第五十話 剣騎
PV数が昨日だけで3500とか・・・
突破記念のネタが全然間に合いません。
こういうのをありがたい悲鳴と言うのでしょうか。
とにかく、読んでくださり感謝です。
不貞を働いたグローリエルと、大広間で決闘をしたカオル。
なんとか辛勝したものの、なぜかグローリエルから熱い抱擁されてしまう。
そこへアーシェラやヴァルカンがやってきて・・・・
「で、これはいったいどういうことなんだい?」
腕を組んで頬を膨らませ、『私怒ってますよ』というポーズをした師匠がそう言う。
今は大広間から部屋を移し、アーシェラの私室へ移動している。
テーブルを挟んで対峙する7人。
目の前の紅茶のカップが、カタカタと音を立てていた。
「いえ、ですから、リアにお城を案内してもらってあの大広間へ行ったんです」
ボクが説明すると「リア・・・?」エリーとエルミアが冷たい目線でボクを見据える。
おおう・・・こわひ・・・・・
「リアは私の愛称です。私とカオル様の間柄ですもの、何も問題ございません」
なぜか誇らしげなリア。
いや・・・だから何もないですよね?
おかしくないですか?
助けて師匠!
師匠を見詰めるが、依然怒ったままだ。
うわぁん・・・・
「それで?」
エルミアが冷たい視線のままボクを見据える。
うぅ・・・普段、無表情だから怒ると怖いよ・・・・・
「それで、勝手に玉座に腰掛けていたグローリエルに会って・・・・」
グローリエルに目を向けると「それがどうしたの?」という顔でこちらを見ていた。
いやいや・・・・アナタが諸悪の根源でしょうが!?
なに平然と紅茶飲んでるの!?
ボクだって紅茶飲みたいよ!
この紅茶すっごく良い香りだもん、絶対高いヤツだよ!
恨めしそうにグローリエルを見詰める。
ボクの視線に気付きなぜか笑顔を向けてきた。
なんなのこの人!?
ボクが黙っていると、リアが説明し始めた。
「カオル様が剣騎様をご注意なさったんです。その玉座は皇帝の物だ、だからすぐに退く様に・・と」
両手を胸の前で組み、どこか遠い目をしたまま話すリア。
「そう!お母様と私の名誉を守るため、剣騎様と一騎打ちをしたのです。ああ、なんて凛々しいカオル様・・・・私の為に剣騎様と対峙した姿なんて、まるでおとぎ話の王子様のようでしたわ!」
頬を染めて遠い目をしたまま、どこかの世界へ意識を飛ばしたリア。
ボクはそれを見詰め「ああ、この国には本当に普通の人はいないのか」と呆れてしまった。
というか、え?剣騎?グローリエルが?うっそだー。
だって、こんないい加減な人が師匠と同格の剣騎だっていうの?
肌の露出がすごいし、化粧もケバイし、威厳なんてこれっぽっちもないよ?
いや、普段の師匠も威厳はないけどさ。
でもこう、たまにキリッとした姿を見るとドキドキするくらいカッコイイんだよ?
「なるほど・・・私のカオルは、皇帝陛下と皇女のため『だけに!』剣騎とやりあったのか」
ボクの想いなど無視して、師匠は大変ご立腹モードだ。
うぅ・・・そんなに強調しなくても・・・・
「ふむ・・・・大体の話しはわらわも理解したのじゃ。しかし、これはマズイ事になったの」
成り行きを見守っていたアーシェラが話し出す。
そんな中エリーが「マズイ事とはいったいなんでしょうか?」と聞いてきた。
全員の顔を見回し、アーシェラが答える。
「カオルは、剣騎を倒したのじゃ。知る者はこの場にいる7人だけじゃが、もし他の城の者が隠れて見ていたら・・・おそらく大事になるじゃろう」
深刻そうにそう語る。
う~ん・・・確かに倒したけど、たぶんグローリエルは本気じゃなかったと思うんだけど・・・・
だって、一歩も動かなかったし。
ボクの攻撃を待ってた節があるんだよね。
そこのところを聞いてみよう。
「グローリエル・・・様」
うわぁ、なんか様付けしたくない・・・・出会いがアレだったし。
ボクの考えを汲み取ったのか、グローリエルが「様付けなんていらないよ」と楽しそうに答えた。
まぁ、そういう性格なんだろうね。
あらためて「グローリエル、本気で戦っていなかったでしょ?」と聞いてみる。
言葉を聞いたグローリエルが、口元を上にあげニヤリと笑う。
「なんでそう思うんだい?」
楽しそうにそう聞き返す。
ボクはグローリエルの目をジッと見詰めて話し出す。
「決闘開始直後に、ボクの出方を伺ってましたね。魔術師なら、さっさと詠唱を始めるはずです。それに・・・・あなたは一歩も動きませんでした。ボクの力を試していたのでは?」
そう語るボクの話を聞いて笑い出した。
「はははは!ホントにカオルは強いねぇ。ちゃんと分析してたってわけかい。」
楽しそうに一頻り笑い、真面目な顔をする。
ドキッとするような真剣な表情。
「その通りだよ。なにせ、あの剣聖ヴァルカンの弟子だっていうんだからね。試したくなるじゃないのさ。」
ボクから視線を移し、師匠を見やる。
師匠はすっごく嫌そうな顔をした。
ん?師匠と知り合いなのかな?
