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龍の血を引く者  作者: また太び
10章 龍族の侵略
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未知の技術と尊敬する人

カタカタと汗を流しながらアイリと遊佐はパソコンを操作していた。

部屋には巨大なスーパーコンピューターが設置されており、スパコンの熱暴走を防ぐためにもエアコン5台と部屋の四隅に置かれた扇風機がフルに活動してもなお部屋の温度は外の気温と何ら変わらない。


未来から送られてきた設計図は、アイリが見たこともない未知の技術オーバーテクノロジーが豊富に使われていた。そのためアイリと遊佐は凄まじい勢いで現代にある物で再現する事は出来ないか探り、早速装置を作成するにあたっての考えをまとめていた。



「アイリさん、少しいいでしょうか」


「お、出来た?見せて見せて!」



印刷した資料を受け取ったアイリは一端手を止めて遊佐が持ってきた紙に目を通す。

読まれている遊佐に至っては表情に出さないもの、かの有名な四条アイリに自分の論文を読まれているという緊張で心臓が破裂してしまいそうだ。



「ん~………これからアイリの助手に短期的にもなるって事だから厳しめに質問して行くよ」


「はい…」



ゴクリと生唾を呑み込むと、アイリは手を顎に当てながら遊佐に質問を口にした。



「アイリ言ったよね。未来のアイリと遊佐ちゃんが考えた未知の技術オーバーテクノロジーは現代では到底追いついていないってこと」


「はい、おっしゃられました」


「んじゃ、それを踏まえて言うけど、まず龍のオーラ相殺システムをどのくらいの規模になるか、そこはどう考えているの?未来のアイリ達は縦6センチ、横5センチの小さな携帯になるって書いてあるけど、到底このサイズに収まるとは思えないよ」


「私の予想としては巨大な装置になると思われます。そうですね、例えるのならばテレビ局にあるような大きなパラボナアンテナでしょうか」


「へぇ、紅哉君たちには携帯させないって事なの?」



アイリは遊佐の考えを興味深そうに聞いている。



「はい。先ほどアイリさんがおっしゃられたように、現代の技術では小型化の実装など不可能だと思われます。ですが、量産は難しくとも一つは作れるはずです。そこで私は佐鳥先生とセレナさんが今も世界中の神の遺産を集めている事に着目しました」


「なるほど……アイリもね、この装置を作っている時にコアとなる龍のオーラを収めておく核が必要になる事くらいは容易に分かってたんだけど、龍の凄まじいオーラを抑え込んでいられる物が今の人類ではどう足掻いても作れない。そこで遊佐ちゃんの言う、セレナお姉ちゃんと佐鳥さんが集めている神の遺産を一つ頂戴する事でこのコアの部分を補うっていう考えはいいね」


「他力本願になってしまいますが、あのお二人ならきっと神の遺産を持ち帰ってくれるはずです」


「それを祈るしかないね」



アイリはそこで『よし!』と言うと、紙を遊佐に返した。



「アイリもそれでいいと思うよ!結構無茶なもん作らせる未来のアイリにガツンと何か言いたいけど、その原案を元に実現化を更に詰めて行こうか!機材発注は既にアイリが済ませてるから、後はアイリの家にいる人たちが作ってくれる。アイリ達はこの論文をもっと分かりやすく、そして無駄な箇所を省いてもう一つの課題に取りかからないといけない。分かるよね」


「もちろんです。むしろそちらの方が本命なのでは?」


「だね~。これがもし出来たらノーベル賞ものだけど、生憎行き帰りの使い捨てタイプで作る予定だから発表は出来そうにないね」


「私の卒論にしたいところです」


「ふふ、そんなの書いたら世間は大騒ぎだよ。まぁまぁ、とにかくこれが出来たとして、もし動いたら紅哉君たちの力になる事は確実。むしろ勝利に貢献するくらい凄いかもね!」


「紅哉さん達には黙っているので?」


「今のところはそうだね。出来るかどうか怪しいから、直前まで知らせない方がいいかな。アイリも今頑張ってるから、遊佐ちゃんはオーラ相殺装置お願いね」


「分かりました。では、引き続き」


「うん、お願いね!」



遊佐は一つ息を吐くと、再びパソコンの画面と向き合った。

まだまだ修正する点は多い。アイリは自分の事を褒めてくれたが、実際読んでいる最中に眉を寄せるところを何度も見受けれた。

本人は意識してないつもりかもしれないが、遊佐は自分がまだまだ青臭い高校生だと言う事を身を持って知らされた瞬間だった。

天才の顔を笑顔に出来る日が来るのか、遊佐はそれだけが気がかりのまま手をキーボードに這わせる。


もっと煮詰めなくてはならない。

直すべき個所はまだまだある。それをいちいちアイリに聞いていては助手失格だ。

自分も変わらねばならない時が来ている。その事実を遊佐はパソコンのキーを高速で叩きながら実感していた。



「一つ遊佐ちゃんに言っておこうか」


「はい?」


「短期的にとは言え、アイリと遊佐ちゃんは今コンビを組んでいるわけだよね」


「そう、ですね」


「だから、何でも聞いていいよ。遊佐ちゃんが高校生って言う事は百も承知。それにこの開発はアイリ達の未来が掛かっている。くだらないプライドなんか捨てて二人で一つの物を作って行こうよ」



