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第三十八話 レクイエム

風竜と別れ、教会の一室へと戻るとその日は解散することになった。


ヴァルカンは頑なにカオルと共に寝ると言い張ったが、カルアとエリーによりそれは阻止された。


司教のニコルにお願いし、人数分の部屋を教会が用意してくれた。


夜中に何度かカオルの部屋へ忍び込もうとしたヴァルカンと、それを阻止したカルアとエリーの声が聞こえた。


そして朝、宿屋の主人が新たに構えた食堂へと来ていた。


「ほえ~。繁盛してますね・・・」


主人が開いた食堂は大賑わいで、入り口に入りきらないほど長蛇の列を作っていた。


「ああ、すごいな・・・」


師匠も驚き目を丸くしていた。


そんな長蛇の列に並んでいたボク達だが、お店の様子を見に通りかかった宿屋のご主人に見つかり今は食堂の個室に案内されたところだ。


「なんかもう食堂じゃないな・・・」


個室に入った師匠が言う。


たしかに、なんというかホールは食堂のそれなのだが奥まった場所にある個室は高級感がすごかった。


会合でも開くのですかね?


う~ん・・・・宿屋の主人は謎な人だ・・・・


今この場にいるのは、ボクと師匠、それに王女のエルミアだけだ。


カルアは治癒術士の仕事があるし、エリーは冒険者ギルドから呼び出しをされた。


エルミアは、なんだか少しボーっとしたところがあるが、立ち居振る舞いは悠然(ゆうぜん)とし気品に溢れていた。


う~ん・・・・これまた師匠とは全然違う感じだ。


同じエルフなのに・・・・


でも、師匠の方が断然カッコイイや。


ほどなくして料理が運ばれてくる。


おお!


ボクがレジーナに教えた料理の数々は、アレンジされさらにおいしそうになっていた。


フリカッセ、ムニエル、ラタテューユ、お!こっちはマルゲリータじゃないですか!


ピッツァですよピッツァ!


ということは・・・・フレッシュチーズのモッツァレラがあるということか!?


これはぜひ手に入れないと!


トマトとバジルと合わせてオリーブオイルをかければカプレーゼに・・・


にゅふふ・・・・


料理の幅が広がりますね!


ボクが料理を見てキャッキャしてたのを見ていたのか、師匠が暖かい目で見詰めていた。


「あ・・・すみません。」


慌てて頭を下げる。


「いいんだよ、カオルが料理好きなのはわかっているからね」


師匠は優しく微笑んでくれた。


「そ、それはいただきましょうか」


ボクが提案し、食事を開始した。


師匠がおいしそうに食べ始めたので少し観察してみた。


普段美味しい物を食べ始めると、足をパタパタさせるのだ。


ジーーーーー


足を見詰める。


あれ?パタパタしないぞ?


師匠の顔を見る。


うん、美味しい物を食べている時の顔だ。


もしや・・・成長しているというのか!?


く・・・ボクの知らないところでいつのまに・・・・・


男子(だんし)三日(みっか)会わざれば刮目(かつもく)して見よ」と言うくらいだ。


いつの間にか師匠も大人になったのですね・・・元々大人だけども。


エルミアはというと、小さく、それはもう小さく口を開いてモグモグと食べていた。


マナーですね・・・・でも、師匠と対照的過ぎてなんとも・・・・・


もっと普通に食べればいいのに・・・・


足して2で割ると丁度いい感じ?


まぁいいや、ボクもたーべよっと!


それから3人で、取り留めのない話をして楽しい食事だった。


食後。


「エルミア様、『エルフの里』はすぐにお伺いした方がよろしいのでしょうか?」


紅茶を飲みながら、ボクは昨日話していた『エルフの里』について聞いてみる。


「カオル様、私のことはエルミアとお呼びください。『エルフの里』へはいつでも行けます。母からは『せっかくの機会です。閉鎖的なエルフの里の為に、王女の貴女が見聞(けんぶん)を広めて来なさい。』と言われていますので、急ぐ必要はございません。」


ふむふむ・・・・じゃぁしばらくは一緒ってこと?


