偵察任務
「間もなく千島列島に着きます。舞香さん、準備よろしくお願いします」
「分かっているわよ」
「うわぁ……うじゃうじゃいるね~……」
「なかなかの光景ではないか」
「笑っている場合じゃないよ!」
朝方、紘一はまだ眠いのか、瞼をこすりながら船の先で千島列島を見据える舞香に呼びかけた。
瑠璃は空を飛ぶ翼龍種を見ながら嫌そうに言い、神龍はどこがおもしろいのか分からないが、笑いながら言って見せる。
「グガァアアア!!」
「水龍種もいっぱいね。当たりなどしたら幻術解けるわよ」
「う、うっす!」
海を泳ぐ水龍種を見て舞香は紘一へ指示を出す。
「昨日ラジオで言っていたけれど、日本の攻撃に合わせて米軍も協力してくれるそうよ」
「無駄死にだ」
「まぁ、そうね」
神龍がそうあっさりと答えて舞香もため息を吐きだす。
「む?まずいな」
「舞香、戦闘準備を」
今まで気楽そうに酒を飲んでいた神龍が立ち上がり、舞香の頭で寝ていた小龍のリアが目を覚ます。
「どういうことかしら」
「インドラがいる。あやつの前では幻術は無意味だ」
「太陽の光は邪を払い、真実を見せる。太陽龍の目は誤魔化せません」
舞香達が上陸する海岸に光り輝く黄金の龍が仁王立ちして待っていた。
ニルよりも大きいその龍は、雄叫びを上げた。
「まずい!幻術を剥がされたぞ!」
「リア!戦闘準備よ!」
「はい!」
「神龍もお願い!」
「グランベス!なんとしてでもこの船を守るぞ!」
「了解だ」
リアは人間の姿になって海へ飛び込み、神龍も空から襲来する翼龍種と戦い始めた。
舵を握る紘一は隣にいるグランベスに指示を出すと、彼女は最大顕現して空へ飛び立つ。
「フンババ!ケロちゃん達が戦いやすいように巨大な樹を作りなさい!」
舞香は鍵を取り外しながらフンババへそう命じる。
現れた森の番人は海面に拳を叩きつけると轟音と共に海底から巨大な樹木が出現した。
翼龍達が一斉に樹を燃やすためにブレスを放つが、フンババが生成した樹は全く燃えないどころか、枝を鞭のように振るって空中の翼龍種を海面へ叩きつけた。
「行きなさい!ケロちゃん!ヘルちゃん!ダハーカ達も暴れなさい!」
鍵から現実世界を見ていたケルベロス達は現れるなり樹木へ飛び移り、空の龍達を制圧しに向かう。
「グリンデルは私達の護衛よ。もしかするとインドラと戦って貰うかもしれないわ」
「嫌なくじを引いたもんだぜ。まさか最強の龍族とやり合うようになるとはな」
「あら、テンション低いわね」
「けっ!」
リアは流石と言うべきか、海に何体の水龍種がいるのか分からないが、こちらの船に水龍種が襲ってこない事からたった1体で全ての水龍種を相手していることになる。
「衝撃に備えてください!速度を落としている暇なんてないっす!」
「いいわよ!ストッパーは私がやるわ!そのまま浜辺に突っ込みなさい!」
「お願いします!」
紘一は浜辺を目前にして更に速度を上げた。
舞香は右手を前に突き出し、船の前方へ網状の障壁を生み出す。
ゴォオオオオオ――――!!!!
砂浜を滑る音がする。
衝撃が収まり、紘一は目を開ける。
「グルルル…!」
何とそこにはグリンデルと黄金の龍ががっしりとお互いの手を掴んで組み合っていた。
「何故誇り高き龍族が人間に味方をする」
「そっちの方が楽しいからなァ」
グリンデルの翼はいつの間にか白い天使の翼へ変わっており、頭には天使の輪っかが浮かんでいる。
「紘一!何を呆けているの!早くグランベスを加勢させなさい!グリンデルがもたないわ!」
「は、はい!グランベス!!」
力負けしつつあるグリンデルを見て紘一は空で戦っていたグランベスを呼び戻す。
「む?!」
「私も混ぜて貰おう」
「ほう、宝石岩龍か」
組み合っていたグリンデルも構わずに宝石剣を振り下ろしたグランベスに2体は慌てて離れる。
「お前、どっちの味方だよ」
「私は紘一の味方だ」
「答えになってねえよ」
翼を広げるグリンデルと大剣を両手で握り直すグランベスにインドラの翼は赤く燃える。
「人間に組みすると言うのであれば、もはや貴様らは誇り高き龍族ではない」
「おい舞香!サンシャインだ!早く後ろに隠れろ!」
「こっちは転移術式生成してんのよ!?動けるわけないでしょうが!」
「ちぃ!」
「紘一!私達の出番だ!」
「分かった!ユニゾン!!」
紘一はグランベスとユニゾンをするなり、グリンデル達を庇うように前で出る。
「喰らうがいい!」
太陽の力を取り込んだ光り輝く翼から凄まじい熱風が放たれた。
「おおおおおおおお!!!!」
紘一は何重にもオリハルコンの壁を生み出してサンシャインを防ぎにかかる。
一つの壁が溶けたとしてもまた次の壁が防ぎにかかり、紘一は何度でも壁を生み出し続ける。
「神龍!ゴッドブレス!」
「グバァアアア!!」
空の龍達と戦っていた瑠璃が海岸にいるインドラへブレスを放つよう指示を出す。
「なに!?」
今まさに熱風を浴びせ続けていたインドラの翼に黄色い閃光が翼を貫く。
「オラァ!!!」
「ぐう!!」