アイリは部屋の中央に置かれた巨大なテーブルに紙を広げて図面を描きながらそう言った。

白衣を纏い、大きな定規を持つアイリはまさしく研究者そのもので遊佐が憧れていた彼女の姿がそこにはあった。


遊佐が翡翠に入った理由は俊介しか知らない。

俊介は幼い頃からの付き合いであり、馬鹿な彼に勉強を教えて中学のテストを何度も乗り切ってきた思い出がある。

そんな彼とも中学で付き合いが終わるかと思えば、なんと彼は自分も翡翠に行くと言った時は本当に驚いた。


苦笑しながらも毎日遊佐の家に来て勉強を必死に教わる彼が本気で翡翠に行くつもりなのかと半信半疑だったが、彼が勉強する姿を見て本気だと言う事に気付いた。


遊佐は成績優秀、要塞崩しも珍しい通信役という強みから翡翠の推薦枠を余裕で勝ち取る事は誰もが分かっていた。

そんなある日、いつも通り遊佐の家に来た俊介がこう言った。



「遊佐さんってなんで翡翠に行くの?もっといい化学魔術の学校あったじゃん」



誰にも自分の想いを語らず、先生にも親にすらも『ただ良い学校に行きたいから』と簡単に済ませてきたのだが、俊介だけには言っていいかな、とその時何の気まぐれか、言ってしまったのだ。



「私の尊敬する人が翡翠に通っていたからですよ」


「へぇ~?遊佐さんが尊敬する人か。そいつはさぞや頭がいい人なんだろうな」


「ええ、天才ですから。四条アイリさんって言う人です」


「お?俺テレビで見た事あるような?」


「昔世界初最年少でノーベル化学賞を取った人ですからね。それが私と少し歳が違うだけという事実が信じられなくて、それでその人の後を追いたいのです。彼女がどんなものを見て、そしてその身に吸収して行ったのか」


「なんだ?助手にでもなるのか?」


「私がですか?まさか、ただ優秀な程度で終わる私が助手になどなれるはずがありませんよ」


「いや~?人生どうなるか分からないぜ?」


「まぁ、夢くらいは見ていいでしょうね」



今思えば数奇な運命だ。

翡翠に入学し、豊姫と翡翠初めての友達になり、そして俊介が連れてきた紅哉。

いつもこの4人でつるんで歩き、たまには紅哉の妹である舞香も加わる。

それが今ではこんなにも壮大な運命の中心に自分も立っていることに最近になってようやく気付いた。

地味に過ごして週末と月末の電化製品値引きセールに出かけるくらいの自分がまさかこんな事に巻き込まれるとは過去の自分は夢にも思わないだろう。


でも、何故だろうか。

これから人類の危機が訪れるというのに全く恐怖というものが沸かない。

むしろそんな逆境ですら跳ね返してしまおう!という心の勢いを感じる。


自分たちならば出来る。


この感情が今の遊佐を突き動かしていた。



「はい。では、この場所なのですが――――……」



図面を描くアイリに修正した資料を持っていく遊佐の表情は相変わらず無表情だが、どこか生き生きしたものをアイリは感じていた。


まだまだ研究者として名乗れてすらいない高校生が自分に意見してくる。それがアイリにとってたまらなく嬉しいもので、つい自分も反論していつの間にか論戦になってしまう事もある。

自分の言ったことをちゃんと理解した上で自分の意見を口にする遊佐は、アイリが認めるほど優秀な研究者の卵だった。


アイリは助手など取る気はなかった。

むしろ邪魔だとすら思っていたが、やはり意見をお互いに口にするというディスカッションの必要性が大切だと今更ながら気付かされた。



『この子ならもしくは………』



アイリは目の前で自分の資料と睨めっこする遊佐の才能を見出しつつあった。


遊佐の回でした今回。いつも謎めいていた遊佐ちゃんの過去の姿がどんなものか、皆さんに知って貰いたく書きました。

本当のところは開発する物をペラペラ喋って終わりにしたかったのですが、余りにも尺が余ってしまい、良い機会だと思って遊佐ちゃんの話をぶっこみました。

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