悪を許さぬ正義の邪龍ニルちゃん?
ある日ニルは一人で外を歩いていた。紅哉は舞香とゲームをしているし、ヴリトラは眠いと言って紅哉の自室で寝ている。リアは相変わらず霊体化して寝ているのは分かっている。
朱音は龍一に怒られて説教中なので久しぶりに暇を持て余していたわけだ。
「こんなに暇なのはいつぶりだ」
自分の足で街を歩くのは余りない。しかし、この辺りの地域は全て理解している。何故ならおいしいアイス屋が販売している所だからだ。
紅哉からは軍資金として2000円預けられ、アイス1個150円だとしても12、13個くらい食べれることにニルの表情は笑顔に変わる。
「あらニルちゃん。今日は一人でお出かけ?紅哉君はいないのかな?」
「うむ。今日は暇だからブラブラ歩いていたのだ」
話しかけられたのはアイスキャンディーと書かれた車でアイスを販売しているおばさんだった。
この人はよく学校の帰りにアイスを買うのでいつの間にか顔を覚えられる仲になったわけだ。
「オレにチョコサンデーパフェをくれ」
「はいよ。ニルちゃんはお得意さんだからサービスしておくね!」
「いつもすまない」
プラスチックの容器に入ったチョコたっぷりのアイスを小さいスプーンですくって一口。
「今日も最高の味だ」
「ありがとさん。またよろしくね」
「うむ。おばちゃんのアイスはとってもうまいからまた買いに来てやる」
このおばさんはニルの事を紅哉のパートナーだと知っているため、こういう偉そうな口を聞いても何とも思わない。
ニルは手を振って見送られ、その場を後にする。
「ニルちゃん!いま牛肉コロッケ揚がったんだがどうだい!」
「お、是非貰おう」
無料で揚げたてのコロッケをいただく。ここ商店街通りは学校の帰り道で紅哉と一緒に買い食いをする。そのせいかほとんどの人に顔を覚えられて可愛いからとニルにはおまけがくる。
ほとんど食べ物をくれる人はお婆ちゃんやお爺さんなのだが、ニルはその事に気付かない。
「ふむ。朝飯を抜いてここに来ても十分腹に溜まるのではないだろうか」
手には先ほど貰ったたい焼き。十勝のあんこをふんだんに使い、外の皮はパリっと中はあんこがたっぷりのたい焼きは絶品だ。
ニルは食べ歩くのが疲れたのか、噴水がある公園で一休みした。
「やれやれ、今日も人でいっぱいだ」
今日は日曜日という事もあり、子供とそれを見守る親で溢れていた。
「たい焼きもうまいが、やっぱりあのおばちゃんのパフェがうまいな…」
ニルは至福の笑顔を浮かべながらたい焼きを食べていると、ふと目に止まったのは公園の端で泣いている男の子だった。
ニルにとってはどうでもいいことだが、自分のマスターの立場になって考えたらきっと放っておかないだろう。
ニルは少しのを思案すると残ったたい焼きを一気に食べてベンチから降りた。
「お前、なんで泣いているんだ」
「ふぇ……?ぼ、僕の大事なおもちゃが取られたんだ……うわあああああん!」
「取りに行けばいいだろう。何を泣いている」
「あいつらみんなして僕の事を苛めるんだ……」
「なるほど。集団暴力って奴か。それでお前はここでメソメソ泣いていたわけだ」
ニルは泣いている男の子の服を掴むとずるずると引っ張り出した。
「ぐえ!お、お前どこに引っ張っていく気だよ!」
「その取られた場所に案内しろ。オレが取り返してやる」
「む、無理だよ!あいつらはここの小学校のガキ大将なんだ!」
「ふん。いいから案内しろ、オレの気が変わらないうちにな」
「わ、分かったから手を離してー!服伸びてママに怒られる!」
そうしてニルのちょっとした冒険が始まった。
「この山の中か?なんだ、そいつは野蛮人なのか」
「やばい人?よく分からないけど、あいつらはこの山の中に秘密基地作っているんだ」