師匠を見詰める。


少し嫌そうな顔をしていたが、まぁ許容範囲なのかな?


「それじゃぁ、ボクのことはカオルって呼んでください。しばらく一緒ですね♪エルミア」


ボクは、にこやかに微笑みエルミアを見詰める。


エルミアの目が見開き、顔を真っ赤にしてしまった。


うん・・・・・ツンデレ臭がする・・・・・・・ボクの周り多くない?


まぁいいか。


「師匠、このあとは何か予定があるのですか?」


師匠の顔を見て聞く。


「ああ、騎士団に顔を出して、あとは・・・・・戦死者達に会いに・・・・な」


師匠は少しうつむき加減でそう話す。


戦死者・・・・そうか、あの戦いで少なからず犠牲者が・・・・・


ボクにもっと力があれば・・・・・


ボク一人じゃ、どうしようもないのはわかってるつもりだけど。


でも、もう少し被害を抑えられたかもしれない。


もっと強くならなきゃ。


心も、もっと強く・・・・


それからエルミアさんを連れて騎士団詰め所へ。


「お待ちしておりました」


詰め所へ行くと、白い騎士服を着たレンバルトが迎えてくれた。


傍には数人のチェインメイル姿の騎士もいる。


「このたびは・・・・」


師匠が神妙な顔をして話し始めると


「おやめください。我々騎士一同、当然の事をしたまでです。亡くなった者達も、騎士の本懐(ほんかい)を遂げてさぞ誇らしい事でしょう」


レンバルトが言葉をさえぎる。


「・・・・そう・・・ですね」


師匠はそう言い、話を終えた。


レンバルトはボクの前へやってきて


「カオルさんが無事に目覚めてよかった。貴女には多大なる感謝を・・・・そして、ありがとう。おかげでこの街は救われました。」


と、頭を下げた。


ボクは、ダメだった。


亡くなった方がいることに耐えられなかった。


涙が頬を(つた)(こぼ)れ落ちる。


師匠が胸へそっと引き寄せ「よくがんばったね」と抱き締めながら褒めてくれた。


嗚咽(おえつ)のように(むせ)び泣き、しばらくそのまま抱き締められていた。


ボクが泣き止むと、レンバルトに案内され街の北側にある死者が眠る墓地へと案内された。


墓地の周りには、高い壁が敷かれ(おごそ)かな雰囲気が漂っていた。


お墓の周りには、遺族だろうか?涙を流し死者を称える姿が垣間見られた。


「あれから1週間ほどたちましたが、ああして今でも死者から離れようとしません。」


レンバルトは遺族を見やりそうつぶやく。


凄惨(せいさん)な戦いだったからな・・・・」


師匠がそう答えると、今まで黙っていたエルミアが話し出す。


「とても痛ましい戦いだったのですね。これほど悲しみが濃いということは・・・」


瞳に涙を(にじ)ませて語る姿は、とても美しかった。


不意に、カオルの周りを精霊が飛び回る。


「精霊だ・・・」


ボクがそうつぶやくと、師匠とエルミアがそれを目で追う。


レンバルトには見えていないようで「ど、どこでしょう?」と、慌てていた。


次第に精霊の数が増え、見たこともないほどの数になったときそれは起きた。


ボクの手を、精霊達が掴み、そして導くように先導する。


ボクは、どこか意識が浮いているように感じながらも精霊に導かれるまま歩き出す。


やがて遺族の前へ辿り着き歩みが止まる。


遺族たちは突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚いていたが、カオルの顔を見るとホッと胸を撫で下ろす。


どうやら、カオルの事を知っていたようだ。


安心した顔をした遺族の前で、精霊達が歌い出す。


知らない歌だ。


知らない歌なのに・・・・ボクも歌っている。


どうして?


わからない・・・・


でも、凄く悲しい・・・・


気付けば涙が流れていた。


なんで・・・?


なにが起きているの?


