第十六話 宿屋で師匠はご満悦
2016.7.09に、加筆・修正いたしました。
ここは【オナイユの街】の宿屋、"黒猫通りのミント亭"。
南門から真っ直ぐに伸びる大通りの一角に建てられた、古式ゆかしい風合いのある石材建築。
室内はモダンな造りで、旅に疲れた旅人を、どこか包み込む様な安心感を与える、シックな木製の建材達が出迎えてくれる。
天井から垂れ下がる室内照明灯は、意匠の凝らした一品で、揺らめく炎が蝋燭ではなく高価な油を使用していると思わせる。
1階のロビーも広く、受付のカウンターにポチャっとした体型で、上質な衣服で着飾った人間の男性が1人。
その両隣に簡素なお揃いの服を着た従業員が2人。
豊かなお腹の男性――店主のエドモンド――と、宿泊客のヴァルカンが一言二言挨拶を交わし、カオルはその間豪華な建物に夢中だった。
西洋風のモダン建築物が多い【オナイユの街】は、カオルの興味を惹くに十分な代物。
見るもの全てが新鮮で、食文化も【イーム村】と雲泥の差。
2週間の馬車旅で、焼き固められた携帯食料――硬黒パン――も飽きあきとしていたし、何よりヴァルカンが買ってくれた肉焼き串が美味しかった。
だから――完全に油断していた。
2人は宿屋に部屋を取り、ヴァルカンは大満足のホクホク顔。
そして、カオルはと言うと...
(むぅ...)
仏頂面で不機嫌である。
なぜなら、事もあろうにヴァルカンが"ツイン"――1つの部屋にベットが2つ――ではなく、"ダブル"――1つの部屋に大きなベットが1つ――の部屋をとっていたから。
それは即ち、今夜2人は同じベットで眠る事になる。
まだカオルは家族の距離感を掴みきれていない。
一緒に眠る事に嫌悪感は一切無い。
むしろ喜ばしい事。
しかし、ヴァルカンが『普通に寝てくれれば』と但し書きが付くが。
(変態魔人め...)
呪詛を撒き散らし、ブツブツ何かを唱えるカオル。
攻撃呪文じゃないと願いたい。
もしくは呪いの類ではないと..いいな。
「さぁ、カオル!! お風呂に入ろうではないかっ!!」
カオルの気持ちを知ってか知らずか、ヴァルカンの爽やかな笑み。
性根は腐っている。『残念美人』なのだから。
「....ししょう? もう怪我も治りましたので、一緒に入りませんよ?」
身の危険を感じ、ヴァルカンから後ずさるカオル。
そして逃がさないとばかりに、にじり寄るヴァルカン。
「いやいや、せっかくの――新婚――旅行なんだ。師弟――夫婦――共に汗を流すのは当然だろう?」
2人の応酬は静かに続く。
ヴァルカンの思い込みとぶっ飛んだ考え。
カオルは治療の為に仕方なく【オナイユの街】へやって来たはず。
それが、いつのまにか旅行になっていた。
困惑するのも当然で、ヴァルカンの視線が実に怖い。
カオルの身体をねっとりと舐め回し、お尻と太股をロックオンしている。
(これは本当にヤバイ)とカオルは感じ、扉を背にある提案を始めた。
「け、結構です。先に夕食にしませんか...?」
捕食者と捕食される側。
ヴァルカンという肉食獣の前で、カオルという草食獣は震えていた。
絶対的な立場の違い。
生まれ持って全てが決まる食物連鎖。
この部屋の中に、それは存在していた。
「フッフッフ...まったく照れ屋さんだな。カオルは」
照れではなく、怯え。
今日のヴァルカンは朝からはしゃぎ過ぎた。
荷馬車の中でカオルの無垢な身体を蹂躙しようとしていたし、何度も口移しで水を飲ませようと迫った。
スーザンの警告でカオルは自らの危険を察知でき、ヴァルカンの行為はやはり行き過ぎた代物だと理解した。
だから、この場は、逃げの一手だ。
素早く扉を開き、廊下を走り抜け、1階の食堂へ避難する。
もちろん食事を取る為であるが、2人きりという環境は"いつなにが起きてもおかしくない"状況であった。
(はぁはぁ...本当に、師匠は自分勝手なんだから....)
