第二十四話 屋台最終日
2016.9.8に、加筆・修正いたしました。
食堂では言葉通り『宴会』が開催されていた。
見渡してみれば違和感無く混ざる師匠の姿が。物凄い勢いで豪快にお酒を呷ってる。
アレはノンアルコールだろうか? それとも普通のお酒だろうか?
状況の如何でボクは師匠を怒らなければいけない。
散々ボクは注意してきた。
『飲み過ぎは身体に悪いから止めて下さい』って。
なのになんだろうね? あの陽気な感じで酒瓶抱えて近付いて来る残念美人は。
師匠.....なぜ.....むぅ....
「カオルゥ! おっかえりー!」
お酒臭い呑んだくれ。ハグを求められました。チョップで撃退です。
常に元剣聖らしくカッコイイ姿をしてくれていればいいのに....もう! お酒のせいだ!
カルアさんに手伝いを頼み、師匠はテーブルへ突っ伏しておいた。
「すみません、何の宴会なんですか?」
隣で傍観してた店主さん。師匠が"伸されたフリ"をしていて『ガハハ』と笑い、ボクの質問に答えてくれた。
「ああ!! おかげさまでお嬢ちゃんの料理が大人気でな!! 何かと最近忙しかったから働いてる皆の息抜きだ!! 今日は仕込みなんかもあったからな!!」
なるほど~....祝宴しつつ慰労会なんですね~....
レジーナはいつの間に料理の山へ突貫を!?
お腹減ったよね? ボクもお昼ごはん抜きだったし。
カルアさんと2人で料理を楽しむ。
復活――最初からボクが倒せる相手ではないよ――した師匠がお酒を浴びるほど飲み始める。
『身体壊さない程度にしてくださいね?』と小言を忘れてはいけない。
油断すると師匠は『お酒が主食』と言い始める。そうなってしまえば、ながーいボクとの対話が必要に。
大変なんだよ? 『肉を焼いて食べる。口内の油をお酒でキレイに流し洗う』
そんなバカげた事を真顔で宣うのがボクの師匠。
如何に食事による栄養摂取が大事か何度もボクは忠告してやっとわかってくれた。と、思う。
口にするお酒もノンアルコールにさせたし、野菜も多く摂取させてる。
問題はボクの目の届かない所で実践してくれているかどうか。
大丈夫だと信じているけど....お酒臭いのは何故? ソレはノンアルコールなんですよね? 万が一違うと言うなら....実力行使も視野に入れますよ?
他でもない師匠が鍛えたボクの力を全て使って。勝てないとわかっていてもボクは師匠の身体が心配です。
だから近くのドワーフさんとカチャンってグラスを打ち合わせるのを止めて下さい。
一気飲みなんてもっての外です!
「おう! 嬢ちゃんがあの料理を考えた御仁か?」
師匠と乾杯をしていたドワーフのおじさん。
握手を求められてすぐに気付く。この人は料理人だ。
その利き手にできた包丁タコは何年も料理に携わってきた証。
特殊な身体のボクと違い、おじさんは確かな実力を身体に刻んで生きてこられた。
それならボクも敬意を表そう。
だってこの美味しい料理を作ってくれたのはこの人だから。
「すっごく美味しいです! ありがとうございます!」
壁に掛けていた大きな前掛けで手を拭い握手したボク達。
なんでもここの料理長で屋台の仕込みも手伝ってくれたそうで。
改めて感謝を述べたら――
「いやいや! 嬢ちゃんの料理は美味いな! どうだ? うちで働かないか?」
低く良く通る声で勧誘を受けた。
う~ん...料理を考えたのって先人の方々でボクは一切アレンジしていない。師匠好みの味付けにしてあるけど....
「申し訳ありません。ボクは、屋台はともかく家族の為に料理を作りたいのです」
「そうかそうか! 食べてくれる家族が一番だな! いやぁすまん。今日はいっぱい食べていってくれ!」
宿屋の店主さんに良く似た『ガハハ』笑いをしながらテーブルを去って行った。
なんだか此処の人って面白い。
気の良い人って言うのかな? 裏表無く本音で話してぶつかって笑い合ってる。
職場の同僚とかもっと殺伐としててお互いを蹴落とそうと悪辣な事を考える人も居るはずなのに。
店主さんの人柄ゆえなのかなぁ? 確かに店主さんは大らかで恰幅の良い人だ。
商人として才能もあるはず。なにせこんな大きな街の大通りに宿屋を構えているんだもん。
屋台の仕込みの手際といい....只者じゃないね?