「そこまで分かっていて何故お前は一人で行かない」
「こ、怖いからだよ……あんな大勢に勝てるわけが…」
「ふん、小者め」
「き、君だって女の子だろ!?そんな男に勝てるわけないじゃないか!」
「うるさい黙っていろ。お前はさっさと案内すればいいのだ」
見た目こそ美少女だが、ニルは柄が悪い。しかし美しい黒髪に青い瞳は小学生の心を鷲掴みにするのも時間の問題だった。
「き、君の名前は?僕は小野 晴太って言うんだ」
「オレはニルだ」
「え?ニル?」
「ファーヴニルだ。二度は言わん」
「いて!分かったよ…」
さっさと案内しろと尻を蹴られ、晴太は茂みへとどんどん足を運んで行く。
「ここからか………おい、晴太。ここはもう警戒区に入っているぞ」
「え?どういうこと?」
「もうこの辺りから魔物が出るということだ。先ほど草でよく見えなかっただろうが、立ち入り禁止の札があった」
「えええええええ!うわわわわわ……」
「安心しろ。出て来ても小物だ。死にはせん」
「う、うん……」
晴太は先頭を歩くので余計に恐怖心が煽られる。
『ううん!女の子を先に歩かせるのなんてもっとダメだ!ぼ、僕がしっかりしないと!』
後ろを見ると、ニルは長い木の棒を圧し折って振り回して遊んでいる。
『ニルって外人の子なのかな……なんだか身体茶色いし……でも可愛いな…』
艶々の黒髪にサラリと前髪が流れた時に見える青い瞳が美しかった。
「おい、お前何を見ている。いいから前を見て歩け。余りオレの機嫌を損ねるな」
「は、はいいい!」
『口は凄い悪いけど……』
晴太は木の枝をかき分けてどんどん先に進んだ。
「後どれくらいだ?」
「もう少しだよ。ほら、人が歩いた跡あるでしょ」
「そうだな。確かにこの先に誰かいるようだ」
晴太とニルが進んだ先にはダンボールで作られた秘密基地があった。その外では車のラジコンが走っており、それを操作している太った子供が楽しんで遊んでいた。
「あ、あれだよ!僕のおもちゃ!」
「なるほど。それで、ガキ大将ってのは誰だ」
「僕のおもちゃを持ってるやつ!」
「ふむ。所詮子供の遊びか。マスターを思い出す」
「マスター?」
「気にするな。ほら、行くぞ」
「うおおお!?」
草むらに隠れていた晴太をニルは首を持って引っ張る。
「おいお前ら。そのおもちゃを返せ」
「あぁ?お前なんだよ。このおもちゃは俺のもんだ!」
「う、嘘だ!それは僕のだ!いい加減返せよ!」
「おい!晴太がいるぞ!泣き虫の晴太だ!女の子に守れてやんの!」
秘密基地で遊んでいた子供たちが出てきて一斉に晴太をはやし立てる。
ニルは心底下らなそうにしている。
「ふん。お前らは逆に大勢ではないとこんな子供一人泣かせられないようなガキなのか?どっちが笑い者だ?」
「う、うるせえ!女のくせに生意気なんだよ!」
太ったガキ大将が顔を真っ赤にしながら言う。
その瞬間ニルと晴太を囲んでいた子供たちが一斉に襲い掛かって来た。
「あ、危ない!ニルちゃん!」
だがニルはそれを全て鉄拳制裁する。
威力は抑え目にしたが、お灸をすえると共にニルの殴られた子供たちは数メートル地面を滑って気絶する。
「ひいいいい!?な、なんだお前えええ!」
「女だからなんだ?女がいつ弱いと思った?面白いことを言ってくれる」
ニルはいつも通り意地の悪い笑みを浮かべる。腕を組んで隣にいる晴太へ視線を投げる。
「後はお前がやれ。お前がこのいじめに終止符を打て」
「う、うん!ぼ、僕のおもちゃを返せええええええええ!」
「ひいいいい!げふううう!」
晴太は勢いよく走りだし、ガキ大将へ駆けて行く。そして晴太の貧弱ながら魂の籠った拳はガキ大将の鼻に当たり、鼻血を出してガキ大将は倒れた。
そして晴太は自分のラジコンと車を取り戻し、ニルへ笑顔を向けた。
