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魔法少女はニチアサ展開に付き合いたくないって話。  作者: 暁真
第三部 魔法少女を貫き通すって話。
56/60

壊す壺の価値は丁寧に説明しようって話。



『どう?何か思い出せた?』

『……なにも。なにも、わからない』

『身体は治ったのにダメか……遺伝子検査も該当なしだったし』

『……ねえ』

『どうしたの?』

『わたしは……これから、どうなるの?』


 どうもこの2人はレムスさん……ううん、弍乃さんを見つけて保護した夫妻らしい。多分今の弍乃さんの親なんだろう。


『うーん、このままだと児童養護施設……君みたいな親の居ない子が居る場所に行くことになるけど……』

『私達の娘にしちゃダメなの?』

『いやそれは本人の……』

『いいよ』

『えっ』

『……しらないひとたちしかいないばしょにいくより、あなたたちといっしょのほうが、いい』

『ね?この子もそう言ってるしいいでしょ零弍?』

『ん、んんん……本当にいいのかい綾乃?君の身体は……』

『分かってるわ、それでも……困ってる子を放っておけないもの』

『……分かった。君もそれでいいんだね?』

『さっきいった』

『あはは……うん、そうだね。じゃあまず名前を決めなきゃな、君の名前は……』

『弍乃』

『早いな』

『零弍の弍と私の乃、合わせて弍乃、いいでしょ?』

『……にの?』

『そう、一宮弍乃。それが貴方の名前。嫌だった?』

『……ううん、それでいい』

『ありがとう、それじゃあこれからよろしくね、弍乃!』


 ……なんというか、すごいあっさりしてる。こういうのって子供側が色々ぐずったりするもんだと思ってたけど……いや、弍乃さんの中にうっすらレムスさんの意識が残ってたのかも?いやでも弍乃さんは記憶を失ってたって言ってたし……うーん。


「……わ、私は弍乃さんの事をこれからどう呼べば?お母さん?いやでも弍乃さんは母さんの記憶はありませんしそれに……」

「シルウィアさん落ち着いて……」


 目の前の女の子が弍乃さんだと理解したシルウィアさんは凄いあたふたしてる。いやまあ気持ちはわかるけど、わかるけども……今あたふたされると困る。私達は弍乃さんを取り戻しに来たんだ、彼女がレムス・ウヌスだったのは当然想定外な訳で……


「ひとまず先に進みましょう。此処からは弍乃さんの記憶です」

「は、はい……」


 とにかく今は早く進もう。あの人を知るために。














「クソッ、数だけ無駄に多いっ!」

「一体一体は簡単に対処されちゃうけどこれなら充分時間稼ぎはできるでしょう?時空加速(クロノアクセル)は自分たちで封じちゃってるし、ねぇ?」

「落ち着けテトラ!時間稼ぎ目的は此方も同じ!三重詠唱(トリプルコール)錬成(アルケマイズ)拡散(デュフュージョン)複製(ジェミニ)!」

「あーらいいのかしら?そいつら倒したらドカンといっちゃうわよ?盛大に、ね」

「それくらい想定済みだ!多少手傷を負ってもお前だけは逃さねぇよバッカス!」

「ふふ、ふふふ……そこまでお熱なのね、なら全部倒してみなさい?本気、出してあげるから」

「お山の大将も今日までだ、引き摺り下ろしてやるよ!二重詠唱(デュアルコール)閃熱(フレア)錬成(アルケマイズ)ッ!」











『弍乃はなんでもすぐ覚えるなぁ、もしかして天才って奴?』

『……分からないけど、一回見れば大体は覚える』

『私達からすれば充分天才だよ。きっと凄い人になるね……ケホッ』

『母さん?』

『綾乃……』

『ごめん、大丈夫……ちょっと薬飲んでくるね』


 ……弍乃さんのお母さん、綾乃さんは凄い身体が弱かったみたい。元気な時もあったようだけど基本はあまり動けなくて薬に頼ってどうにか、くらい。


『私達弍乃にはとっても感謝してるんだよ?』

『なんで?』

『ほら、その……私こんな身体だからさ。子供なんて産んだら一緒に死んじゃうし、零弍と一緒に子供を育てるなんて夢もまた夢だと思ってた。不謹慎かもしれないけど……あの日弍乃が空から落ちてきた時思ったの、これは運命だ、ってね』

『……案外私はコウノトリが運んできたのかもね』

『さ、流石にそれはないと思うなぁ……大丈夫?私ちゃんと弍乃のお母さんできてる?』

『うん、一緒に居ると楽しい。零弍も居るともっと楽しい』

『良かった……私これからも頑張るね、お母さん』


 そして弍乃さんはやっぱり不気味過ぎるほど大人しい。無機質というか、相手に合わせてる感じ。レムスさんだった頃はそこそこ人間味があったのになんで……いや、ロムルスさんの話を聞いた限りだと元々こうなのかな?


