第1話 篝、幼馴染の結婚式招待状を受け取る
王都の朝は、いつも忙しい。
侍女たちの軽い足音、厨房から響く鍋の音、遠くで聞こえる騎士たちの訓練の掛け声。
その喧騒の中で、私はひとり、深いため息をついていた。
私の部屋は、仕えているお嬢様──侯爵家の長女シア様──の部屋のすぐ前にある。
アンティーク調の家具が並び、辺境に住む母が作ってくれた便利な魔道具があちこちに置かれた、少し不思議で温かい空間だ。
机の上には、一通の封筒。
先ほど食堂で、同じ使用人から「辺境からの手紙です」と渡されたものだ。
差出人は──
**「朝比奈 透馬・水瀬 佳乃」**
幼馴染ふたりの名前が、仲良く並んでいた。
私は封を切り、震える指で中身を取り出す。
> 『結婚式にぜひ来てください。
> 篝さんが来てくれたら嬉しいです。
> 佳乃より』
……ああ、そう。
そう来たのね。
胸の奥が、じんわりと痛む。
透馬は、子どもの頃に私と口約束をした相手。
「篝が王都から帰ってきたら迎えに行く」
そう言って笑った、あの夏の日。
佳乃は、私に懐いていた五歳下の妹分。
でも、昔から透馬が好きだった。
そして私は──
王都で侍女として働き詰めで、村に帰る余裕もなかった。
気づいたら、
**ふたりは結婚していた。**
「……あれ。約束は?」
ぽつりと漏れた声は、誰にも届かない。
いや、届かなくていい。
こんな弱音、誰にも聞かれたくない。
私は侍女。
侯爵家の長女、**シア・フォン・アルベルト**様に仕える身だ。
そして今日、シア様は婚約者である
**第二王子アレクシス・フォン・ヴァレンシュタイン**殿下に会いに行く。
私はその同行役。
ため息を飲み込み、招待状を机に置いた。
部屋の隅に置いてある魔道具に、水差しから水を注ぐ。
母が作った“自動湯沸かし器”は、魔力を通すとすぐに湯気を立て始めた。
無意識に、好みの紅茶缶からひとさじすくってカップに入れる。
沸いたお湯を注ぐと、ふわりと香りが広がった。
(……あと少ししたら、シア様に声を掛けに行かないと)
紅茶をひと口飲んでから、部屋の鏡の前に立つ。
黒髪を手早くアップにまとめ、侍女服の襟を整える。
深呼吸をひとつ。
そして私は、静かに部屋を出た。