「うふふ♪ それじゃぁ――私も家族ね♪ カオルちゃんの料理を食べたもの♪」
上品でいて優雅に食事を始めたカルアさん。
また....ボクを『家族』と呼んでくれる人が....
嬉しくて涙が零れた。
昨日見た怪我を負った子供と泣きじゃくるお母さん。
もしもボクの治療が遅ければ? あの子は亡くなっていたかもしれない。
仮に遅くなったとしても助かった可能性は十分ある。
でも....ボクの予想だと数分の遅れで脳障害を起こしていたと思う。
手足の痺れに半身不随。脳が受けたダメージは、そのまま身体の至る所へ――
「あらあら!? 大丈夫!? カオルちゃん?」
巡る思考に囚われて、周囲の状況が変化した事を気付けないでいた。
静まり返る食堂。隣に座る師匠がボクの頭を撫で、カルアさんはハンカチを取り出し涙を拭ってくれる。
お父様とお母様は居なくなってしまったけれど、ボクは今こんなに優しい人達に出会えた。
泣いただけで心配し、安心できるように接してくれる。
何時かの両親と同じ様にボクへ無償の優しさを与える存在。
「何でも無いんです。美味しい料理ですね? ありがとうございます」
努めて笑顔を作り笑ってみせる。
祝宴に水を注したのはボクだ。『ごめんなさい』と心で呟き料理を口に。
三度『美味しい』と発言して涙は止まった。
「おう! 美味ぇだろ!? ガハハ!! 遠慮なんてしねぇで食え食え!!」
「「「オー!!」」」
店主さんの粋な計らいでデザートまで出て来て大騒ぎ。
プリンはとっても美味しかった。でも足りない物が2つある。
カラメルと生クリームだ!
早速料理長へ直談判と言う名の懇願をして、厨房の一角を占拠。
屋台のクレープ用に仕入れていた生クリームをホイップ!! 食堂へ戻りプリンの上に砂糖を塗してブランデーを注ぎ《種火》で着火。
器の上で燃えるプリンから特有の甘い香りが食堂内を漂う。
演出としても効果は抜群。従業員さんが『エッ!?』って固まってた。
そうして表面のみが爛れた"焼きプリン"が完成し、ホイップを添えて完成!!
「ほ~う? そんな仕掛けが....」
「この匂いはヤバイな」
「"踊る火"か。これは商品に成るな」
「此処で売るのはお勧めしません。大勢の人でごった返すこの食堂では、何時火事が起きるかわかりませんから」
「「うぅむ....」」
店主さんも料理長も『火事』の一言で押し黙る。
宿屋の食堂から出火なんて起きれば目もあてられない。
"信用第一"が商人のモットウなんですよ?
だから、コレは今日だけの特別。
「口にした瞬間に香ばしさが鼻へ抜け、ホイップと相まったプリンの甘さがなんとも....」
「ハグハグ!!」
「レジーナ1人だけで食べ過ぎ!」
「私にも寄越しなさい!」
「「「「これは、美味い!!」」」」
焼きプリンは大好評であっという間に完食。
作った身として喜ばれて嬉しい。仕込みのお礼もついでにしないと。
入れ替わり立ち代わり従業員さん達が挨拶に来てくれた。
ボクはお茶で何度も『乾杯』して。
いつまでも続くかと思われた宴会もあっさりと終わり、みんなで片付けた。
明日も仕事だものね。
「朝の仕込みは任せておけ! 嬢ちゃんはゆっくり寝てな!」
焼きプリンの効果か料理長からそう言われた。
本当に善い人達だ。
感謝を述べたら――
「おいおい嬢ちゃん? お前さんは子供なんだから、頼れる時に大人を頼っておけよ」
なんてカッコイイ言葉を残し『ガハハ』笑いで立ち去ってしまう。
他の従業員さんも料理長に続いて同じ事を言うんだけど....
ボクは男の子....一人称が『ボク』って聞えていませんか? 気付かない? 胸も無いんですよ?
