第四十七話 膝枕と策士
あれから大変だった。
魔術学院へ顔を出して欲しいと頼まれ、行ってみたらなぜか講師にさせられた。
もちろん、独学のボクが教える事はできないので生徒に交じって講義を聞いた。
最初は楽しかった。
特に、魔工技術は今まで触れていなかっただけにためになった。
問題はその後、昼食後に実施された実技の実習だ。
そこで火災事故がおきて、事もあろうにフロリアという少女が火に水をかけて爆発させてしまったのだ。
まぁそこまではいい。
事故の対処を誤っただけだし。
問題は・・・・ボクが助けたフロリアという少女が、皇帝アーシュラ・ル・ネージュの息女フロリア・ル・ネージュだったということだ。
全然まったく気付きませんでしたとも。
爆発音を聞きつけた騎士達がやってきて場を収めてくれたんだけど、結局そのまま授業は解散となった。
疲れ果てたボクをエルミアが連れて帰ってくれた。
はぁ・・・普通の賢くて可愛い子だと思ったんだけどなぁ・・・・
これは、絶対もうひと波乱ありそうだよね?
だって、アーシェラの娘だよ?
突然決闘させるような親だもの、絶対なんかしてくるよ。
師匠とエリーが帰ってきたら相談してみよう。
とりあえず、ボクの荒んだ心はエルミアに膝枕でもして慰めて貰おう。
「ねぇエルミア。お願いがあるんだけど」
ボクがそう話しかけると、読んでいた本から顔を上げてこちらに目を向ける。
「なんでしょうか?カオル様」
ボクの目を見詰めて微笑むエルミア。
「あのね、ベットに横になってくれる?」
そう言うと、エルミアはみるみる顔を真っ赤にする。
あれ?聞き方おかしかった・・・?
やがて意を決したように、バッと立ち上がりベットへ横になる。
ボクはゆっくり近づいて、エルミアの頭を膝の上に乗せる。
そっと頭を撫でると、細く綺麗な髪にやさしく触れる。
ああ、落ち着く・・・・
膝枕されるより、するほうが好きなんだよね。
ギュッと目を閉じていたエルミアが、ゆっくりと目を開けた。
「あの・・・カオル様?これは・・・」
拍子抜けしたのか、驚いた表情をした。
「膝枕だよ。ボク好きなんだ。」
微笑みながらそう言うと、残念そうな顔をしたエルミアが「そうですか・・・」とつぶやいた。
う~ん・・・なんか変な事言ったのかな?
そのままゆっくりと時間が過ぎる。
ああ・・・のんびりした素敵な時間だ・・・・
このまま時が止まればいいのに・・・・
そこへ「ガチャッ」と、扉を開ける音がした。
師匠とエリーが戻ってきたようだ。
「おかえりなさい」
と迎えると、ボクとエルミアを見て慌てふためく2人。
「な、な、な、なにをやってるんだ!?」
「か、カオル!?ちょっとエルミア、私のカオルとなにしてるのよ!」
ああ、2人もしてほしいのですね。
「順番ですよ。次はエリーの番ね?」
ボクがそう言うと、納得したようだ。
うん、チョロイね。
そもそも、ボクは膝枕したい側なのでむしろご褒美ですよ!
にゅふふ・・・
そんな事を考えながら、今日あった出来事をお互いに話した。
師匠曰く「なかなか見どころのあるヤツラだ」とのこと。
ほほー、褒めてますね。
変態集団なのに。
「ええ、なかなかのものね。でも聞いてよ。みんなカオルの事聞いてくるのよ?私みたいな純粋可憐な乙女に向かって、失礼じゃない?そりゃぁ、カオルは同性の私から見ても可愛いけどさ」
えっと・・・エリーが乙女なのは認めましょう。
それじゃなくて、同性?
あれ・・・?
ボクが男だって知ってるのって、師匠とカルアだけじゃない?