「……うーん、どう呼べばいいのでしょうか。お母さんの両親だからお祖父様とお祖母様?いやでも……」

「それはどうでもいいと思いますよシルウィアさん……」


 なんかシルウィアさんはシルウィアさんで未だに混乱してるし……この調子で本当に大丈夫なんだろうかって……う、うん?


「シルウィアさん、此処って……」

「三葉さん何を……あ」


 側から見ても凄く幸せそうな家族の記憶を抜けた先にあったのは……葬儀場。


『……父さん』

『弍乃』

『私は……お母さんの良い子供で居れたかな?』

『それを決めるのは弍乃じゃないし、僕でもない、ましてや綾乃でもないよ』

『ならどう決めるの?』

『……それはね、一緒に居て、どれだけ幸せだったかで決まるんだ。幸せってことはそれだけ大切で、かけがえのない物なんだから』

『じゃあ、私は良い子じゃないね』

『……なんで、だい?』

『だって……』





『私、泣けないんだ。お母さんが死んだのに、大切だった筈なのに』

『……』

『大切な物がなくなったら悲しい。悲しかったら泣く。なのに……私は泣けてない』

『必ずしもそういうわけではないよ。ただ弍乃が……』

『違う。多分私は……大切だと思えてないんだ、何も』



「弍乃さん……」


 以前テルスさんがボロクソに貶していたのも理解できてしまう。この弍乃さんには確かな自分がないんだ、他人に合わせて喋るけどその本質はどこまでも虚無、人より機械と言われた方がまだ納得できてしまうほど。


「……父さんから聞いた母さんもこんな感じでした。無感情で無関心で、最低限のやるべきことしか考えてないって」

「ボ、ボロクソ……」


 記憶がなくなっても人の本質は変わらないものみたいだ……いやこれに関しては変わってもらわないとダメな本質だけども。


「行きましょう、此処から先は……」

「……はい」


 レムスさんの時とは違って弍乃さんの記憶はある程度知っている、重要なイベントの記憶まで駆け足して記憶の深層へとさらにダイブ。


「……なんというか、その」

「見事なまでに……ボッチですね」


 中学生までの弍乃さんは文字通りの1人きりだった。友人も居なければ話す人もいないしなんなら父親とすら最低限しか話さない、社会から1人だけ孤立したような生活。今のあの人もあの人で大概だけど流石にこれは正気の沙汰じゃない。


「これがどうしてああなってくれたのか……二美さん頑張ったよ本当……」

「そろそろです三葉さん。アルバムの通りなら……」

「……!」


 確か最初の写真は5年前の物、だったらそろそろ……


『……?』

『誰か……見てる?』

『……スマホ?』


 やっぱり来た。一瞬眠たげに空を見上げた後路地裏に落ちてたテルスさんを拾った時の……うん?


「なんで空なんか見て……」

「……確か弍乃さんはゲートの発生をテルスに頼らずとも感知できていました」

「そういえば。ファウヌスみたいにゲートが開くときの魔力を感知してる訳でもなさそうだし、ただの一般人なのになんで……」

「……仮定はありますが、今は重要ではないですね」

「いや話してくださいよ、これ何回目ですか……」


 懲りずに話を置いておこうとするシルウィアさんにちょっと呆れつつ今は記憶を辿る。弍乃さんはテルスさんと二美さんのデバイスを拾って……


『これは驚いた、言語体系が同じ世界に漂着するとは』

『……誰?通話中?』

『残念ながら不正解だ。私は君が持っているこのデバイスそのもの、と言った方が良い』

『……AI?』

『話が早くて助かる。私はテルス、この試作型魔術デバイス「カオスデバイス」の……』

『……っ、また……』

『もう追ってきたか……君、名前は!?』

『……一宮弍乃』

『分かった。弍乃、いきなりで申し訳ないが……少しだけ、力を貸して欲しい』

『力って……』

『非常時に付き適合者(デヴァイサー)限定認可。基本システムのラーニングを開始』


「え」

「テルス、貴方もでしたか……状況が状況とはいえ昔の2人はなんでこう極端なのか……」


 やっぱり生身でゲートを感知してるよなぁ弍乃さんって再度シルウィアさんに聞こうとしたらこれだ。ストッパーを装ってるけどテルスさんもテルスさんでだいぶ暴走特急だなぁ……


『……ラーニング完了、行けるな?』

『うん、あれから出てくる機獣(ヘカトンケイル)っていうのをどうにかすればいいんだね』

『そうだ……では、行くぞ!』

『……』


変身詠唱(チェンジコール)、ユノ』



「……思えば弍乃さんの適合率があの高さだったのも当然だったのですね。基準となった最初の適合者(デヴァイサー)……お母さん本人だったんですから」

「それでも78%なのやっぱり最適化(フォーマット)は大事なんですね……というかやっぱり弍乃さんが生身でゲートを感知できたの」

「エキドナさんが弍乃さんを知覚できたのと同じ理屈でしょう。身体を汚染していたティフォンの魔力とゲートの向こう側に存在するティフォンの本体が共鳴したんです」

「ああそういう……」


 じゃあティフォンの魔力が消え去った今は感知できないのかな、なんてことを弍乃さんの初戦闘を見ながら考える。色々制御できなくてぐだぐだだった私と違って弍乃さんは身体が覚えているのかなんなく機獣(ヘカトンケイル)を撃破してしまっている……なんかちょっと悔しい。