その目は節穴ですか? あんなに料理も上手で従業員さんもテキパキと片付けをしてたじゃないですか。
なんでわかってもらえないのだろう。やっぱり見た目? 師匠も一月気付かなかったから...
ちょっとションボリしながらササッとお風呂を頂きベットへ潜り込んで『おやすみなさい』。
そうしてしばらく――師匠がやって来た。
ボクの言い付けを守りノンアルコールを飲んでくれてた。
よかったよかった。口をすっぱくして言い続けた甲斐がありました。
それで? ベットひとつしかないですもんね? 添い寝ですね?
『慣れた』とはまだ言わないけど、嫌じゃないよ?
2年以上も師匠と暮らして来たんだから、ボクもいい加減わかっているつもり。
いつもの様にモゾモゾとシーツへ侵入して来てボクを抱き締めるんでしょう?
どうぞ? 言い付けを守ってくれた御礼代わりにギュッとすれば――
「????」
おかしい。師匠の手がいつもと違う動きを....
どういう事かと中を覗けば4本の手がボクの身体へ伸びていて....
触手かな? ついに師匠は人の壁を越えて人外の存在へ昇華を!?
慌てて2本の腕を掴み手探っていけば1本は師匠へ辿り着き、もう1本は――
「カルアさん!?」
「あらあら♪ ばれちゃった♪」
聖母の笑みで悪びれた様子は微塵も見せないカルアさん。
師匠も師匠でデレデレした表情に涎を垂らしてだらしない。
えっと....何してるのこの人達は!?
「帰ったんじゃなかったんですか!?」
「おねぇちゃん独りで帰らせるつもりなのぉ? 寂しいわぁ...」
ウッ!? ごもっともな意見で。
確かに夜道も危ないですし....通り魔も出たらしいですし.....
「そ・れ・に♪ カオルちゃんはおねぇちゃんの家族なんだから一緒にいなきゃダメでしょ♪」
これ幸いと抱き寄せ、胸を押し付けるカルアさんはボクをどうするつもりですか?
ボクが男だって知ってますよね? 異性ですよ? 女性として危機感を感じませんか? たとえ家族だとしても!
助けてください!! 師匠!!
「うぅん....ムニャ」
頼れる元剣聖は既に眠っていた。
それはもうお酒の臭いを撒き散らして幸せそうに。
「グヘヘ...カオルきゅんも思春期か? ソコはアレだぞ?」
なんて夢を見てるんだろうね!?
夢の中でボクはどうなってるのかな!? ボクの尊厳を陥れるのはやめてください!
寝言だからって許されない事もあるんですからね!!
「はぁ。わかりました。明日も屋台がありますからもう寝ましょう? ボクも疲れてますから」
「わかったわぁ♪」
嬉しそうなカルアさん。ベットは広く、3人で横になっても狭さを感じる事は無い。そもそもボクは子供で小さいし。
押し切られた感は否めないけどボクは観念してそのまま眠る事にした。
いくら身体を弄られようが。
耳をアマガミされようが。
ボクは! 眠りに!
「つけるかぁぁぁぁぁ!!!!」
「あらあら♪」
ガバッと起き上がり這い回る2本の手を振り払う。
諸悪の根源はにこやかに笑っていた。
いつの間にか上着を脱いだ下着姿で!
「本当にもう寝たいので許してください!」
ベットの上で土下座。
それは潔く綺麗な土下座だっただろう!
「うふふ♪ わかりました。それではおやすみなさい。カオルちゃん♪」
「はぁ....おやすみなさい」
シーツを掛け直し今度こそ就寝。
一癖も二癖もある人だなぁ――
翌朝、3人で目覚め朝食を。
起きてからというもの師匠はずっと不貞腐れてる。
理由はカルアさんが一緒に寝ていたから。
そもそも師匠が昨夜しっかり正気を保っていたらこんな事態は起きなかった。
ボクの助けも届く事無くどれだけボクが悲しい思いをしたか。
ぜ~んぶ師匠が悪いんですよ? ボクは何も悪くありません。
カルアさんだって好意で屋台を手伝ってくれたんです。
貴重なお休みを丸々潰してしまったんですからね? 昨夜はアレな人でしたけど。
「師匠? いつまで不貞腐れているんですか? いい加減怒りますよ?」
「そうは言うがな? カオル。なんで私達の部屋にカルアがいるんだ? ここは私達の愛の巣だぞ?」
いつから此処が『愛の巣』になったんですか....
