目をギラギラさせていた。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