 

『状況終了、まさかここまで戦えるとは。まずは君に感謝を』

『別にいい……あれで終わりじゃないでしょ』

『そうだな、撃破された以上私を回収するために奴らはまた送り込んでくる筈だ。そして私の存在を知っている以上君もこのままでは狙われる事になるだろう』

『だったらしばらく私が持つ。それが1番合理的』

『……良いのか?』

『それが最適』

『そうか……すまない』


 これがあの2人の始まり。思ったより随分あっさりというか……弍乃さんのリアクションが極端に薄いせいか淡々と感じてしまう。これがああなったんだからほんと二美さん物凄い頑張ったよ……そうだ、二美さんはどの辺りで?


『あ、君もペア余っちゃったんだ。組む?いや組むというか私達しかいないけどさ』

『それしかない』

『まあそうだけど……よし、それじゃあこの授業だけかもしれないけどよろしく!私は十窯二美、君は?』

『一宮弍乃』

『じゃあよろしく弍乃ちゃん!とりあえずキャッチボールしよう!』

『距離が近い……』


 なんて思ってたら割と早い段階で出てきた。そこまで長い期間最初1人だった訳じゃなかったっぽい。私も言われたけどいきなり名前呼びって結構グイグイ距離詰めてるなこの人。


『……ねえ十窯さん』

『二美でいいよ二美で、何?』

『何というか……なんで帰り道もついてくるの?』

『ダメ?』

『理由を知りたい』

『君と仲良くなりたいから、じゃダメ?』

『理解できない、十窯さんには私以外にも多数の交友関係がある』

『そういう所がなーんかほっとけなくてさ……』

『……はあ』

『いや善意だからね!?変な事とか考えてな……あの、大丈夫?頭痛いの?』

『……十窯さん、逃げた方がいい、今すぐに』

『は、はい?』

『早く』


 ここまでやらないとダメなんだ……幾らなんでも頑固すぎるよこの人。筋金入りの面倒くさがりというか合理主義というか……


『な、なんか空が割れっ、ていうかあれ何!?此処アニメの中か何かなの!?』

『だから逃げてっていったの……テルス』

『ああ、行くぞ』

『いや弍乃ちゃんも一緒に逃げ』

変身詠唱(チェンジコール)、ユノ』

『……はいぃ!?』

『今回は2体同時だ、無理はするなよ』

『分かってる……十窯さん、早く安全な場所に』


 安全な場所に……行かなかったんだろうなぁこの人。ウェスタになってるって事は多分自分から首突っ込んで……


『っ……!』

『いかん、オーバーヒートだ!一度退却を』

『そうれぇぇぇぇぇ!!!!』

『え……』

『十窯二美!?何故……!』

『これ持ってなんとかなれって思ったら急に身体軽くなってさ!できるかなと思ったらできたっ!』

『ディーデバイス!?そうかあの時に……!』

『細かい事はよくわかんないけど私は友達見捨てて逃げるとかぜっったい嫌だから!とりあえず……こうやればいいんでしょ!変身方法チュートリアルがまさかのテレパシーとは思わなかったけど!』

『授業でペアになっただけ、なのに……?』

『十分でしょ!知り合いって事は友達!さあ行くよぶっつけ本番!』


変身詠唱(チェンジコード)ウェスタ(12)っ!』


「……二美さんとオルドの相性は抜群に良かったのでしょうね。普通持っただけで自動詠唱は行使できませんし、雑な思考だけで詠唱することも私からすれば考えられません」

「後半それ褒めてます?」

「褒めてるということにしておいてください……此処からは私たちも知っている記憶が多そうですね」

「そうですね……だから必要なのは」

「二美さんとの別れの記憶」


 共闘する2人の記憶を見終え、また歩を進める。次々流れてくる2人の思い出に少し顔が綻んだり、微妙に嫉妬しちゃったり。最高の友達、って感じで……だからこそ、なんで記憶を封印するまでの事になっちゃったのかが気になって。引越しと守るために分かれたというだけならわざわざ封じる必要もないし……


「……此処からが高校1年の夏休みくらい、かな?」

「ならもうすぐ……っ、ありました!」


 シルウィアさんが見つけた記憶で立ち止まり、描かれるのを待つ。あったのは……喫茶店で座り込む2人。


『ねえ弍乃、ちょっと大事……というか個人的な話があるんだけど』

『珍しいわね二美が言葉を濁すって、何かしら』

『ええっとそのね……』


 此処から先が……


『私ね、引っ越す事になったの』

『……え?』


 2人の、別れの記憶だ。


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