第五十五話 残念美人のグローリエル
翌朝、迎賓館前でボク達4人はうなだれていた。
目の前には傘を差し、ご機嫌な顔をしたグローリエルが・・・・
なぜ朝からこんなに疲れているかというと、あろうことかこのグローリエルは皇帝陛下の勅命にもかかわらず、調査へ行く為の準備をまったく何もこれっっっぽっちもしていなかったのだ。
アーシェラが「本人たっての希望で、グローリエルが案内する」と言っていたので、最低限現地までの足とか自分の食料くらいは持ってくると踏んでいた。
ところが、蓋を開けてみればこの有様だ。
どうするの?
馬すら無いよ?
うなだれたボクは師匠を見詰める。
もう、ここは師匠に頼るほか無い・・・・
ボクの視線に気付き、疲れた顔をした師匠が「しかたがない・・・飛んでいくか」と呟いた。
いや・・・ボクと師匠は飛べるけど、エリーとエルミアどうするの?
抱えていけと?
どれくらい距離があるかわからないのに?
はぁ・・・本当にグローリエルに任せるとろくな事が無いですね。
師匠以上の『残念美人』ですよ・・・
本当に剣騎なんですか?
いや・・・まてよ・・・師匠だって剣聖になれたんだから、こんなグローリエルでも剣騎になれるのか。
むしろ、剣聖とか剣騎って『残念美人』にしか出来ないとか・・・?
まっさかー・・・・まさかだよね?
う~ん・・他の剣聖とかに会って見たいかも。
というか、今はそんなことどうでもいいか。
地図を見ている師匠に近づく。
「師匠、どうですか?」と聞いてみると「だいたい、ここから徒歩で2日ほど北上した場所が魔境だな。そこからダンジョンまでは徒歩だ」と説明してくれた。
ん?
「直接ダンジョンへ向かってはいけないのですか?」
気になったので聞いてみる。
師匠はにやっと笑い「カオル、それじゃぁ風情がないだろう?」と楽しそうに語った。
ああ、そうだ。
こういう人だった・・・・
風情なんてどうでもいいんですが・・・・
はぁ・・・先が思いやられる。
とりあえず、人を抱えて飛んでいける距離じゃないのでお城へ行き馬を借りる。
ボクはともかく、師匠はそんなに魔力量多くないしね。
近衛騎士団の騎士が快く貸してくれた。
本当にありがとうございます。
ボクは未だに馬に乗れないので、師匠の前に乗せてもらう。
エリーも初乗馬だったようだが「これくらい私に出来ないはずがないでしょ!み、見てなさいよ!」と言い、おっかなびっくり馬に跨っていた。
いや、馬が可哀想なのでやめてください・・・
ごめんよ馬君・・・・
結局、慣れるまでエルミアがエリーのたずなを引き、エリーはただ馬に跨っただけの状態だ。
まぁ・・・・すぐ慣れるんじゃないですかね?エリー、運動神経良いし。
あえて触れなかったが、グローリエルは余裕で馬に乗り傘を差していた。
本当になんなの?
まぁいいや・・・注意するのもめんどくさい・・・・
師匠の案内のもと、一路馬を北へ走らせる。
と言っても、大急ぎで行くわけじゃないのでのんびりとだが。
馬がへばっちゃうしね。
適度に休憩を入れて馬を休ませのんびり向かう。
グローリエルと、たわいもない会話で情報交換もした。
「師匠。ボク、ダンジョンなんてほとんど行ったことなんですけど」
後ろに乗る師匠にそう尋ねる。
師匠は相変わらずボクの太股にセクハラをしてくるが、特に注意はしない。
だって、落馬したらこわいじゃん!