安堵の溜息を吐きながら、追いかけて来ないヴァルカンの様子に(正解だったね)と胸を撫で下ろす。
嫌じゃないけど、まだ早い。
それがカオルの見解で、正しい判断だと思われる。
「あの、すみません。食事をお願いしたいんですけど...」
食堂に居た女性の従業員。
三角耳にフサフサの尻尾を生やした犬人族。
テーブルを拭いていたのだから、片付けの最中だったのだろう。
カオルの声に気付き、答えながら近づいてきた。
「ああ、もう今日は料理する人帰っちゃったんだよね。材料はあるから、自分で作ってくれる?」
時刻は夜半過ぎ。
0時をとっくに回ってる。
そこそこ大きい食堂も、今は閑散としていてカオルと従業員の2人しか居ない。
元々夜は早く引き上げるのがこの世界の常識で、室内灯の油代も無料ではない。
もちろん蝋燭を使う時もあるし、現に今は油よりも安価な蝋燭を使っている。
故に薄暗く、部屋の隅はちょっと怖い。
ただ――カオルは【オナイユの街】の料理を楽しみにしていたのだから、落胆も人一倍。
屋台の肉焼き串があれだけ美味しかったのだから、こんなに豪華な宿屋の料理はさぞ美味しいだろうと予想していた。
それなのに、食べられない。
(オアズケされたペットは、こんなに辛い思いをするんだね)なんて、落ち込んでしまっていた。
「...と、いう訳だ。カオル? 愛情を込めて作っておくれ」
いつの間にか合流していたヴァルカン。
当然のように明け透けに言うのは『残念美人』だからか。
「はぁ...わかりました。それでは厨房へ入らせていただきますね?」
今日のところは自分で作ろう。
カオルはそう言い聞かせ、従業員から渡された木箱を覗き込む。
「全部使っちゃっていいから」の一言で、カオルの腕は疼きを感じた。
(えっ!? こんなに沢山の食材を全部使っちゃっていいの!?)
カオルが知るのは【イーム村】の物価。
まだ着いたばかりで【オナイユの街】の価格調査を行っていない。
だから渡された食材がとても高価に思え、料理人として喜んだ。
さらに――
「調味料はそこにあるの使っていいからね」
調理場の上棚。
そこに物凄い種類の調味料達が、所狭しと並んでいる。
塩、胡椒、砂糖はもちろん、サラダ油、醤油、オリーブオイル、バルサミコ酢などなど、ヴァルカンの家には無いような調味料まである。
隣に置いてある冷蔵庫代わりの石櫃には、バターや牛乳、卵、唐辛子に、にんにくまで。
もう喜びを通り越して歓喜していた。
(いいの!? 本当に本当にいいの!? っていうか、ここの料理人って何者!?)
無邪気な子供は飛び上がる。
全身で喜びを表し、ヴァルカンはほくそ笑む。
可愛い可愛い自分の嫁が、あんなに嬉しそうに自分の為に料理を作ろうとしてくれている。
(そんなに私が好きなのか♪)
勘違いの連鎖は止まる所を知らない。
従業員が次の仕事へ向かい挨拶をしたが、2人の耳に届いてはいなかった。
変態と子供は夢中だ。
未成熟な身体と料理に。
(なに作ろうかな~♪ お? 前掛けだ! って、随分大きいねぇ...料理人さんは大柄な人なのかな? ま、いいや♪)
自前のエプロンを《魔法箱》から取り出し身に付け、《光球》を唱え光源を発生させる。
如何にカオルの料理の腕前が高ろうと、薄暗い蝋燭の明かりだけで料理をするのは危険すぎる。
そして――見つけてしまった。
カオルがずっと欲してやまなかった代物を。
それはオーブン!!