精霊達はなおも歌い続ける。


ボクも歌う。


知らない歌なのに・・・・まるで、その場にある悲しみを全て吸い込むように・・・・・・


しばらくすると光が集まる。


白い光は人の形になり、その場に現れた。


見た事がある人。


そうか・・・・騎士団の人だ・・・・


亡くなってしまったんだね・・・


ありがとう・・・おかげで・・・・


この街の人は無事だったよ・・・・・・


ありがとう・・・・


止まらない涙を流し続け歌う。


遺族は、突然現れた光の中に家族を見つけたのだろう。


ひときわ大きく声をあげて泣いていた。


やがて精霊達は消えていった。


光の人影も消え、最後には笑顔を浮かべていた。


よかった・・・笑って見送れたんだね・・・・


力が抜け、倒れそうになる。


後ろから師匠に抱き留められ、なんとか倒れずに済んだ。


遺族達から「ありがとう!ありがとう!」と握手をされ、みんなは泣きながら抱き締めあっていた。


師匠の顔を見上げる。


驚いた顔をしていたが、ボクの顔を見詰めると満足そうに微笑んでくれた。








ボクは歩く事が出来なくなり、師匠に抱えられて詰め所に戻る。


お姫様抱っこは恥ずかしかったけど、師匠にされて嬉しかった。


詰め所へ着き、そっと椅子に座らせてもらう。


なんだか少し疲れてしまった。


レンバルトは難しい顔をしていたが、やがて


「先ほどのはいったい・・・」


と話し出した。


ボクもわけがわからず黙っていると


「あれは精霊のレクイエム・・・・」


ボソリとエルミアが話し出す。


師匠もしらなかったようで「レクイエム?」と聞いていた。


エルミアが静かに話し出す。


「レクイエム。死者を送る精霊の歌・・・・」


エルミアはそこまで言ってボクの顔を見詰める。


しばらく見詰めあっていると「カオル様は、やはり特別な存在なのですね」と言われた。


特別?


ボクなにかしたっけ?


風竜と関係があるのかな?


そんなことを考えていた。


「カオルは特別だぞ。私の嫁だからな」


突然師匠がそんなことを言い出す。


3人が唖然とし、軽蔑の眼差しで師匠を見やる。


まぁ師匠はこういう人だから、ボクはもう慣れましたけどね!


「ごほん!」


とレンバルトが咳をして


「とにかく、ありがとうございます。カオルさん。理由はわかりませんが、遺族達も安心したことでしょう」


そう言って話を終わらせた。


うん、結局なんだかわからなかったね!


お茶をご馳走になり、たわいもない会話をして談笑した。


話してみると、レンバルトは歳のわりに苦労人で面白い話題を豊富に披露してくれた。


特に子供の頃、カエルを捕まえに行って猪に襲われた話は面白くみんなで大笑いをした。


結局、倒した猪のお腹からカエルが大量に出てきたという・・・・・笑っちゃうよね?


時間も遅くなり、レンバルトに別れを告げて宿屋へと向かう。


エルミアの部屋も用意しなきゃですね?


宿屋へ着くと主人が「ああ、そんなことだろうと思ってもう用意してあるぞ!がはは」といつのもように笑いながら案内してくれた。


この人、本当に何者なのだろうか。


案内された部屋は、シングルのベットが5つ並んだ大部屋だった。


えっと・・・どういうこと?


宿屋の主人は「ああ、宿代は約束通りいらないから、またなにかレジーナに料理教えてくれ!」とがはは笑いをして去って行った。


いやいや、なんでベット5個なのか教えてくださいよ!


師匠は案内された部屋を見て、なぜか残念そうだった。


なんですか?どんだけダブルベットが好きなんですか?


まさか買って帰る気ですか?


本当に『残念美人』さんはよくわからない。


「エルミア、相部屋だけど大丈夫?」


と、気を利かせて聞いてみると


「むしろ光栄です!」


と言い切られた。


えっと・・・意味がわからないんですが?


興奮気味に鼻息を荒くしたエルミアを見て、ああ・・・・・ボクの周りには普通の人はいないんだなって思った。


5人部屋・・・だれとだれ?

ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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