黒猫通りのミント亭ですよ? ボクと師匠は部屋を借りている身です。
勝手に変な名前を付けないで下さい。昨夜の寝言といい『愛の巣』発言といい....何を考えてるんですか!?
「あらあら♪」
「『愛の巣』じゃありません。ここはボク達が部屋を借りている宿屋です。
昨日カルアさんは屋台を手伝ってお疲れだったので泊まっていただいただけです。
いつまでも不貞腐れている師匠は嫌いですよ?」
「わかったよぉ....」
納得はできるが許せない。師匠はそんな顔をしていた。
まったく、凛々しい時とギャップがあり過ぎだとボクは思う。
普段からああして"元剣聖"な姿を見せてくれればボクも....
食事を終えて部屋で身支度開始。
窓から日差しも漏れて今日も快晴。屋台日より。
姿見の前でメイド服に袖を通しホワイトブリムを頭につけて...うん、今日もばっちり決まって....る....
ガクッと倒れ込み膝をつく。
なんで....なんでこんなに馴染んでるの?
いけない。
いけない!
この状況に慣れてしまうのはいけない!
「ボクは男。ボクは男。ボクは男。」
呪文のごとく唱えながらその場を後にした。
恐ろしい...女装を受け入れている自分が恐ろしい....
この際、似合ってしまうのは仕方がない。
ボクはお母様に似て女顔だから。産まれ持ったこの身体は、お父様とお母様から頂いた大切なモノ。
趣味が家事なのも認めよう。掃除して綺麗になっていく様子はとても晴れやかな気持ちになる。
ごはんだって師匠が『美味しい』と言ってくれて嬉しい。独りだった時は自分の為だけに作っていたから。
だけど――女装ってどうなの? ボクは立派な男に成る予定だ。
身長だってお父様を越えてグングン伸びるし、そのうち髭も生えるだろう。
誰が見てもジェントルマンなボクを想像している。
紳士香月カオルだもの! 女性に優しく子供が憧れるそんな人物だ!
「カオルは何を鼻息荒くしているんだ?」
「うふふ~♪ 可愛いわぁ♪」
『今に見てろー!』と心の中で愚痴を零し、宿屋を出て3人で歩く。
既にレジーナの姿が無かった様子から屋台の準備へ向かった事を知っている。
きっと従業員さん達が汗水垂らして早起きしてくれたはず。
なんたって今日は屋台最終日。
最後のひと稼ぎにもってこいの陽気で、オーブンへと続く栄光の階段までもう一歩だ!
屋台へ着き師匠とカルアさんはそれぞれ聖騎士団の詰め所兼訓練場と礼拝堂へ向かって行った。
ちょっと寂しく思い盛大に手を振り見送くる。
『頑張れ』『無理しちゃダメよ~?』なんて優しい言葉を頂いた。
「レジーナ。今日もよろしくね」
「カオル!今日で屋台最後でしょ? あとで看板に書いておくね!」
さすがレジーナ。気がきくね。
「ありがとう。レジーナ、明日の午後って空いてる? 料理教えたいんだけど」
「うん、それならたぶん大丈夫。カオルから『しっかり料理教わってこい』って言われてるし」
さすが商人。抜け目無く忘れてなかったね。
さ~て今日もめいっぱい売るぞー! の前に仕込みの量を――
ナニコノ量.....昨日の5倍はあるよ.....
「ねぇレジーナ? この仕込みって、宿屋の人達と作ったんだよね? 物凄い量なんだけど....」
生地だけでペール缶20個以上ある。
フルーツも薄くスライスされたキウイやらマンゴーやらが盛り沢山。
ふむ。ボクがレジーナに教えた通りの切り方だね?
やはり侮れないレジーナか。
「そうだよ。みんなカオルの事気に入ったみたいでね。『手伝わせろー!』って凄かったんだから」
気に入ってくれたのは嬉しいけど....
まぁいいか。
「よーし、今日も沢山売るよぉ!」
「おー!」
2人で気合を入れて今日も開店!