石釜はヴァルカンの家にもあった。
だが、火加減や火の設置場所など、実に調整が難しい。
"焼く"以外の行程を知らないヴァルカンのせいで、カオルは石釜を使いこなす事ができないでいた。
もちろん、現代日本で暮らしていたカオルに、石釜を上手に使いこなせるだけの技量は無い。
せめて【イーム村】で誰かに教えて貰えれば違ったかもしれないが――カオルは人見知りを拗らせていたし、それは叶わぬ夢であった。
だが、今目の前にあるのはオーブンである。
密閉型の温度調節機能付き。
高価な魔宝石が付属され、薄給のヴァルカンには到底買えない代物だ。
(もぉ~~♪ なんでも作れちゃうよ~~♪)
無邪気にはしゃぎ、「あはは」と笑いクルクル回るカオル。
その様子をヴァルカンは「グヘヘ」と笑い涎を垂らす。
2人の他に誰もいない。
せめて宿泊客の1人でも居れば...即憲兵を呼びに走ってくれたものを...
そして、カオルの調理は始まった。
まずは手洗い。そして時間のかかる物から順番に。
小麦粉、オリーブオイル、砂糖、塩、膨らまし粉、水をボールに開け混ぜ合わせる。
十分混ぜ合わさったらそのまましばらく放置。
◆次!
木箱の中から鶏肉を取り出し下ごしらえ。
火が通りやすいように隠し包丁を入れる。
塩コショウをまぶしフライパンの中へ、サラダ油を敷いて炒める。
焼き色がつく前に弱火にし、白ワインを入れてグツグツ煮込む。
アルコールが飛んだら水とブイヨンを投入。
別のフライパンを取り出し火にかける。
たまねぎや人参を丁寧に炒め、鶏肉の入ったフライパンへ。
十分火が通ったらお皿に盛り付けセージを添えて完成。
◆次!!
木箱にあったエビを取り出す。
水瓶から鍋へ水を移し、火にかける。
十分温まったところへ塩を入れエビを投入。
すぐに火が通るのでザルへあけ熱を冷まし殻を剥く。
ゼラチンを用意しコンソメを投入、コンソメが溶けるまで混ぜ合わせる。
人参、パプリカを一口大の大きさに切り陶器の器へ、そこにゼラチンを流しいれる。
魔法――《氷塊球》――で、氷を用意し陶器を囲むように配置して放置!
◆またまた次!!
木箱から白身魚を取り出す。
ささっと三枚に下ろして白身に塩コショウ、小麦粉をまぶしフライパンを火にかける。
フライパンにバターを入れ、タラを投入。
両面パリパリになるまでカリカリに焼く。
焼きあがったタラを器へ取り出したし、フライパンにバター、生クリーム、スライスレモン、パセリを入れる。
生クリームの色が少し黄色っぽくなったら、タラにかける。
◆つぎぃ!
ピーマン、パプリカ、トマト、ナス、玉ねぎ、ズッキーニを一口大に切り揃える。
熱しておいたフライパンにオリーブオイルをひく。
ニンニク、パプリカ、ピーマン、玉ねぎを入れて炒める。
満遍なく炒めたら、ズッキーニ、ナス、トマトを入れる。
ローレルを入れ、塩コショウをしてしばらく煮込む。
十分煮詰まったら器に移す。
◆つ・・・ぎ!