ああ、これは間違いなく師匠の仕業だ。
師匠をジッと見詰める。
満足そうな顔をしている師匠。
はぁ・・・・いい加減エリーとエルミアには話したいところですよ。
そして話しは皇女フロリアの話しへ。
「カオルは、また少女をたぶらかしたのか・・・」
「メルが言ってたわ。魔性の女って・・・」
せめて、2人には同情してほしかったですよ・・・
ボクの味方はエルミアだけですね。
寝息立てて、ボクの膝枕で寝てますけど。
そっと膝を抜き、枕とすりかえる。
エルミアの隣へエリーを呼び、膝枕をする。
「あら、これいいわね。」
エリーも気に入ってくれたようだ。
頭を撫でると目を細め、猫耳をピクピクと動かす。
なんか可愛いな。
「それにしても、これから大変だな」
師匠がボクを見詰めてそう言う。
「ですよね・・・アーシェラ様のご息女ですもんね」
ボクがそう言うと、師匠はうなづく。
「なるようにしかならないんじゃない?いくらなんでも、いきなり押しかけて来ないでしょ」
エリーがそう言った時、扉をノックする音が聞こえる。
3人で「まさかね・・・」と話していると、扉を開いて・・・・・
アーシェラが入ってきた。
「ふぅ」と一息付く3人。
アーシェラはボクを見ると「おや、楽しそうじゃの・・・わらわもぜひ頼む」と、エリーを押しのけてボクの膝に頭を乗せた。
えっと・・・・
順番をとられたエリーが、ものすごく怒っていた。
そりゃそうだ。
いきなりやってきて我が物顔じゃね・・・・
師匠がなんとかエリーをなだめる。
アーシェラは意にも返さず話し始める。
「カオルよ、リアがとても喜んでおったぞ。感謝する。」
リアってだれ?
「あの・・・リアってどなたですか?」
ボクの膝の上に頭を乗せたアーシェラが「わらわの娘じゃ。今日会ったのじゃろう?」と答える。
ああ、フロリアで愛称リアなのね。
「フロリア様の事でしたか。確かにお会いしました。お会いした時はアーシェラ様のご息女とはわからず、失礼な事を言ってしまったかもしれません。」
なるべく丁寧にそう返す。
「よいよい」と答えてくれた。
黄色い髪をそっと撫でると、絡むことなくサラサラと流れる。
毎日梳かしているのだろう。
さすがは皇帝陛下だ・・・・あれ?
ボク今皇帝陛下に膝枕してる?
おお、なんと恐れ多い・・・・・
まぁいいか。
気にしたら負けだ。
ウットリと目を細め、ボクの膝の上でくつろぐアーシェラ。
師匠の目が段々と鋭くなってきているような・・・・
師匠の顔を見詰め目が合う。
「あ・と・で」と声を出さず口だけで会話し微笑むと、ニヘラと顔を崩して笑顔になった。
本当に可愛い人だ。
「それで、アーシェラ様は何か御用があっていらっしゃったのでは?」
ボクが話しかけると眠たそうに「いやなに、リアがカオルとデートがしたいと言うのでな。明日付き合ってやってくれぬか?」と話した。
え・・・・っと・・・・
師匠とエリーの顔が、みるみるうちに鬼の形相に・・・・
これは、とんでもない爆弾を持って来たぞ・・・
どうする!?
というか断れ無いよね!?
皇帝陛下から直々にお願いされて、断れるはずないよね!?
うわぁ!
と、とりあえず逃げ道を探そう!
「し、師匠。明日のご予定は・・・?」
ボクは師匠に助けを求めた。
「・・・・・カオルの護衛だ。」
とてもキツい目でボクを見る。
なんでボクがこんな目に!?
「え、エリーは!?」
隣にいるエリーに助けを求めるも「決まってるでしょ。カオルは私の物なんだから、どこに行くのも一緒よ!」といつも通りでした。
いや、ボク物じゃないよ?
今はそんな事どうでもいいか。
はぁ・・・・
「わかりました。フロリア様とご一緒します・・・・」
うな垂れながらそう言った。
いや、そう言うしかなかった・・・
というかさ、アーシェラはわかってて言ってきてるよね?
ああ・・・ハゲのアゥストリより策士だ。
この国って、変態と策士しかいないんじゃないの?
ボクの言葉を聞いたアーシェラは、満足そうに帰って行った。
はぁ・・・・
とりあえず、師匠とエリーをベットに誘い2人に膝枕をした。
エルミアはずっと寝ている。
よく寝る子だ・・・・
ある意味図太いんじゃないかな。
ちょっと羨ましいよ・・・・
明日が来なければいいな・・・・なんて思ってしまった。
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