すれ違う聖龍と邪龍
「今回は良い場所に来れましたね」
「ここはどこの屋上だ……」
「ここはアヴェンジャーズが密かに経営している民間企業です。他にもこういうビルがたくさんありますが、大体中身は似たようなものです」
「資金の出所が見えて来たぞ……」
綾香に説明されながら建物の中に入ると、普通にサラリーマンが働いていた。
忙しなく働いている社員たちは、綾香の姿を見ると笑顔で手を振ってくる。
綾香もそれに手で振って応え、紘一は慕われているな、と感じた。
綾香だけではない。紘一は江ノ島、お菊、沖田、葉隠たちも部下に慕われていて、江ノ島と葉隠は部下と混じって麻雀などしていた。
お菊専用の部屋は和室であり、そこでは大勢に人たちが将棋をしている異様な光景も見られた。
沖田は純粋に頼りがいのある人と言った所で、書類の分からない点は全て沖田に聞きに行っている姿も数々あった。
実際紘一はもっと荒れた場所だと思っていたのだ。
現実から認められなくて流れてくるならず者の集まりだと。
しかし、皆こんな場所でも必死に働いていて、尚且つ笑顔が溢れていた。
自分がいる場所は犯罪組織だけれども、社会を変えようとする意思の強さは誰にも負けない、そんな気持ちを紘一はひしひしと感じた。
何となく生きている魔術師にこの人達の爪の垢を飲ませてやりたいと思うほどに、この人達は生き苦しくなった世の中でも強く生きていたのだ。
紘一が驚いた事は、有能力者がこの組織にもいた事だった。
幹部の綾香、お菊、葉隠も相当な実力者だったが、それでも無能力者の中に有能力者が混じっている事に驚きを隠せなかった。
喧嘩が起きたりするのだろうかと思ったが、そんな事はないとある一人は答えた。
「確かに俺はE判定の無能力者だけどよ。一度も仲間を妬んだりしたことはねぇ。こいつらがいなかったら突破出来ないところも数多くあるし、何よりこんな俺達にも簡単な魔術を教えてくれたんだよ」
そう言って彼は中学校で習う初歩の魔術を紘一に見せた。
「実践では使えないけどよ。おらぁ嬉しかったね。今までダメだと諦めていた魔術が使えたんだ。基本の魔術だけど、俺は嬉しかった。誰だって努力すれば魔術が使えるんだと。そんとき俺は思ったね」
その嬉しそうな中年の男の顔は紘一の胸に強く焼きついた。
ここに来るまで相当社会を憎んだことだろう。だが、それがあっという間に消えたのだ。
憎しみを喜びに変えることは出来る。この問題を根気よくやり続ければ章仁が目的とする目標が実現できるかもしれない。
紘一はその気持ちが如実に強くなっていくのを感じた。
「どうしたんですか?なんだか嬉しそうな顔をしていますが」
「あ、いや、章仁さんが掲げた目標は、少しずつだけど無能力者の人達を救って行っているんだなって」
「そうですね。ここ最近お菊さんが部下の皆さんに魔術を教えているんですよ。皆さん頑張って勉強しているんです」
「へぇ、だからお菊さんあんなに慕われているのか」
「それだけじゃありませんけどね。お菊さんは面倒見がいい人ですから」
「だな。俺の事も救ってくれた恩人だし」
東京の街を歩く二人は駅を目指していた。
岡山とは明らかに違う人の数に驚く紘一だったが、隣で平然と歩いている綾香に笑われないよう顔には出さない。
「秋葉、でしたよね?知佳さんとは久しぶりなんですよね」
「知佳に会うのはホント久しぶりだな。あの時は小学生だったからちょっとは成長しているといいけど」
紘一の隣を歩くグランベスは東京の街をキョロキョロと見渡していた。
綾香とお菊に仕立てて貰った服を着てご満悦のようだ。
「ひ、人が多いな。人類とはここまで増えるものなのか」
「そりゃ増えるだろ……」
人類が生み出した建造物を興味深そうに見ているグランベスに紘一と綾香は笑って見守っていた。
その時、彼らが歩く先にある人物が歩いていた。
「おい舞香!いくつ買うんだ!流石に持てなくなってきたぞ!」
「お兄様もうちょっと頑張って……あと3軒回るから…」
「嘘…だろ…?」
「くっくっく。さぁ荷物持ちとして頑張れマスター。あぁ、もちろんオレは手伝わんぞ」
「ニル、いい話があるんだが……」
「ふっ、オレに何を言っても無駄だぞ。その手の交渉事には――――」
「アイス買ってやるから持て」
「いいだろう!さぁ来い舞香!いくらでも持ってやるぞ!」
「うわ、驚くほどに扱いやすいな……」
そして両者は交差した。
「おい紘一、あれは何と言うのだ?」
「えっと、901だよ。服を主に取り扱っていたかな?」
「くっくっく。何を食べようか悩むではないか」
「あ~ほどほどにしろよ。今月セレナに小遣いを制限されて余り使えないんだ」
『む…?この龍の気配…ニルか…?』
『まさか…な……いや、あいつならもしかすると…』
気付いたのは2体の龍だけだった。
だが、人混みが多く姿を見つける事は出来ない。
『まぁ、いずれ出会うだろう。それまで楽しみにしておくぞ、ニル』
『グランがいるとすれば……くっくっく、なかなか面白い事になりそうだ』
「紘一、次はあれだ」
「え?あれ…どこだ…?マジで俺東京に住んでいないから、何があるかよく分からないんだけど…」
「あれは普通に工事現場ですよ……何が出来るのかまだ分かりませんが」
「マスター!帰りのアイスは覚悟しておけよ!」
「あ~これは俺の財布がなくなるパターンだな……」
2体の龍は不敵な笑みを浮かべてすれ違って行った。
出会うのはまだ早い。そう残して。
この頃の後書きが全く本編に触れずに私が書きたいことを書きまくっているだけで終わっていますね。
つまり、何を書いたらいいのか分からないという事でして、あぁ、これも毎回書いている気がするううううう。
どうですか、うまい感じに字を稼げているでしょう?(ドヤ顔
では、そろそろ真面目に………さて、今回は紅哉君と紘一君のダブル登場です。
実際に会話などしていませんし、お互い顔も見てませんが、ニルとグランだけは存在を認識したようですね。
本編に書いていませんが、実はリアとヴリトラもグランの存在を認識しました。
リアが知るという事は他のグリンデルとダハーカも知るという事でして、あと知らないのは神龍だけですね。