師匠はセクハラしながら、ボクの質問に答えてくれた。
「ダンジョンはな、何層にも深く地底に延びる所謂魔境だ。まぁ、地下にあるか地上にあるかの違いだな。」と説明してくれた。
ふむふむ・・・
「出る魔物って違っていたりするんですか?」
色々気になるので突っ込んで聞いてみる。
「ああ、違うぞ。地上はどちらかというと魔獣が多いが、地下は・・・・カオルのキライなアレが出るぞ?」
楽しそうに師匠がそう言った。
う・・・・もしかして・・・・・・
「師匠・・・・出るんですか・・・?」
怯えた表情のボクがそう聞くと「ああ、大丈夫だ。もし出たら私が倒してやろう。ただし、お礼はしてもらうがいいな?」と、太股を触る手に力を込めた。
うぅ・・・・・背に腹は代えられない・・・・・・
「わ、わかりました・・・・助けてくださいね?師匠」
まるで小動物のようにブルブルと震え、師匠にそうお願いした。
「カオル様。いったい何に怯えていらっしゃるのですか?」
話しを聞いていたエルミアが訊ねてくる。
「あのね、ボク・・・・バッタが苦手なんです」
恥ずかしいのを覚悟し、そう告げる。
うぅ・・・
だってなんか顔怖いんだもん!
しかも集団で行動とかする固体もいるし!
うぅぅ・・・・
怯えたボクの顔を見詰め、エルミアが「カオル様・・・なんて可愛らしい・・・・」と呟き両手を頬に当て身悶えていた。
可愛いかもしれないけど、男らしくはないよね・・・・
はぁ・・・・
うなだれるボクをエリーが励ましてくれる。
「まったくしょうがないわね!いいわ、私が守ってあげる!感謝しなさいよね!」
毎回おなじみツンデレさんいらっしゃ~い。
じゃなくて、本当にお願いします。
あれですよ、夕食にちょっと色をつけさせていただきますよ。
ローストビーフ的な何かを!
そう言ってくれたエリーに「ありがとう」とお礼を言う。
上機嫌になったエリーは、馬に跨ったまま鼻歌を口ずさんでいた。
というか、いつのまに1人で乗馬できるように!?
さすが運動神経抜群の猫さん。
というか、エリーは本当に気まぐれな猫ですね。
種族って性格にまで影響するん・・・・いや、ないな。
だってそれなら、エルフはもっと高潔な感じじゃないと・・・・
師匠とか、グローリエルなんて正反対じゃないですか。
そういえば、グローリエル何してるんだろう?
さっきちょっと話してから、音沙汰無いけど。
最後尾で馬に跨っていたグローリエルに目を向ける。
びっくりするくらい自然に、馬上で船を漕いでいた。
器用ですね・・・乗馬したまま寝るなんて・・・・
うん、しばらくほおっておこう。
自己中心的な人はうるさいし。
うんうんそれがいい。
師匠のセクハラに耐えながら、馬は進んでいく。
ほどなくして、魔境からそれほど距離もない村へと辿り着く。
そこには冒険者ギルドの出張所があり、多くの冒険者がひと財産稼ごうと集まっていた。
厩舎の大きな宿屋を探し、部屋を取る。
馬4頭を師匠に預けて厩舎へ行ってもらった。
その間に、残った4人で冒険者ギルドへ。
ギルドの中は多くの人で賑わっていた。
食堂が併設され、多くの冒険者が酒を組み交わしている。
う~ん・・・・なんかガラが悪い・・・・
目立たないように外套のフードを目深に被る。
冒険者のエリーと剣騎のグローリエルが、奥のギルドカウンターへ行き職員とやり取りをしていた。
そこへ・・・・・
「おう!いい女じゃねぇか・・・」
あきらかにお酒の匂いをさせた、1人のヒュームの男が近づいてきた。
男は、エルミアをまるで舐めまわすように見ると触ろうとしてくる。
エルミアは軽蔑の眼差しを向け、触ろうとした手を叩き落とした。
「ヒュ~、威勢がいいねぇ・・・」
このヒュームの男の仲間だろうか?