最初に作った生地を小麦粉をつけながら麺棒で薄く丸く伸ばす。
円形の形になったら一口大のベーコン、トマト、塩コショウを生地の中心へ置く。
両端をしっかり持ち、半円になるように空気を入れながら合わせて閉じる。
ピールを使い石釜の中へ。
高温の為、あっというまに焼きあがる。
窯から出し、器へ盛り付ける。
氷で冷やしておいた陶器の器を取り出し、中身を平皿に移す。
木箱の中にあったバゲットを平たく切り揃え器へ。
(無事に完成!! やったね♪)
ツヤッツヤの顔で、食堂のテーブルにそれらを並べるカオル。
誰が見ても歳相応な可愛らしい子供の姿。
ヴァルカンは満足気に頷き、良い香りに鼻を鳴らす。
「おまたせしました♪」
色々な意味で待ちきれないヴァルカン。
両手にスプーンとフォークを持ち、料理にくぎづけ――だけでなく、カオルの顔をチラ見している。
両方の意味で"いただきたい"。
が――まずは腹ごしらえが先だろう。
カオルはヴァルカンが(お腹が空いて、早く食べたいんだろうなぁ)と、もうひとつの意味を理解していない。
鈍感故に気付かない。
それがカオルなのだから仕方がない。
「それではお料理です。エビと野菜のテリーヌ、若鶏のフリカッセ、タラのムニエル、カルツォーネ、バゲットにはラタテューユを乗せてお召し上がりください」
自慢気に料理の説明を終え、料理に使った白ワインを取り出す。
それをヴァルカンのグラスに注ぎ、「飲み過ぎないようにしてくださいね?」と注意をしつつ食事は開始された。
ひと噛みで溢れる若鶏の肉汁。
元剣聖のヴァルカンですら見た事の無い料理。
形式張り、希少な食材で趣向を凝らした味気ない宮廷料理とは違い、カオルの料理は安価な食材で民衆の心を掴む、恐ろしい兵器である。
すっかりカオルに心も胃袋も掴まれたヴァルカンは、あまりの美味しさに両足をバタつかせる。
それだけの美味しさに加え、空いたグラスに手早く注がれるワイン。
カオルのおもてなしは、まさに凶悪の一言。
誰も逃れる術を持たない、神の食卓がそこに顕現した。
「カオル最高!!」
「ありがとうございます」
大絶賛され、カオルも嬉しく思う。
同時に、(可愛い人だなぁ)とヴァルカンを見詰めてしまう。
豪快に食べるヴァルカンは、行儀作法なんて適当。
頬にトマトソースを着け、それをカオルが拭う。
それが2人だけの家族の当たり前。
本人は気付かないが(歳相応に見えないところが師匠の魅力なんだろうなぁ)などと、うっとりしているカオル。
まるで婚儀を迎えたばかりの新婚さん。
カオルもクスリと笑い、自信作を口にする。
(うん、美味しい♪)
自画自賛だが、確かに美味しい。
ふっくらと空気を閉じ込め膨らんだカルツォーネも、プリップリのエビも。
伊達に調理技術をマスターしていない。
と、そこへ――
「おいしそうな匂いだね?」
スンスンと鼻をひくつかせ、ワッサワサの尻尾を振り回す女性の姿が。
三角耳はピコピコ閉じたり開いたり、カオルの料理に興味津々である。
カオルが見やれば、女性――従業員の犬人族が涎を袖で拭っていた。
「少し召し上がりますか?」
「いいの!?」
ご馳走を前に"待て"をされたワンコ。
尻尾がひときわ大きく揺れている。
それは、喜んでるのわかりやすすぎるのではなかろうか?
「どうぞ?」
余分に持ってきていた取り皿に一口大ずつ料理を乗せる。
バゲットは沢山あるので、ラタテューユは大目に盛って。
「ありがとう!!」
優しいカオルの好意に甘え、差し出された料理に齧り付く。
お客様の前でなんとはしたない。
店主が居たら怒られたであろう。
それでも誘惑に勝てるはずもなく、みるみる内に料理は減る。
ふと、カオルがヴァルカンに気を移せば、カルツォーネの膨らみをどうやって割ろうか試行錯誤していた。
それもまた(可愛い人だなぁ)と思ってしまう。
2人は確かに家族であった。
「なにこれ!? すっごくおいしい!!」
どうやらラタテューユが気に入ったらしい。
バケットを沢山取りラタテューユを乗せてもしゃもしゃ食べ出す。
唇は油でテラテラ。しかも、手掴みだから手もドロドロ。
淑女としてそれはどうなのだろうか?