ニルもにやりと笑い、帰ろうとした時地響きが聞こえた。
「む……これは大きいな」
「え?じ、地震!?」
「晴太。逃げろ。魔物だ。それも相当大きい」
「ええええええ!?ま、魔物!?それも大きい!?ぼ、僕たち食べられちゃうよおおお!」
「ええい!黙れ!」
「で、でもニルちゃん。こいつら置いて行ったら…」
「食べられるだろうな」
地面で伸びている悪がきを指差して晴太はニルに問うが、ニルはあっさりと答える。
「やっぱり食べられちゃうんだあああああ!」
「だから逃げろと言っているだろう」
「ニルちゃん置いて逃げられないよ!」
「泣き虫が…!ちっ!仕方ない、ここで戦うしかないか」
「えええええええ!?た、たたたた戦うの!?」
晴太の嘆きに似た声と共に樹木を倒しながら魔物が現れた。
全長は4m弱のワイルドオーガだ。こいつは以前にも林間学校時に現れたが、あれよりサイズが大きい。
「くっくっく。このオレを食う気か。面白い。晴太、そいつらを退かして離れていろ」
「わ、分かった!!」
ワイルドオーガは秘密基地を踏みつぶしながらゆっくりと棍棒を舐めまわしながら近づいてくる。
「ヒサビザ ノ ニンゲン ウマソウ」
「低能が。誰に言っている」
ニルの身体が黒い炎に包まれると、ニルは龍の姿に戻る。
「ウオオオオオアアアア!」
「えええええええええええええええ!」
晴太の絶叫もなかなか負けていなかった。
いきなり龍が現れた事に怯んだワイルドオーガの顔面にニルの拳が炸裂した。
遠くまで飛ばすと、ニルはそれを追撃にしに行く。晴太の口は開いたまま閉じることはなかった。
「ちっ……ここで火を使った山火事になるか……ヴリトラなら問題ないのだが…」
ワイルドオーガを殴りつけながら考える。もはや一方的な虐殺になっているが、当たり前だ。Cランクの魔物とSランクの魔物が敵う通りがない。
「む、上に打ちあげてそこで消滅させればいいか」
ニルはもはや虫の息のワイルドオーガを片手で空中に放り投げると、そこへカオスブレスを放った。
夕日の空に黒炎が立ち上った。
「こんなものか。さて、そろそろご飯の時間だな。マスターが心配する前に帰らなくては」
「き、君は何者!?」
「晴太、まだ帰っていなかったのか。お前の親が心配しているのではないのか?」
「そ、それは大丈夫!」
「オレは魔物だ。オレは魔術師のパートナーであり、世界に2体しか存在しない龍だ。そしてここは危険だから公園まで特別に送ってやろう」
「うおあああ!?」
晴太の返事を待たずにニルは晴太を掴み、ついでに悪がきたちも掴んで空へ飛んだ。
公園に降りると、まだ子供たちは残っており、突然降りてきたニルにびっくりする親子もいたが、彼女の知った事ではない。
「じゃあな。オレのマスターが心配するから早く帰らなくては」
人間の姿に戻ったニルはアイスでも買って帰ろうと考えているときに晴太に呼び止められた。
「待って!」
ニルは若干不機嫌になりがらも振り返る。
「ありがとう!ニルちゃんに会えなかったら僕はいつまでも泣き虫だったよ!君のおかげでちょっと強くなれた気がする!」
「ふん、ガキが。次会う時はその七三分けをどうにかしてこい。キモくてかなわん」
「うえええええ!?こ、これはママがセットした髪型で僕じゃないよおおお!」
ニルは背を向けながら公園を去って行く。嫌われたと思っている晴太に対してニルは若干笑っていたりしなかったり。
ニルの身長と人間の姿で歩くことからこういうエピソードが出来上がりました。
ヴリトラはちょっと厳しいので(というか無理)ニルだけのエクストラエピソードですね。あまり本編ばかり進めるのも飽きられるというか、私自身飽きてしまうのでこういう気分転換に書いてみるのもいいですね。