そういえば、師匠はずっと視線を合わせないようにしていたような・・・
「ホントにイヤなヤツだな。カオル、こいつは私が以前エルヴィント帝国へやってきた時にも決闘をしたんだよ」
師匠がボクに目を向けてそう話す。
なるほど・・・師匠が以前、皇帝の前で決闘したのはこの人の事だったのか。
「まぁ、そん時は結局決着はつかなかったんだがね」
師匠はこれ以上この話しをしたくないのか、目線を反らした。
ふむ・・・師匠がこんなに人を嫌うなんて初めてだ。
よっぽどなんだろうね。
そこで少し考える。
これ、うまく利用すれば大事にならないで済むんじゃないかな・・・
よし!
ボクは話しをうまく持って行くように仕向ける。
「そうだったのですか。ではここは、旧友のグローリエルが師匠の弟子であるボクに稽古をつけた事にするのはどうでしょうか?幸い、ボクは師匠の弟子という立場以外に変な肩書きなどはございません。グローリエルが旧友の頼みをきいた、という事にすればなにも問題は無いかと思いますが。」
と話しをまとめた。
アーシェラが乗ってきたら・・・・イケル!
しばしの沈黙の後、アーシェラが話し出す。
「うむ・・・それでよかろう。ならば、さっそくそのように手配せねば。旧友の願いを受け入れたとなれば、グローリエルの株もあがろう」
やったね♪
まぁきっと、ボクの考えなどアーシェラはとっくに気付いていると思うけどね。
師匠が、女狐と呼ぶくらいの策士だし。
「ところでカオル。どんな戦闘だったんだ?」
師匠に聞かれ、詳細に話した。
師匠は話しを聞いて「ふむ・・・・本気を出しても、やはりカオルの勝ちだな」と呟いた。
え?
どう考えても、ボクのはたまたまじゃないですかね?
手加減してくれてたみたいだし。
そこへグローリエルが割り込む。
「どういうことだ!?本気でやれば、あたいが負けるっていうのかい!?」
鼻息荒く、師匠に突っ掛かる。
師匠はニヤリと笑って「お前は知らないのだろうが、カオルは魔術師じゃないぞ?」と答える。
ああ、そういうことか・・・
納得したボクとは裏腹に、グローリエルが憤慨する。
「なに言ってんだい!?あれだけの魔法が使えるのに、魔術師じゃないってどういうことだい!」
いや、ボクも名乗ってませんものね。
「あの・・・・」
説明しようとしたボクの言葉をさえぎり、師匠が話す。
「カオルはな、私と同じ『魔法剣士』だぞ?」
満面の笑みを浮かべた師匠がそう言うと「な・・・ええ!?」と、驚いたグローリエルがボクを見やる。
いや「帯剣できませんが」ってちゃんと言ったじゃないですか・・・
なんですかこの猪突猛進を地で行く人は。
自分の良いようにしか、話を解釈できないんですか?
イノシシさんですか?
はぁ・・・この国は本当に・・・・・・
うなだれるボクを余所に話しは続く。
「まぁ!カオル様は剣士様でしたのね!」
なぜかリアが大はしゃぎをしていた。
いや・・・・剣士じゃなくて魔法剣士だよ?
いつか師匠のように、長身で!かっこよくなる予定ですよ?
それはもう180cmくらいにね!
にゅふふ・・・
そんな事を考えていたら、いつのまにかリアに右手を握られていた。
「カオル様・・・・」
頬を赤くし、キラキラとした目を向けてくる。
えっと・・・
後ろのエリー達が、すっごい怖いんですが・・・特にエルミアが・・・・・
というか、今気付いたんだけど・・・
「なんで、エリーとエルミアは帯剣してるの・・・・?」
そうなのだ。
師匠は騎士だからいいみたいだけど、2人は違うのだ。
なんで!?
そこへ師匠が答える。
「2人は私のお付きだからな。帯剣していない方が不自然だろう?」
まぁ・・・たしかに・・・・・
じゃぁボクもいいんじゃない?
「師匠、ボクは・・・?」
聞いてみると「カオルは私のお付きじゃないからダメだな」とバッサリ切られた。
おおう・・・なんですか?
あれですか?
怒ってるからですか?
膝枕で許していただけませんでしょうか?
まぁ、別に帯剣したいわけじゃないけど。
どうせ魔物とか出ないし。
というか、お城で出たら大変な事になるし。
ブツブツと言うボクにアーシェラが「なんじゃ、帯剣くらいいくらでも許可するぞ?」とアッケラカンと言い放った。
いや、だから別に帯剣しなくてもいいんですよ。
そこへリアが、キラキラした目のまま「ぜひ見たいです!カオル様の帯剣姿!!!」と力説していた。
いや、別にたいしたものじゃないでしょ?