こっそりレジーナが看板に『最終日!』と書いてくれているのだろうか? 看板付近でごそごそしてから客引きし始めた。
今日はカルアさんがいないので2人だけの作業だ。
クレープを作る。
売る。
作る。
売る。
つく・・・る。
う・・・る。
うなーー!! 人手が足らないよ!? 負けるもんかー!!
ひたすら作り、ひたすら売る。
昨日の倍以上の列ができていた。
というか! 手を握るなぁぁぁぁぁぁ!!!!
そんな時間は無いのにゃー!!
愛想笑いを顔に張り付かせ、頬がビキビキと音を立てる。
もうお年寄りに拝まれるのは慣れました。
だってそんなヒマも無いのだもの。
大丈夫、まだ弾――仕込み食材――はある。
やれる! やれるよ!
「レジーナ隊長! ボクはまだやれます!」
「カオル隊員! 私の屍を超えて行け!」
「レジーナ隊長ー!?」
2人共ハイテンションだった。
並んでいる人達には受けたみたい。
クスクス笑って受け取ってくれて.....
夫婦やカップルさんには特別に苺を薄く切り薔薇を作って乗せてみたり。
喜ばれたけど失策だ! 余計な手間が掛かってしまった。
そんな中、隣の金物屋の主人が。
「がんばってるな? 1つ頼む」
そう言いクレープを買って行く。
気に入ってくれたのかな?
職人気質だから、言葉数は少ないけど口元は緩んでいた。
それからも人が途絶える事なく、食材が尽きる頃には日が落ちていた。
やりきった達成感からか、レジーナと2人、屋台に佇む。
「カオル? 私達はやったんだね....」
「そうだね....レジーナ.....」
涙ぐむレジーナと燃え尽きたボク。
交わした握手は忘れない。
戦場と呼ぶ名のクレープ屋台をボク達は3日間遣り遂げた。
長く辛い険しい戦いだったと思う。
クレープの販売総数1万を越える大偉業だ。
憲兵さんが3日連続で買いに来てたのが印象的だね? 当局へ通報したい。『仕事中じゃないのか?』と。
お世話になり、お騒がせした謝罪の意味も込めてお隣の雑貨屋のおばさんと、金物屋のおじさんに挨拶へ。
おばさんは『そうかい、寂しくなるねぇ』と言いながら抱きしめてくれた。
尻尾の毛が多いです。
やめてください、口に入ります。
そしてボクは男だ! 『息子の嫁に』とか訳がわからないよ!? レジーナに後は任せよう。話しが長い。
そうして次に金物屋へ向かうとドワーフのおじさんが待っていた。
今日で屋台を終える旨を伝え――『そうか』と一言。布に包まれた何かを手渡される。
激闘を称えてくれたのかな? 中身を開けると、刀身が幾重にも波打つ模様の包丁だった。
これ....木目模様鋼!? ウソ!? どうやって作るの!?
「餞別だ。"使ってやってくれ"」
「あ、ありがとうございます!! 大切にします!!」
お店の奥へ消えて行くおじさん。
ボクにこの包丁の価値がどれほどの物かわからない。
だけど嬉しいです。大事に使わせていただきますね?
《魔法箱》へ仕舞って屋台の片付けをしているレジーナの下戻り、ふと気付く。
看板がやけにデコデコしていて色々書かれている事に。
『"黒髪の巫女"のクレープ屋!! 本日最終日だよ!!
今食べなければ一生食べられません!!
食べれば巫女のご利益あるかも!?
今なら"巫女手作り"でたったの3シルド!!』
えっと.....
頭から血の気が引いていく感じ。
まず、ボクは黒髪だけど巫女ではない。
そもそも男性だ。女性ではないから巫女には成れない。成るつもりもない。性転換手術などこの世界の医療に無いはずだ。
不可思議な力、魔法があるけど怪我を治す程度の代物。病気も治らないし体力も回復しない。
故に『ご利益』は無いよ? 疑問系だからそこは許そう。
問題は見世物にした事と不名誉なあだ名を付けられた事だ。
犯人は間違い無く――
「レジーナ!! コレ!! どういうこと!?」
「あは♪ ばれちった♪」
看板を手に詰め寄ったボクと罪悪感の欠片も持たないレジーナ。
辺りが暗くなろうとしている中、ボクはガックリと肩を落とすのだった。