宿の品位に関わる重大案件な気もするが、心優しきカオルはそれを許した。
「よかったら、作り方教えましょうか?」
「ホント!? ありがとう!!」
ナプキンを渡し両手を拭わせる。
「口元も」とカオルに言われ、アセアセしはじめた彼女は、ちょっぴり淑女の意識が残っていた。
そうしてカオルも食べながら、作り方を簡潔に教えた。
「カオル? ワインおかわり」
カオルの講義もなんのその。
『残念美人』のヴァルカンに、そんな事など関係ない。
なぜなら、あの可愛いカオルが自分の為に愛情を込めて作ってくれた料理を前に、食い気も飲み気もいつもの数倍。
"大食漢"と"のんべぇ"と化し、カオルに小言を言われながらもう1本のワインを空けた。
「師匠? これで最後ですからね? 約束は守ってくださいね?」
「わ、わかった」
カオルが心配しているのは、ヴァルカンの身体。
治癒魔法では病気を治せない。
お酒の飲みすぎで肝硬変など患いでもしたら、カオルは泣いて怒って悲しんでしまう。
2年以上、何度も繰り返されたやり取りで、ヴァルカンも身に染みて理解している。
だから、カオルに注意され肩を落としたヴァルカン。
それでも鈍感カオルが(しゅんとなった師匠も可愛いなぁ...)と感じてしまうのは、2人共ダメ人間だからではないか。
遅い夕食も終わり、片付けを手伝った従業員とも別れ、カオルとヴァルカンは2階の部屋へ戻った。
そしてカオルは完全に失念していた。
食事の後にする事を。
自分がなぜ食堂へ逃げたのか。
(あ...お風呂の事、ワスレテタ....)
脳内を駆け巡る今後の予想。
間違い無くヴァルカンは自分の身体に好き勝手するだろう。
それは子供の自分にまだ早い。
ヴァルカンは最近、家族の枠を超えようとしているのだから。
大急ぎで食堂へ戻り、食材の入っていた木箱から瓶を引っ手繰り部屋へ戻る。
ほろ酔い気分のヴァルカンはベットに仰向けで倒れており、カオルは《飛翔術》で風を纏い音を遮断していた。
まさかこんなところで暗殺者の真似事をする羽目に成ろうとは、教えたヴァルカンも、そしてカオルも思わなかったであろう。
窓際にある備え付けのテーブルの上に瓶とグラスを置き、椅子の位置をずらしてカオルの計画は完成する。
「師匠? 今日は、美味しい料理が作れて嬉しかったです。特別に追加のお酒をどうぞ?」
もちろんノンアルコールである。
ヴァルカンの身体を気遣っての事。
それでも、美味しい物は美味しい。
寝そべるヴァルカンが飛び上がるほどに。
「ほ、ホントか!? いいのか!? いや、いいんだよな!! まったくもう! 可愛いヤツめ!!」
「ええ♪ ゆっくり楽しんでください♪」
自分の持てる最上級の笑顔でヴァルカンを篭絡する。
カオルの笑顔に魅了され、ヴァルカンは用意された椅子へ腰掛け、酒瓶を傾けた。
椅子から見える光景は窓の外。
月明かりが零れ、街の喧騒がどこか遠くから聞こえて来る。
グラスから味わい深い香りを感じ、ヴァルカンは悦に浸る。
酒の肴はもちろん、先ほどのカオルの笑顔。
子供故の純真無垢で穢れのない真っ直ぐな瞳。
美少年趣味の自分だけに許された柔肌。
入っていないはずのアルコールは、ヴァルカンを麻痺させるだけの味覚を堪能させていた。
そして、カオルはというと――
(あ~...やっぱりお風呂っていいよねぇ...)
2週間ぶりの湯船。
馬車旅でお風呂に入る暇などなかった。
かと言って、途中で見つけた湖へ入れるはずもない。
季節は冬。
【カムーン王国】よりも温暖な気候の【エルヴィント帝国】だからこそ、雪解けが早い。
それでも、湖は確実に冷たいのだから、お風呂が恋しかったのは本音。
しかも、ヴァルカンが取った部屋は高級な所。
蛇口を捻れば水も出るし、お湯も出る。
すべて魔宝石が仕込まれているからこそ。
宿代がきになるけれど、今は置いておこう。
カオルはただ、ヴァルカンに隠れて至福のひと時を過ごすのだった。
次回、カオルの秘密が・・・・・
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