近くのテーブルに座る、犬耳族の男が間に入ってくる。
「いやぁ・・・こんな美人はなかなか出会えないからねぇ・・・・なぁ、よかったら一緒に飲まないか?やさしくするぜ?」
犬耳の男はそう言い、エルミアに近づいてくる。
ボクはそんな2人とエルミアの間に入り、立ち塞がる。
すると、ボクの顔をフードから覗き込み驚きの表情を浮かべた。
「おいおい、そっちのエルフも美人だがこっちのじょうちゃんはもっとやべぇぞ!」
ヒュームの男がそう言い、犬耳の男がボクを覗き込む。
「マジだ!ちょうどいいじゃねぇか、2対2だぜ?仲良くしようぜぇ~」
お酒臭い息を撒き散らし、ボクの肩に手を置く犬耳の男。
はっきり言って、ウザイ。
そしてキモイ。
エルミアじゃないけど、八つ裂きにしてやろうか・・・
そんな事を考え実行に移そうとしたとき、師匠がやってきた。
「おい、人の女に何してる」
殺気を込めた目をした師匠が2人の男を見据えると、慌ててギルドを出て行った。
はぁ・・・本当に殺るところだった。
なんで最近こんなにイライラしてるんだろう・・・
絶対ストレスのせいだよね。
いいかげん、どこかで発散しないとやばいかも。
師匠の顔を見上げ、腰に抱き付く。
隣にいるエルミアに手を伸ばし、ギュッと手を繋いだ。
2人は優しくボクの頭を撫でてくれた。
というか、今気付いたんだけど師匠さっき「人の女」とか言ってなかった?
どういうこと?
師匠にとって、エルミアとボクはそういう存在になったってこと?
むむ!
これは今夜、徹底会議ですね!
逃がしませんよ!
バラの匂い袋についても吐いていただきましょうか!
師匠の胸に顔を埋めてそんなことを考えていた。
う~ん良い匂いだ。
そこへ、話し終えたエリーとグローリエルが帰ってくる。
師匠に抱きついているボクを見て「ちょっとカオル!なにしてるのよ!そういうのは私にしなさいよ!」と、なぜか大激怒していた。
いや、昔からボクはよく師匠に抱きついてるんですけど・・・・
だめですかね?
スキンシップは大事だと思うんですけど。
繋いでいたエルミアの手を離し、師匠からエリーに抱き付く。
ボクと10cmも身長が変わらないため、首筋に顔を埋めて抱き締めるとエリーの暖かい温もりを直に感じる。
はぁ・・・エリーも良い匂いがする。
甘い匂い・・・カルアもこんな匂いしていた・・・・
首筋にアマガミしてそっと離れると、猫耳がふにゃっと垂れた。
ボクはクスリと笑って、エルミアに抱き付く。
驚いたエルミアは「キャッ」と可愛い悲鳴をあげた。
不意打ち成功ですね♪
それにしても、エルミアの服は柔らかいなぁ・・・
エリーが防具を着込んでいたから、余計にそう感じるのかも。
満足して離れると、エルミアと目が合う。
ニコっと微笑むと、顔を赤くしてモジモジしていた。
「それじゃぁ、宿屋に行きましょうか♪」
ボクが声をかけると、グローリエルが抱き付く用意をしていたのか、両手を広げて待ち構えていた。
えっと・・・・なんで、家族以外の人に抱きつかなきゃいけないのですかね?
首をかしげて見詰めると、泣き出しそうな悲しい顔をした。
はぁ・・・しょうがないなぁ・・・・
グローリエルに近づいて、ちょこっとだけ抱き締める。
すると「やった!」と言い、骨が折れるんじゃないかと思うくらい力強く抱き返された。
ちょっ!?い、痛いですってば!というか、胸!胸当たってるから!やめて!
ボクの悲鳴を余所に、グローリエルが満足するまで続けられた。
その後は、師匠に介抱してもらいなんとか宿屋へ。
食堂で夕食を食べ、部屋で休む。
明日はいよいよダンジョンへ突入だ。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