サンシャインが止まった瞬間にグリンデルは紘一が生成した壁から飛び出して、インドラの顔を思いっきり殴りつけた。
「おのれ神龍!私の翼をよくも!!」
「ふはははは!太陽の加護を受ける貴様でも攻撃中は脆いものよな!」
「舞香さん!あとどれくらいですか!?」
「あともう少しよ!」
「人間、貴様ら何をしている!」
「教えてやるかよ」
「ならば力ずくで聞きだすまで!」
インドラの身体から黄色い粒子が浮かび始める。
「やる気になったみたいだな」
「私はバハムートの右腕だ。貴様ら一介の邪龍如きに後れを取るような龍ではない」
「あいつしか出てこないって事は、まだ名付きがいないって事だ。案外楽に終わりそうかもな」
「いや、それはどうだろうな」
紘一の言葉にグリンデルが答える。
「オレは感じるぜ。あっちにうじゃうじゃ名付きがいる感じがな」
「……早く終わらせて帰ろう…」
「それがいい」
『来るぞ!』
紘一とグリンデルは左右に飛んだ。
そこへ先ほどとは段違いの速度で飛び込んできたインドラがグリンデルの方へ向き、真紅のブレスを放つ。
「ぐお!?」
「おおおお!」
グリンデルが攻撃された瞬間を見逃さず、紘一は身の丈よりも巨大な大剣をインドラの背中へ振り降ろす。
だが、インドラは軽く尻尾を振るだけで紘一を突き飛ばし、小さく雄叫びを上げた瞬間紘一の足元が爆発した。
「ぐあああああ!?」
『紘一大丈夫か!?』
「術式生成何てしてなかったら私も戦っていたのに…!」
「大丈夫だ。俺は硬さだけが売りだからな」
「へ、力を解放した瞬間動きがよくなりやがった」
「グリンデル、左右同時に仕掛けるぞ!」
「てめえに命令されるのは癪だが、インドラの前でそうも言っていられないか!」
「ふっ、甘いな」
「なッ!?」
紘一とグリンデルの挟撃が当たる瞬間、インドラの姿は掻き消え、空中から炎の雨が降り注ぐ。
「くそ!」
紘一は咄嗟に壁を生み出してグリンデルも守ったが、インドラは尾を叩きつけただけで壁を壊してしまった。
「身体ががら空きだ」
「やば―――」
地上に降り立ったインドラは尻尾を鞭のように振るって紘一を海まで弾き飛ばす。
「しっかりしなさい!」
「す、すみません…」
このまま人間水切りをしそうになった紘一を、舞香は片手で転移術式を作りながらもう片方で紘一を受け止める障壁を生み出して見せた。
「紘一、術式は完成したわ。皆を集めなさい」
「りょ、了解っす…!」
ボロボロの身体に鞭を打って紘一は空中へブレスを放った。
「撤退の合図だね!神龍!」
「うむ!ケルベロス達よ!撤退だ!」
「神龍、クルーザーも転移術式に入れてくれないかな……私のギターが…」
「ふっ、分かっている」
「ありがと」
まず先に神龍と瑠璃がクルーザーと共に術式の中へ消えて行った。
「あなた、よくも私の可愛い眷属を苛めてくれたわね」
「人間、今の私に敵うとでも言うのか?」
「今回はちょっと偵察のつもりだったのだけれど、私のイライラが収まらないから、一発殴らせて貰うわ。まずはリア」
瑠璃が術式の中へ消えて行った事を確認した舞香は、砂浜を歩きながらインドラへ近づく。
そして舞香が指を鳴らすと空間からリアがインドラ四肢に噛みつく。
「ぐおお!?」
「ケロちゃん」
「ガウウウ!」
そこへケルベロスが首へ噛みつき。
「ヘルちゃん」
更にヘルハウンドも続く。
「フンババ」
「ブオオオ!」
フンババが生み出した聖なる樹木がインドラへ絡みつく。
「ダハーカ」
「運がなかったな、インドラよ」
「ぬうううう!!」
アジダハーカが全ての首から集めて収束させた暗黒のブレスを放つ。
そしてブレスが直撃したインドラの身体に黒い紋様が浮かび上がった。
「最後にリンデ。今までのお礼をしてあげなさい」
「はッ!分かっているご主人で助かったよ!」
天使の翼と輪っかが輝きだし、グリンデルは空高く舞い上がる。
「これが龍殺し爪だァアアア!!」
「ぬおおおおおおお!?」
肩から引き裂かれたインドラは絶叫を上げるしかなかった。
天使の攻撃は龍族にとって忌むべきものだ。それを取り込んだグリンデルは天使の力を扱えるようになり、龍族に対して圧倒的な特攻を得られるようになった。
インドラの太陽の鎧すら貫通する龍殺しはインドラに致命的な傷を負わせた。
「さぁ、帰るわよ!紘一!」
「は、はい!」
「貴様らぁぁあ!!絶対に許さんぞおおおおお!!!!」
舞香達が消え去った海岸でインドラは地を震わせる雄叫びを上げた。
どうも、また太びです。
学校が始まってしまったのと、ランゲージバトルの執筆を両立出来ないでいました。
待っていてくださる方には本当に申し訳ありませんでした。
さてさて、今回はやっぱり舞香無双でしたね。
舞香たちの世界に来たことによって本来の力を制限されているインドラ達ですが、流石にリア達の猛攻を防ぐことは出来なかったようですね。
まだ彼らがこの世界に馴染んでいない、というのもありますが、それでも舞香の潜在能力は折り紙つきです。
いや~本当に紅哉くんは妹に勝つ日が来るのでしょうかね。