剣下げただけですよ?
このお城にも騎士がいっぱいいるでしょ?
「ぜひぜひ!」とせがまれ、アイテム箱からファルシオンとバゼラードを取り出し帯剣する。
うん、なんとなくこの防具着ている時は腰に下がってないと落ち着かない感はあるかも。
剣の具合を見ていると「わぁ・・・・・王子様」と、リアが嬉しそうに見詰めてくる。
いや、さっきも言いましたがボクは王子様じゃないですよ?
家事と料理と掃除が好きで、剣と魔法が使えて、鍛冶が得意な・・・・なんなのだろうか?
前者がメイド?
後者が合わせて魔法剣士?
合体すると・・・・メイド魔法剣士?
なにその三流アクション物のキャラクターみたいなの・・・・
しみじみ考えると、師匠に言われるまま色々やってきたボクって何者なのだろうか・・・
う~ん・・・・
まぁいいか!
どうせわかんないもんね!
「それにしても、ヴァルカンあんたすごいわね。弟子になんてもの装備させてるのよ」
ボクの装備を見たグローリエルが話す。
いや、ボクから見たらグローリエこそなんて格好してるんですか?
胸が半分見えてますよ?
おへそはしまわないと風邪ひきますよ?
師匠が誇らしげに語る。
「そうだろう。だがな、カオルにはこの剣しか渡してないぞ?後は自分で調達したのだ。まぁ私のカオルだからな。これくらい装備も充実していないとな!ハッハッハ!」
なんで師匠が勝ち誇った顔をしているんだろうか・・・
まぁいいけど。
そこへエリーが割って入る。
「そういえばそうね。全身ミスリルなんて、歩く白銀貨よね。」
と、エリー。
ん?白銀貨の価値があるってこと?
おお、さすがミスリルやっぱり相当高価なのですね。
ボクもなんだか誇らしくなる。
「ええ確かにそうですね。ざっと・・・・・白銀貨30枚ほどでしょうか?」
そうリアが話す。
え?
白銀貨30枚?
1銅貨でパン1個だから、パン3千万個!?
そんなに食べられないよ!?
すごい・・・そんなに価値があったのか・・・・
万が一の時には売れば・・・・いや売らないけど。
ほぇえ・・・・
全然しらなかったよ。
防具も、自分で作った気がしないし・・・・
たぶん精霊さんが作ってくれたんだろうけど・・・
精霊さんかぁ・・・また出てこないかな。
風竜にも会いたいし。
一緒にごはん食べるんだ♪
どれくらい食べるんだろう・・・・
いつ出てきてもいいように、ごはんの仕度しておいたほうがいいよね・・・・
今度、何か仕込んでおかなきゃ。
ボクが現実逃避している間、みんなはそれぞれ話しをしていた。
まぁボクも疲れていたんだけどね。
夜になり、アーシェラに誘われ夕食をご馳走になる。
今日も、すばらしく色とりどりの料理が並んだ。
で、「なんでグローリエルさんがいるんですか?」テーブルの一画に我が物顔で座る人物に目を向ける。
当然のように夕食を口に運んでいたグローリエルが「あたいがいちゃいけないのかい!?これでもこの国の剣騎なんだぞ!」と言い返してきた。
ああ、そうでした。
すっかり剣騎だってこと忘れていました。
「すみません、剣騎だったのですね。ただの露出狂かと思ってました。」
と、素直な感想を口にする。
真っ赤になって「これはファッションだ!カワカッコイイだろう!?」とむきになって答えた。
いや、カワカッコイイってなんですか・・・・
セクシーならわかりますけど、カワイクもカッコよくもないですよ?
美的センスおかしいんじゃないですか?
アーシェラに助けを求める。
「ふむ・・・そうじゃな。たしかにカワカッコイイとわらわも思う」
たすけてくれなーーい!
なに?
この国はこれがカワイイとか言っちゃうの!?
いやまてまて、リアがいる。
リアに目を向けて聞いてみる。
「私は、羨ましいと思います」
自分の胸と見比べてそう言う。
いや、そういうことを聞いているんじゃなくてね?
だめだ・・・ここは1番のおしゃれさん、エルミアに聞いてみよう。
エルミアを見詰めると「どうでもいいです」と冷ややかな顔をしていた。
おおう・・・・平常運転ですね。
もういいです。
この話題はこれ以上無理です。
ボクが悪ぅございました。
それ以上話す事は無かった。
アーシェラの私室を辞して、迎賓館へ帰る。
ああ、本当に今日は疲れた。
お風呂に入って、さっさと寝てしまおう。
ボクの思惑とは正反対に、お風呂から出ると3人が待っていた。
えっと・・・疲れているんで寝たいんですが・・・・・
頬を膨らませた3人に問い詰められ、なんとかなだめて眠りについたのは空に朝日が昇る頃だった。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




